第1003話 オーガキングとの戦い

 心眼も使ってオーガキングを調べると、特別な能力を持っている事が分かった。眷属であるブルーオーガを召喚できるようだ。その事をメティスに伝える。


「ただブルーオーガを何匹召喚できるかが、分からない」

『もしかすると、魔王の可能性があるのでは?』

「五十匹以上の魔物を召喚したら魔王と認定か……勇者になんかなりたくないから、速攻で倒す」


 ダメージは初級治癒魔法薬を飲んだ事で回復していた。多機能防護服のスイッチを入れ、『ハイパーバリア』を発動してから中に入った。中はそれほど広くはなく、爆発系の威力が大きな魔法は使えそうにない。


 中に入った次の瞬間、オーガキングから凄まじい威圧が放たれる。それを受けて顔をしかめた俺は、挨拶代わりに連続で『クラッシュボール』を発動するとD粒子振動ボールをオーガキングに向けてばら撒いた。


 それに気付いたオーガキングは、手に持っている槍を薙ぎ払うように振った。すると、その後から竜巻が発生してD粒子振動ボールを巻き込んで消滅させた。


「あの槍も魔導武器か」

 そう言った時、オーガキングの動きが速くなった。オーガキングは素早さを五倍ほどに上げた場合と同等の速度で動いていた。俺も『アキレウスの指輪』に魔力を注ぎ込んで素早さを上げる。


 オーガキングより少し速く動けるように魔力の量を調節。そして、神剣ヴォルダリルを手に持って走り出した。空気が重く感じる。素早さが強化されて驚異的なスピードで動いている証拠なのでそのまま走る。剣が届く間合いに跳び込もうとした時、オーガキングが槍を突き出した。


 その穂先を横にステップして躱し、側面に回り込もうとすると槍が薙ぎ払うように追って来た。それを後ろに跳んで躱す。


 着地と同時に七重起動の『ハイブレード』を発動し、D粒子の長い刃をオーガキングに向かって振り下ろす。それをオーガキングが槍を使って受け流した。


 七重起動の『ハイブレード』は音速を超えているはずだ。それを槍で受け流されたのを見てオーガキングの技量が高いと感じた。素早さは俺が上なのに互角の戦いという事は、オーガキングの槍の技量が凄まじいのだろう。


 オーガキングが槍で薙ぎ払い、俺が下がると跳び込んできて突きを放つ。上半身を捻って穂先を躱し、オーガキングの懐に跳び込んでオーガキングの足に向かって剣を振る。オーガキングより素早い事が功を奏して切っ先がオーガキングの太腿を切り裂いた。


 オーガキングは鎧を着けていたのだが、神剣ヴォルダリルに対しては役に立たなかった。オーガキングは後方に大きく跳んで距離を取ると、身体から魔力を溢れ出す。


『ブルーオーガを召喚するつもりです』

 オーガキングが召喚を使うつもりだとメティスが気付いて注意した。俺は阻止しようと『黒神雷』の黒い稲妻を放つ。だが、一瞬遅く何もなかった場所にブルーオーガ三匹が召喚された。


 その中の一匹が俺の真正面に現れ、黒い稲妻が命中する。黒い火花が飛び散り、ブルーオーガの顔に苦痛と驚きの表情が浮かんだ。黒い稲妻はブルーオーガの身体を焼きながら上へと駆け上って上空へと消える。


 オーガキングは切られた傷を癒やすために下がり、残った二匹のブルーオーガが俺に襲い掛かってきた。


 ブルーオーガより俺の方が速いので、攻撃を躱してブルーオーガの首を刎ねる。そうしている間にオーガキングが次のブルーオーガを召喚。オーガキングは三匹ずつ魔力が尽きるまで何度でも召喚できるようだ。ブルーオーガの数が二桁になると、さすがに簡単に倒せなくなった。


 俺は『フラッシュムーブ』を使って大きく後ろに飛んだ。『アキレウスの指輪』に注ぎ込んでいる魔力を止めて素早さを元に戻すと、『ダークネスレイン』を発動し、一万五千発の黒炎弾をブルーオーガ目掛けて撃ち出す。


 時間がなかったので狙いは大雑把になったが、黒炎弾はブルーオーガの九匹を倒した。それから戦い方を変える。『予調戦闘法』に切り替え、魔法をメインとして戦い始めた。


 ゾーンに入って極限まで集中力を高めると無駄な動きを省く事でスピードアップし、心眼を使った未来予測しながら戦う。


 生き残った三匹のブルーオーガが一斉に走り寄って来た。俺は『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードで三匹を薙ぎ払うように切った。


 後方ではオーガキングがまたブルーオーガを召喚しようとしていた。召喚をやめさせるために『バーストショットガン』を発動して三十本の小型爆轟パイルを放つ。それに気付いたオーガキングは、召喚を中止して槍を振って竜巻を発生させた。


 小型爆轟パイルのほとんどが竜巻に巻き込まれて爆発。それを確認したオーガキングが走り出した。足の傷は回復しているようだ。


 素早さの強化をやめた俺の目には、それが凄まじい速さに見える。だが、【超速視覚】を使って動きを捉える事は可能である。


 予調戦闘法によりオーガキングの攻撃を予測。オーガキングの手から槍に魔力が流れ込んでいる点と動きから、あの竜巻を使う気だと予測した。オーガキングが槍を振った。その瞬間、竜巻が発生してこちらに向かって来る。予測していた俺は『カタパルト』を発動し、竜巻を避けてオーガキングの脇に飛んだ。


 最後は神剣ヴォルダリルで仕留めようと思い、オーガキングの左足に剣を振り下ろす。竜巻の攻撃に対してカウンターのような形で入った斬撃は、オーガキングの左足を斬り飛ばした。


 バランスを崩したオーガキングが倒れようとするところを下から斬り上げる。段違いの切れ味を持っている神剣ヴォルダリルの刃が、オーガキングの首に食い込んで切断した。


「ふうっ、何とか勝てた」

『お見事でした』

「ここがもう少し広ければ、もっと別な戦い方ができたんだが……まあいい」


 そう言っている間に、帰還ゲートがボス部屋の隅に現れた。高さが三メートルほどの楕円形をした転送ゲートである。但し、転送ゲートとは一つだけ違う点があった。ゲートの上の部分に数字が表示されていたのだ。それもカウントダウンしているように数字が減っている。


『急ぎましょう。あの帰還ゲートには、タイムリミットがあるようです』

「チッ、ダンジョンボスを倒した者にしか使わせないという事か」

 俺は急いでドロップ品を探し、透明な魔石と黄色の宝石、それに剣を発見して回収すると帰還ゲートを見た。後一分ほどしか残っていない。


『さあ、帰りましょう』

 俺は急かされるように帰還ゲートに飛び込んだ。


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