第1001話 窮地と好機
意識が途絶えていたのは一瞬だったようだ。気付くと百メートルほどの高さに岩の天井がある空間に倒れていた。立ち上がって周りを見回すと、ダンジョン内の荒野だった。
「あれはないだろ」
俺は宝箱に近付いただけで、触れてもいなかった。なのに、罠のスイッチが入るなんて……。思わず溜息が漏れた。
場所を調べるためにマルチ鑑定ゴーグルを取り出し、天井を鑑定する。すると『南禅ダンジョン最終層の天井』と表示された。
「最終層だと……ヤバイ」
もっと詳しく調べるとここが南禅ダンジョンの六十層だと分かった。南禅ダンジョンは四十三層までしか攻略されておらず、この最終層を見たのは、俺が初めてのはずだ。
どうする? 急いで戻るか?
「今から地上に向かって戻り始めたとして、いつ地上に戻れるか分からないな」
『ダンジョンボスを倒して、帰還ゲートから地上に戻った方が早いと思います』
腰に付けている革袋の中から、魔導知能であるメティスが言った。と言っても、いつもの通りの思念による呼び掛けである。
ちなみに、帰還ゲートというのは転送ゲートの一種でダンジョンボス、もしくはラスボスと呼ばれている魔物を倒すと現れる帰り道だ。この帰還ゲートは中級以上のダンジョンにしかなく、初級ダンジョンのダンジョンボスしか倒した経験のない俺は見た事がない。
「ダンジョンボスか。強いんだろうな」
『グリム先生は巨獣も倒しています。ダンジョンボスがベヒモス以上に強いとは思えません。それにダンジョンボスを倒せば、凄い宝物がドロップするかもしれませんよ』
言っておくが、凄い宝物と聞いて決めた訳ではない……と思う。
「よし、ダンジョンボスを倒して、帰還ゲートで地上に戻ろう」
そうと決まったら、ボス部屋を探さなければならない。ここは念入りに探そう。とりあえず、前方にある岩山らしいものを目指して歩き始めた。
どんな魔物が居るのか分からないので用心しながら進む。二十分ほど進んだところで巨大なヒキガエルのような魔物と遭遇した。全長が七メートルほどの
『これは新発見かもしれません』
マルチ鑑定ゴーグルで調べると『サヴェッジトゥド』と表示された。聞いた事がない魔物なので、メティスが言うように新発見だと思う。ちなみに、サヴェッジトゥドと言われても、ピンと来ない。サヴェッジは獰猛とかいう意味があるようだが、どう獰猛なのか分からないので巨大ヒキガエルで十分だ。
その巨大ヒキガエルがジャンプしながら迫って来る。着地した時に地面が揺れるのを感じ、あんな化け物に押し潰されたら死ぬと思った。
巨大ヒキガエルが跳躍した時、『クラッシュボールⅡ』を発動して高速振動ボールを放った。それに気付いた巨大ヒキガエルが口から長い舌を撃ち出すように伸ばして高速振動ボールに叩き付ける。
その瞬間、高速振動ボールから空間振動波が放射されて長い舌を分解した。グェゴッと大声で鳴いた巨大ヒキガエルが激怒してもう一度ジャンプすると上から襲ってきた。
押し潰されたら死ぬので『ティターンプッシュ』を発動し、<衝撃吸収>が付与されているティターンプレートを撃ち出す。そのティターンプレートにぶつかった巨大ヒキガエルが、撥ね返されて背中から地面に叩き付けられた。
俺は駆け寄って『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードを叩き付けた。巨大ヒキガエルの胸が切り裂かれ、その心臓が真っ二つとなった。消えた巨大ヒキガエルは赤魔石<大>をドロップする。
「ドロップ品が魔石だけか。上級ダンジョンの最終層だと、巨大ヒキガエルでも雑魚扱いなんだな」
俺は変な事に感心した。
魔石を回収してまたボス部屋を探し始める。最終層はかなり広く探し当てるのに苦労しそうだった。しかも巨大ヒキガエルと戦って五分もしないうちに別の巨大ヒキガエルに遭遇して戦う事になった。
「魔物も多いようだ」
二匹目の巨大ヒキガエルを倒した俺は、遠くに見える魔物らしい影を見付けて呟いた。
『向こうに見える魔物は、かなり大きそうです』
巨大ヒキガエルよりも大きいだろうと感じた。
その魔物は目指している方向に居るので遭遇する事になる。回避しようかとも考えたが、その方向にボス部屋があるのなら、いずれは戦う事になる。
「どんな魔物か確かめよう」
『気を付けてください。かなり大型の魔物です』
近付いて確かめると、そいつはキマイラだった。頭がライオン、胴体がヤギ、尻尾が蛇という化け物で全長が十八メートルほどもある。
その背後を見ると岩山に穴が開いている。もしかすると、ボス部屋への入り口かもしれない。
『ボス部屋の門番でしょうか?』
「まだ、あれがボス部屋の入り口なのかは分からない。確かめるにはキマイラを倒すしかない」
俺は多機能防護服のスイッチを入れ、『マナバリア』を発動して戦う準備をする。
次に絶貫槍を取り出して魔力を注ぎ込むと、百メートルほど先に居るキマイラに向かって投擲した。音速を超えて飛んだ絶貫槍は、キマイラの前足に命中して貫通。その絶貫槍は旋回すると手元に戻って来た。
「貫通力は文句ないが、大型魔物を倒すには威力が足りない」
『急所を狙えばいいのでは?』
俺は首を傾げた。キマイラの足に開いた穴が急速に再生して元通りになろうとしていたからだ。驚異的な自己再生能力である。
「あれほどの再生力だと、心臓や脳を槍で貫通しても再生しそうだ」
『……』
メティスも同じように思い始めたようだ。ちなみに、魔導知能であるメティスも進歩している。以前は魔導装備のソーサリーアイやソーサリーイヤーなどの機能を借りて情報を得ていたが、今は魔力を使って擬似的な目や耳を作り出して情報を得ている。
キマイラが吠えると、俺に向かって走り出した。そして、二十メートルほどまで近付いた時、大きく息を吸い込むような仕草をした。
「ブレス?」
キマイラの口が大きく開いた。俺は急いで魔力バリアを展開する。次の瞬間、牙が並んだ大きな口から青白い炎が火炎放射器のように吐き出された。
その青白い炎が魔力バリアに当たってバリアをきしませる。
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