第1000話 二十五層の中ボス部屋

 俺とエルモアは二十五層の中ボス部屋へ向かった。

「さて、どうかな」

 中ボス部屋の前に来た俺は、ゆっくり休める事を願って中を覗いた。しかし、その願いは叶えられなかった。そこにはタラバガニを巨大化したようなランドクラブの姿があり、俺は溜息を吐く。


「疲れているのに……」

『エルモアに倒させましょうか?』

 メティスが提案する。

「いや、シャドウパペットだけに戦わせるとドロップ率が下がる、という噂がある」

 確認されたものではないが、戦闘シャドウパペットだけに戦わせるスタイルの冒険者が、そういう事を言っているようだ。


『それなら聞いています。フランスの冒険者ですね』

 シャドウパペット産業大国であるフランスは、戦闘シャドウパペットの生産も始めている。もちろん、エルモアたちに比べると、小さく戦闘力も低い。それでも魔導武器を持たせて訓練した戦闘シャドウパペットは、ランクDの冒険者に匹敵するそうだ。


「戦いには俺も参加する」

 倒したのにドロップ品がしょぼかったら嫌だ。戦う準備をして中に入ると、ランドクラブが大きなハサミを打ち鳴らして出迎えた。


 最初に『ホーリーファントム』を発動してホーリー幻影弾を放った。ランドクラブは気付かずに近寄ってきて背中の甲羅に命中する。


 爆発が起きるとランドクラブが停止した。だが、その爆発では硬く分厚い甲羅を破壊する事はできなかった。甲羅に傷が出来ているが、ほとんどダメージはなさそうだ。


 ランドクラブがまた前進を開始すると、その前方にエルモアが立ち塞がった。エルモアは『ニーズヘッグソード』を発動し、空間振動波の刃である拡張振動ブレードをランドクラブに叩き込んだ。


 ランドクラブの甲羅は、空間振動波を受けて全体が震え始めた。

『空間振動波のエネルギーを、全体に分散しているようです』

 爆発の時は気付かなかったが、ランドクラブの甲羅は硬く分厚いというだけではなく、一ヶ所に加えられた攻撃を分散して防御しているらしい。


「珍しい防御方法だ」

『ですが、厄介です。どうしますか?』

「時間を稼いでくれ」


 エルモアが前に出て戦い始めた。オムニスブレードから神威エナジーの刃を伸ばし、その刃でランドクラブを斬り付けた。『ニーズヘッグソード』より深い傷がランドクラブの甲羅に刻まれたが、大きなダメージを与えてはいない。


 ランドクラブが巨大なハサミでエルモアをはさもうとする。バチンと音が響いてハサミが閉じた時、エルモアは後ろに跳んで避けていた。


 メティスはランドクラブの関節を狙うようにエルモアに指示した。最近のエルモアはメティスが完全に制御するのではなく、指示をするだけで思い通りに動くようになっている。


 エルモアが神威エナジーの刃をランドクラブの足の関節に叩き込んだ。刃が食い込んで足を切断すると、ランドクラブがハサミをバチバチと鳴らしながら後退する。


 足を切られて警戒したのか、エルモアが近付こうとするとランドクラブがハサミのある足を伸ばして攻撃して近付けないようにする。その攻撃をかい潜ってランドクラブに接近したエルモアは、ランドクラブの口から泡が零れ出ているのに気付いた。


『いかん、跳躍して躱せ』

 エルモアは浮遊骨格を使って垂直にジャンプした。その瞬間、ランドクラブの口から無数の泡が吹き出され、一瞬前までエルモアが立っていた地面にぶつかると泡が弾けて爆発した。


 その頃、俺は『スキップキャノン』を発動していた。ランドクラブをロックオンすると、その内部にスキップ砲弾が飛び込むように調整する。


「撃つぞ!」

 エルモアに聞こえるように警告の声を上げてから、スキップ砲弾を撃ち出した。ランドクラブの三十メートル手前まで飛んだスキップ砲弾が、亜空間に消える。次の瞬間、スキップ砲弾がランドクラブの内部に飛び込んで爆発した。


 ランドクラブの内部で爆発が起き、甲羅が膨れたように見えた。駆け寄ったエルモアが神威エナジーの刃をランドクラブの口の中に突き入れる。それでランドクラブの息の根が止まった。


「それじゃあ、ドロップ品を探してからゆっくりと休もう」

 影からタア坊とハクロ、それにネレウスを出してドロップ品を探すように指示した。その時、エルモアが部屋の隅を指差した。その方向に視線を向けると宝箱が目に入る。


「宝箱か。何度見てもワクワクする」

 ハクロが魔石を持って飛んで来た。俺は受け取ってマジックポーチⅧに仕舞う。次にタア坊が神威石を見付けてきた。ハクロとタア坊を褒めていると、ネレウスが投槍だと思われるものを持って戻って来た。


 マルチ鑑定ゴーグルを取り出して調べてみると、『絶貫槍』と表示された。これは神以外の全てのものを貫くという投げ槍で、神話級の魔導武器だった。しかも格がメジャーであり、神話級の中でも最高級のものだと分かった。


 俺は絶貫槍を仕舞って宝箱に近付いた。あと一歩で手が届くという位置まで来た時、宝箱の中でカチッというスイッチが入ったような音を聞いた。しまった。


 その瞬間、宝箱の周囲が光り出して俺も光に包まれる。エルモアが走り出すのが見えた。だが、エルモアが傍に来る前に、何かに引き摺り込まれて意識を失った。


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