第999話 ドラゴンゴーレム

 エルモアが襲って来たキラーオストリッチを光剣クルージーンで斬り倒した。俺はキラーオストリッチの分布をチェックする。キラーオストリッチの群れは大きく三つに分かれて集団になっていた。その三つの集団がこちらに向かって迫って来る。


「『ダークネスレイン』を使って、一番大きな集団を攻撃する」

 俺は指に嵌めている黒炎リングを確かめて言った。

『了解です。エルモアには二番目に大きな集団を攻撃させます』

 エルモアがオムニスブレードとオムニスシールドを持って走り出した。この二つの魔導装備は神威エナジーをエネルギー源としている。


 神の力である神威エナジーの刃なら、邪神眷属の防御をものともせずに倒せる。エルモアはオムニスブレードから五メートルほどのエナジーブレードを伸ばし、キラーオストリッチの集団に飛び込んで行った。


 俺はキラーオストリッチの集団に目を向けて『ダークネスレイン』を発動した。次の瞬間、黒炎リングから膨大なエネルギーが噴き出して数多くの黒炎弾が形成される。そして、集団を囲い込むように範囲指定してから一万五千発の黒炎弾を撃ち出した。黒炎弾は一度ラッパ状に広がってから、範囲指定した場所に向かって飛翔する。


 キラーオストリッチの三つの集団を纏めて範囲指定し、黒炎弾を撃つ事もできた。だが、範囲を広くすると撃ち漏らすキラーオストリッチの数が増える。そうなると、三方から囲まれそうだ。それは嫌だった。


 確実に仕留めるためには範囲を限定する方が良いのだ。一万五千発の黒炎弾は直径五十メートルほど範囲に纏まっている集団を蜂の巣のように穴だらけにした。


「全滅したようだな」

 エルモアが戦っている様子を見ると、高速戦闘モードで戦っているようだ。

「向こうは大丈夫だろう。次は一番小さな集団を片付けるか」


 俺はもう一度『ダークネスレイン』を発動しようと思ったが、予想以上にその集団の位置が近い。『ダークネスレイン』の発動が間に合わないかもしれないと判断した俺は、それより発動時間が早い『オートランチャー』を発動して聖光励起魔力弾をばら撒き始めた。


 聖光励起魔力弾は五十発、その中の十一発がキラーオストリッチに命中して倒した。かなりのスピードで走っているキラーオストリッチに命中させるのも難しい。


 撃ち漏らした二匹のキラーオストリッチが間近に迫っていた。俺は光剣クラウ・ソラスを取り出してフォトンブレードを作り出した。破邪の力を持つフォトンブレードなら邪神眷属でも切り裂ける。


 キラーオストリッチが嘴を槍のように突き出した。その攻撃を横にステップして躱し、伸び切った長い首にフォトンブレードを叩き込んだ。


 首が切断されたキラーオストリッチが倒れ、もう一匹が強靭な足で蹴りを放った。身体を捻りながら跳躍して躱した俺は、地面で一回転してから素早く起き上がる。キラーオストリッチが踏み込んできたので、フォトンブレードで長い足を切り裂いて迎撃する。


 キラーオストリッチが甲高い叫び声を上げた。俺は踏み込んでフォトンブレードを突き出し、キラーオストリッチの胸を串刺しにした。


「ふうっ」

 大きく息を吐き出してエルモアに視線を向ける。エルモアの方も終わりそうだった。浮遊骨格を組み込んだエルモアは、自分の体重を三分の一ほどに軽くして高速戦闘を行っている。その軽さが戦闘スピードを上げてキラーオストリッチを切り裂く。


 俺が加勢に行く前に、エルモアが最後のキラーオストリッチを倒した。俺は『マジックストーン』で魔石を回収する。集まった魔石には紫色が混じってまだらになっていた。邪神眷属になったせいで、本来の魔石の色に紫が混じったのだ。


 『ダークネスレイン』を使ってキラーオストリッチの集団を一つ全滅できた。御蔭でだいぶ戦いやすくなった。やはり範囲攻撃できる魔法を創ったのは正解だったようだ。


 キラーオストリッチがもっと固まって行動していれば『ダークネスレイン』だけで全滅できたのに、とも思ったが、それは贅沢というものだろう。


『これだけの魔物を邪神眷属にするというのは、初めての事です』

「邪神が近付いているという事だろうか?」

『近付いた事で、地球に対する干渉がしやすくなったという事ですね』

「まずいな。地上に戻ったら冒険者ギルドに報告して、世界中に知らせる必要がある」

『では、急いでドラゴンゴーレム狩りを終わらせて、地上に戻りましよう』


 上空を見上げて首を傾げた。

『どうかしましたか?』

「ブルードラゴンフライが消えている」

『もしかすると、ダンジョンは我々に邪神眷属を退治してもらいたかったのかも』


 そうだとすると、ダンジョンが俺たちとキラーオストリッチの群れを戦わせたという事になる。ダンジョンは俺たちの事を認識しているのだろうか? あれだけの邪神眷属を倒せる冒険者だと分かっていなければ、そんな事はしないはずだ。


 俺たちは急いで二十五層へ行き、ドラゴンゴーレムを探し始めた。二十五層は寒々とした感じの荒野が広がっており、所々に高さ三十メートルほどの岩山があった。


 ホバービークルに乗って上から探していると、一匹目のドラゴンゴーレムを発見した。体長が十五メートルもあるので、見付けるのは簡単だ。着陸してホバービークルを収納ピアスに仕舞う。


「こいつのブルーストームブレスには、注意しないと」

『それもありますが、全身が蒼銀製ですから打撃を受けると死にます』

「確かに。但し、動きは遅いようだ。当たるとは思えないが、『ハイパーバリア』を発動しよう」


 俺は『ハイパーバリア』を発動して魔法のエネルギー源である励魔球を作った。ドラゴンゴーレムが俺たちに気付き、ドスン……ドスンという凄い足音を響かせながら近付いて来る。


 その動きを見て、こいつが中ボスになれない理由が分かった。確かに巨体を持ち防御力も高いのだろうが、あまりにものろすぎる。


 『クロスリッパー』を発動し、クロスリッパー弾を放つ。時速七百キロで飛翔したクロスリッパー弾は、ドラゴンゴーレムの胸に命中すると、X字の形の空間を切り取ると同時に蒼銀製の胸を切り裂いた。


 その衝撃でドラゴンゴーレムが後に倒れた。但し、死んではいない。藻掻きながら起き上がろうとする。エルモアが素早く駆け寄って『ニーズヘッグソード』を発動すると、拡張振動ブレードでドラゴンゴーレムの頭を真っ二つにした。


 ドラゴンゴーレムはそれが致命傷になって消える。俺たちはドラゴンゴーレムにブルーストームブレスを使う暇を与えずに倒した。


「やっぱり鈍いというのは、致命的だな」

 ドラゴンゴーレムは大きなゴーレムコアをドロップした。通常のゴーレムコアは直径三センチほどなのだが、ドラゴンゴーレムのものは九センチほどだ。


「この調子で、あと三個ほど手に入れよう」

 俺とエルモアは広大な荒野を探し回り、ドラゴンゴーレム狩りを続けた。そして、合計四個のゴーレムコアを手に入れると中ボス部屋に向かう。


『ここの中ボスは、ランドクラブです。ギルドの資料に、そろそろ復活する頃なので注意が必要だとありました』


 ランドクラブというのは一般的にはオカガニというかにの事なのだが、ダンジョンのランドクラブは大きな蟹の魔物だった。巨大で防御力が高いと聞いている。ドラゴンゴーレムとの違いは素早いという事だ。


「キラーオストリッチ、ドラゴンゴーレム狩りと戦いが続いたから、ちょっと休みたいんだけど」

『復活していない事を祈りましょう』

 そう言われて不安を覚えた。


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