第998話 キラーオストリッチの群れ

 ドラゴンゴーレム狩りに行く事にしたので、まずは京都の南禅ダンジョンについて調べ直した。以前に行った事があるダンジョンなので、ある程度は知っている。だが、ここ数年で変わった点もあるだろう。


 二十五層までのルートを念入りに調べてから、京都に向かった。京都の冒険者ギルドでも確認したが、それほど問題になりそうな魔物は居ないようだ。


 ただ冒険者ギルドが騒がしかった。近くに居た冒険者に尋ねると、キラーオストリッチの群れと遭遇した冒険者チームが大怪我をして戻って来たらしい。しかも、仲間が二人死んだという。


 キラーオストリッチというのは体長が五メートルもあるダチョウに似た魔物である。そのくちばしが槍のように尖っており、それで突つかれた人間は死ぬ事もあった。


「そう言えば、あの群れは厄介だったな」

 正面からキラーオストリッチの群れと戦うのは大変なので、いつもホバービークルで群れを避けながら進んでいたのを覚えている。


 偶にキラーオストリッチを撥ね飛ばす事があり、その時には『アッレーッ!』と叫んで飛んで行ったのが記憶に残っている。


「A級のグリム先生でも、キラーオストリッチの群れは厄介なんですか?」

 俺の独り言を聞いて冒険者が意外だと思ったようだ。

「まあね。キラーオストリッチは大きな群れを作るから、全滅させようとすると厄介だという話さ。ただ全滅させる必要はないのだから、群れを避けて通り過ぎればいい」


「なるほど、そういう事ですか」

 俺は冒険者ギルドを出て南禅ダンジョンへ向かった。ダンジョンの前でも冒険者が集まって騒いでいた。キラーオストリッチに殺された冒険者の件で話をしている。


 俺は着替えてダンジョンに入った。その時、後から声が聞こえた。

「おい、二十一層から先は通れなくなっている事を、あの人に注意したのか?」

「馬鹿か。あの人を知らないのか。A級二位のグリム先生だぞ」

「えっ、あの人が……なら、注意なんて必要ないか」


 気になる事を言っていたが、二十一層というとキラーオストリッチが居る階層なので、冒険者がキラーオストリッチに殺された話だと分かった。


 それなら問題ないと判断して一層へ下りた。影からエルモアを出して周りを見回す。一層は緑がほとんどない荒野が広がっていた。


『ここはワイバーンが居るので、歩いて行きますか?』

「いや、虎太郎が心配だから急ごう。ワイバーンは俺が仕留める」

 子供のためなら少しくらいの危険は冒す。そういう気持ちになったのだ。一層を通過する間に、三匹のワイバーンと遭遇して戦う事になった。俺とエルモアはワイバーンの攻撃を躱すことなど簡単な事だが、ホバービークルは危ないところだった。


 何とかホバービークルを守って先に進んだ。俺たちはその日のうちに十層の中ボス部屋に到着し、ここで野営する事にした。


 中ボス部屋の入り口から中を覗くと、三つの人影が目に入る。どうやら先客が居るようだ。入ろうとして先客の気配に何か違和感を覚えた。


 それでもう一度じっくりと観察する。こちらに背中を向けているので顔は分からない。だが、後ろ姿に見覚えがあった。


「あれは邪卒の黒武者じゃないか」

『そのようです。普通の魔物は中ボス部屋には入らないものですが、邪卒は違うのですね』

「邪神の配下である邪卒は、ダンジョンのルールに縛られない存在なんだろう」


 野営場所を確保するために黒武者は倒さなければならない。俺はエルモアに合図してから『ホーリーファントム』を発動した。それに続いてエルモアも『ホーリーファントム』を発動する。二つのホーリー幻影弾が続けて黒武者に放たれ、俺の放った攻撃は右の黒武者に、エルモアの放った攻撃が左の黒武者に命中して息の根を止めた。


 俺とエルモアで一匹ずつ倒したので、残り一匹だ。俺は神剣グラム、エルモアは光剣クルージーンで黒武者を攻撃する。『ホーリーファントム』は奇襲だったので一撃で決まったが、接近戦では黒武者が粘った。二人がかりの攻撃を、黒武者は剣で受け流して防ぐ。


 だが、それも長くは続かずに光剣クルージーンが黒武者の首を刎ねた。崩れるように倒れた黒武者は、黒い霧のようなものが噴き出して消える。


「相変わらず何も残さないな」

『私が邪神であっても、邪卒は今のような存在にします。倒した敵に対して贈り物をするような事はしません』


「ダンジョンの魔物が、特別だという事か」

 他に誰も居ないので、影からシャドウパペットたちを全員出した。タア坊とハクロが駆け回りながら中ボス部屋を探検する。俺は野営の準備をしてシャドウパペットたちとのんびりした時間を過ごした。


 翌日早くに出発した俺とエルモアは、キラーオストリッチが居る二十一層に到着した。

『ここで二人の冒険者が亡くなったんですね?』

 目の前に広がる草原を見ながらメティスが言った。

「そうらしい。キラーオストリッチが面倒なので、飛んで行きたいが……」


『ここにはブルードラゴンフライが居ます』

 ブルードラゴンフライは口から火を吹く巨大なトンボである。空を縄張りとしており、飛んでいるものには襲い掛かる習性がある。


「『フライトスーツ』を使う」

 エルモアが空を指差した。先ほどまで数匹だったブルードラゴンフライが、数十匹ほどに急増して空を旋回している。少数なら避けながら飛ぶという事もできたが、この数は難しい。


 諦めて溜息を漏らした。

「どうしても地上を行かせたいようだな」

 ブルードラゴンフライの飛行速度が遅かったら『フライトスーツ』で突破しようと考えたのだが、意外と飛行速度が速いのを知っていた。


 前方を飛んでいるブルードラゴンフライが、体当りするように飛んできたら避けられないかもしれない。運任せで行くにはリスクが高すぎる。


 我慢して地上を行く事にした。エルモアと並んで進んでいると、キラーオストリッチの群れと遭遇。五十匹ほど居るだろう。


 一匹だけ近くに居たキラーオストリッチが凄い勢いで走り寄る。五重起動の『ハイブレード』を発動してD粒子製の長大な刃をキラーオストリッチの首に向けて振った。


 音速に近い速度で振られた長大な刃が、キラーオストリッチに当たった瞬間に拒絶されて魔法が解除された。


「えっ、どういう事?」

『邪神眷属です』

 メティスの声が頭に響くと同時にエルモアが前に出てキラーオストリッチと戦い始める。俺は嫌な予感を覚えて心眼でキラーオストリッチの群れをチェックした。ダメだ。こいつら全部が邪神眷属だ。


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