第997話 グリーン館防衛魔法

 大きなゴーレムコアをドロップする魔物を探した結果、ドラゴンゴーレムという魔物が大きなゴーレムコアを残す事が判明した。


 ドラゴンゴーレムは全長十五メートルほどのドラゴン型ゴーレムで、その巨体は蒼銀で出来ている。ドラゴンの名前が付いている通り、ブルーストームブレスというブレス攻撃を行う。それは蒼銀の粒を大量に高速で吹き出すというブレスで、アースドラゴンのストーンブレスに似ている。


 そのドラゴンゴーレムだが、日本のダンジョンでは京都の南禅ダンジョンに居るという。その上級ダンジョンの二十五層に棲み着いているようだ。身体が大きく防御力も高いが、中ボスではなく普通の魔物だという。


「魔法を開発したら、ドラゴンゴーレム狩りに行くとしよう。さて、どんな魔法にするかだな」

『長時間維持できる魔法にする必要があります』

「それに大規模なバリアが張れる魔法という事も条件だ」

『強度はどうしますか?』


「『ハイパーバリア』以上にするというのは、無理だろう。大規模で長時間維持可能、それに強度まで望んだら莫大なエネルギーが必要になる」


『<編空>の特性を使うというのは、どうでしょう』

「でも、<編空>を起動させるには、膨大なエネルギーが必要になる」

『分かっています。ですが、起動する時には膨大なエネルギーが必要ですが、その維持にはそれほどエネルギーを必要としません』


 これは盲点だった。<編空>を使う時には膨大な魔力が必要なので、ただでさえ膨大なエネルギーを必要とする新魔法には向かないと思っていたのだ。


「面白い。そのアイデアは使えるかもしれない」

 俺とメティスは<編空>の特性を使うという線で魔法の検討を始めた。そして、遮空シールドをグリーン館や屋敷に張る魔法を創り始めた。


 賢者システムを立ち上げ、メティスと相談しながら新しい魔法を構築する。まず特性の<編空>を改造する。<編空>という特性は、空間を切り離し組み立て接合するという特性だ。ただその効果範囲が周囲五メートルに限定されるので、これを拡大する必要がある。


 <編空>を創った当時より空間に関する理解が深まっているので、改造も可能になっていた。展開できる範囲が周囲五メートルだったものを二百メートルに拡大し、燃費も改善した。そして、最も重要な事はエネルギー源として励起魔力が使えるようにした事だ。


 この<編空>は別の空間と繋げる事ができるので、最初は転送ゲートのようなものができるかもしれないと考えて研究したが、残念ながら転送ゲートは無理らしい。繋げる空間の位置が大雑把な設定しかできなかったのだ。


 近距離だとそれほど誤差は出ないが、遠距離だとキロメートル単位の誤差が出る。横方向に誤差がある場合はまだ良いが、上下に誤差がある場合は致命的だった。


 俺は新しい魔法により展開されたバリアを一方通行の力が働くようにした。説明すると、外側からバリアに何かが当たった時、<編空>によって繋げられた空間に飛ばされる。だが、飛ばされた先から戻って来ようとしても戻れないようにしたのだ。


 新しい魔法に<編空>と<ベクトル制御>の特性を組み込み、励魔発電プラントからの励起魔力を受け取って使えるようにした。それに加え、可視光線は通過するようにする。そうでないと、バリアの内側が真っ暗になるからだ。


『どこの空間と繋げるかが問題になりますが、どうしますか?』

「南極の上空というのは、どうだろう」

『なるほど。南極なら人がほとんど居ませんから、問題になる事は少ないでしょう』


 メティスが問題になるかもしれない点がある、と思っているようだ。

「その問題となる事というのは?」

『バリアに当たった風が、繋がった空間に流れ込むという事です』

 南極に温かい風が吹き込むという事になる。環境破壊に繋がらないだろうかと一瞬考えた。だが、グリーン館と屋敷の面積は、南極の面積に比べたら無視できるほど小さい。影響はほどんどないだろう。


「毒ガス攻撃という事も考えられるから、空気を通す事はできない」

『しかし、人間は酸素がないと生きていけません』

「グリーン館の敷地内に空気のある場所がある」

『分かりました。鍛錬ダンジョンですね』

「ああ、鍛錬ダンジョンでは大量の空気を生産しているようだから、少しくらい使っても大丈夫だろう」


 もちろん、一方的にダンジョンの空気を吸い出すのではなく、ダンジョン内の空気とグリーン館と屋敷の空気を循環させるので、ダンジョンの空気再生能力を借りるだけだ。


『水もダンジョン内のものを使いますか?』

「いや、水は大きなタンクを造って溜めておこう。余っている収納アイテムにも水を入れておけばいい」


 バリアは高い塀の上に展開する形になるので、出入りは普通に門を使う事になる。そこが弱点となるが、これだけはどうしようもない。


 ちなみに、塀は補強してあるのでドラゴン級の魔物でないと突破される事はない。本当にドラゴン級の魔物が来たら、冒険者たちが倒す事になる。


 メティスと検討を重ねて結界を展開する魔法『トランスファーバリア』を完成させた。次は新しい魔法を刻むドラゴンゴーレムのゴーレムコアを手に入れる番だ。


 その前にアリサに会いに行き、子供の寝顔を見る。すやすやと眠る子供を見るだけで活力が湧いて来るような気がする。


「可愛いな」

「起こさないでね。寝たばかりなんだから」


 俺は分かっているというように頷いてから、新しい魔法の魔法陣をアリサに渡す。

「アリサ、この魔法を研究してゴーレムコアに刻めるようにしてくれ」

「新しい魔法が完成したのね」

「ああ、虎太郎の身を守る魔法でもあるのだから、頼むよ」

「任せて」


 アリサは完全に体調を回復し、子育てと研究をする日々を過ごしていた。A級冒険者なのにもったいないという気もするが、そういう生活が充実しているという事なので問題ない。


 俺はドラゴンゴーレムの事を話し、遠征に行くと伝えた。

「気を付けてね。油断は禁物よ」

「分かっている。アリサも気を付けてくれ」

 用心のために、今回は為五郎を残して行く事にした。警備シャドウパペットと為五郎が居れば、大概な事は対処できるだろう。


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