第996話 兵器とバリア

「ルベルティか。半邪神になったパルミロは、不老不死薬のアムリタを飲んだんだったな」

 作った全てのアムリタをパルミロが飲み干したとは思えないので、残りをどうしたのかという話になる。俺はルベルティの顔を見て若返っているんじゃないかと思った。


 前回ルベルティと会ったのは何年も前の事なので確実とは言えない。だが、若返ったような感じがするのだ。もし、アムリタを飲んだのなら、このルベルティも半邪神となるかもしれない。


 パルミロが死んだ時、あいつは『アムリタ(偽)』という魔法薬瓶二本を持っていた。つまり本物が二本あったのではないか? それを盗んだのがルベルティだとすると、飲んだ可能性がある。


「本当にルベルティがアムリタを飲んだとしたら、まずいな」

 俺の独り言を聞いたタア坊がピョコッと首を傾げた。

「アムリタ……不味いの。だったら、飲まなきゃいいのね」


 タア坊は全く理解していなかった。まあ、それは良いとして、わざわざ俺が居る渋紙市にアジトを構えるというのが気になった。目的は俺に復讐する事なのだろうか?


 パルミロを殺した俺に復讐? だけど、本物を『アムリタ(偽)』と入れ替えたのが、ルベルティだとすると復讐するほどパルミロを敬愛していたとは思えない。


「目的を探るために、ハクロに見張りを継続させよう」

『先ほどの話ですが、ルベルティがアムリタを飲んだとしたら、彼は一種の不死になっているという事ですね?』


 メティスが確かめるように尋ねた。

「ああ、アムリタが飲んだ者に与える不死というのは、肉体が滅んでも精神だけで生きられるという意味での不死だ」


 精神を滅する方法がなければ本当に不死と言える。この精神だけの状態というのは、アンデッドのリッチやファントムとも違い、聖属性の武器や生命魔法でも倒せない。


 但し、神威エナジーを使って攻撃すれば精神だけの存在でも倒せる事が分かっているので、ルベルティは手を出しては行けない人間に、ちょっかいを出した事になる。


 もしかするとアムリタを飲んだルベルティは、自分を倒せるのは俺だけだと思っているのかもしれない。なので、先に俺を始末しようと考えたのか?


『我々も不死身ではないのですから、用心しなければなりません』

「そうだな」

 ハクロに見張りを続けさせているうちに、雑居ビルに大きな荷物が届いたとハクロが報告してきた。


「メティス、荷物というのは何だと思う?」

『大きな荷物というだけでは分かりません』

「そうだよな」

『ですが、この屋敷をルベルティが攻撃するつもりだとすると、兵器の可能性があります』


「兵器だって……まさか、ミサイルのようなものを考えているのか?」

『そうです。普通の方法でグリム先生に危害を加えるのは、難しいですから』

「ミサイルなんて大げさじゃないか。ライフルで遠距離から狙えば、俺でも死ぬ」


『そうでしょうか? グリム先生は二次人格を普段から出して、神威エナジーを取り込んで体内で循環させています。その身体は桁違いに頑丈になっているはずです』


 俺は三橋師範から魔力法陣のパターンをいくつか学び、それを実践している。その中には『健陣パターン』というものがあり、それを日頃から実行している。最初は魔力で行っていたのだが、最近では神威エナジーを使って実践している。


 『健陣パターン』は身体を健康に保ち、頑強にする。魔力で行うとパンチを食らっても、ほとんどダメージを受けないほど頑丈になる。それを神威エナジーで行うと、どれほど頑丈になるか分からないほどだ。


 但し、その神威エナジーを外に漏らすと、周りの人々を威圧する事になるので漏らさないように『健陣パターン』を維持するのが難しかった。今は普段から『健陣パターン』で神威エナジーを体内循環させても、周りが気付かないほどになっていた。


 ちなみに、魔力法陣は魔法庁にパターンを登録している。魔力法陣というものが知られていない上に、積極的に宣伝していないので広まっていないようだ。


『神威エナジーの『健陣パターン』を実践していれば、ライフル弾くらいでは死なないと思います』

「いや、それを知っているのはメティスとアリサくらいだ。ルベルティが知っているとは思えない」


『そうでした。しかし、用心すべきです』

「分かった。屋敷の屋根とグリーン館の屋上に、警備シャドウパペットを配置しよう」

『この屋敷もそうですが、グリーン館にもバリアのようなものが欲しいです』


 シェルターに結界も必要かもしれないと考えた。ここには励魔発電プラントがあるので、結界の動力源には困らない。


「そこまでする必要があるのか? ルベルティは犯罪者だ。捕まえればいい」

 イタリアにルベルティの事を問い合わせたら、今日の午前中に返事が来て指名手配中だと分かった。


『もちろん、警察に報せて逮捕させるべきですが、邪神対策としてもバリアは必要だと思います。ここに空を飛ぶ強力な邪卒が、現れるかもしれません』


「なるほど。そうなると、どうやってバリアを張るかが問題だ。魔法回路コアCを使うか?」


『『ハイパーバリア』の魔法回路コアCを作製し、それを次々に発動させるというのですね。しかし、今回は屋敷とグリーン館を守るバリアです。バリアが大きくなるので、バリアを張れる時間が短くなります。一日に何百回も発動する事になるでしょう』


 魔法回路コアCの耐久性にも限界がある。何百回も発動を繰り返せば、魔法回路が焼き切れてダメになってしまう。


『広域展開用のバリアを張る魔法を開発する必要があります。それに大容量の魔力や励起魔力を流しても大丈夫な、大きなゴーレムコアが必要です』


 広域展開バリアの開発自体は簡単だと思う。『ハイパーバリア』を改良すれば良いからだ。だが、大きなゴーレムコアとなると、どこで手に入れれば良いのか分からない。


『そういう魔物の記録が残っているはずです。調べましょう』

「そうだな」


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