第981話 ドンガラダンジョンの青龍
青龍の全長は二十五メートルほどで、東洋の龍そのままという感じである。小さな足が付いている大蛇という姿なのだが、空を飛ぶ事はできないようだ。
「青龍、飛ばないんだ」
上条が残念そうに言った。三橋師範は影から戦闘シャドウパペットの十兵衛を出すと、ローランズたちを救助するように命じた。
そして、三橋師範は衝撃吸収服のスイッチを入れてから『マナバリア』を発動し、滅棍カトヤンガを構える。その目線の先には青龍が居た。
青龍はトカゲというより、蛇に近い動きをしている。胴体を左右に振って進み、鎌首をもたげて三橋師範たちを威嚇した。その顔は大きな口の周りが
「龍と呼ばれるのも納得ですね。鼻の横に二本の触手のような髭までありますよ」
上条は青龍を観察して言った。
「分かれて戦うぞ」
「了解です」
三橋師範と上条は右と左に分かれて走り出した。十兵衛はローランズに向かって走っている。三橋師範は『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを青龍に向かって放った。
それに気付いた青龍が口を開けて吠えた。それは凄まじいエネルギーを秘めた声だった。その音波に載せられたエネルギーがD粒子振動ボールにぶつかると弾き飛ばす。
「あの吠え声には、励起魔力が込められているようだ」
三橋師範は鋭い視線を青龍に向けながら分析していた。その時、上条が『ホーリーファントム』を発動し、ホーリー幻影弾を青龍に向かって放った。
『ホーリーファントム』は邪卒用に開発された生活魔法だが、<ステルス>が組み込まれている使い勝手が良い魔法という事で邪卒ではない魔物にも多用されるようになっていた。
ホーリー幻影弾が青龍の胴体に命中。しかし、命中した群青色の鱗は<不可侵>の特性と同じような力を発揮した。ホーリー幻影弾が鱗を貫通するのを拒否して撥ね返したのだ。
「ホーリー幻影弾が撥ね返されただと……」
邪卒王でも撥ね返せない魔法だったはずなのに、青龍は撥ね返した。なので、上条は驚いた。
青龍の注意が上条に向けられている間に、三橋師範は青龍の顔の横に近付いていた。ここまで近付けたのには理由がある。魔力法陣の法陣パターンの中に『隠陣パターン』というものがあり、その『隠陣パターン』に従い体内の魔力を循環させると奇妙な事が起きる。
周りの人々や魔物が、『隠陣パターン』を使う者を認識できなくする力を発揮するのだ。見えているのに認識できないようで、透明人間になったような気分になる。
三橋師範は魔力を注ぎ込んだ滅棍カトヤンガを青龍の首に叩き込んだ。但し、そこが本当に首だったのか、三橋師範にも分からない。青龍の首がどこからどこまでなのか見ても分からないからだ。
カトヤンガから衝滅波が放射された。だが、青龍の鱗によって弾かれた。ただ全く無駄だったかというとそうでもない。その鱗にヒビが入ったのである。三橋師範はヒビを見て難しい顔になる。
一方、三橋師範の攻撃に驚いた青龍は、攻撃した者を探した。そして、自分に対して精神攻撃を仕掛けている者が居ると気付いた。『隠陣パターン』による認識阻害も精神攻撃の一種なのだ。青龍は精神攻撃を撥ね退け、三橋師範を認識した。
その瞬間、青龍の牙が三橋師範に向かって襲い掛かり、三橋師範は『フラッシュムーブ』を使って回避する。
「手強いとは予想していたが、こんなに早く『隠陣パターン』を破るとは……」
三橋師範は筋力を上げるために『鋼陣パターン』に切り替える。青龍が三橋師範を追ってきた。そして、三橋師範を見下ろすと頭にある二本の角から雷撃を落とした。
三橋師範は魔力バリアを展開して雷撃に耐えた。それを見た上条は、神剣グラムを手に青龍に走り寄る。神剣グラムに魔力を流し込んだ上条は、十五メートルの距離で青龍に向かって振った。
神剣グラムから超重力の刃であるダークブレードが飛び出し、青龍に命中した。<不可侵>のような効果を発揮する鱗だったが、ダークブレードを撥ね返す事はできなかった。
ダークブレードは重力の刃なので、その重力まで撥ね返すとなると浮き上がって宇宙にまで飛んで行くからだろう。
上条の攻撃は青龍に大きなダメージを与えた。鱗が何枚も切り裂かれて地面にパラパラと落ち、血が噴き出す。
その時、上条の背後から何かが飛んで来た。上条は反射的に横に大きく跳んで回避する。それは疑似ブラックホールだった。
疑似ブラックホールは青龍に命中する直前に気付かれ、角からの雷撃で迎撃された。上条は背後に視線を向け、誰が疑似ブラックホールを撃ったのか探した。
「やっぱりラッセルズか」
少し離れた場所にA級冒険者の姿を見て、上条は怖い顔になった。今の疑似ブラックホールの攻撃は、一歩間違えば上条に攻撃が当たっていたからだ。
青龍が上条に向かって襲い掛かった。上条も魔力バリアを展開して耐える。そこにラッセルズの二撃目が飛んで来た。今度は『サリエルクレセント』のサリエルブレードによる攻撃である。
分子分解の力を持つサリエルブレードは、強力な威力を持っていた。しかし、青龍の鱗はサリエルブレードを撥ね返した。
「何でだ?」
ラッセルズは首を傾げた。青龍が咆哮してラッセルズを目掛けて突進を開始する。
「まずい」
青龍が自分の方に向かって来るのに気付いたラッセルズは、『フライ』を発動して飛び上がった。上空から青龍を見下ろしたラッセルズがニヤッと笑う。
それを見ていた青龍が口を大きく開けると、膨大な励起魔力が込められた咆哮を発した。それは物理的なパワーを持って飛翔し、ラッセルズを追い掛けてぶつかった。
その衝撃でラッセルズの『フライ』が解除され、きりもみ状態で落下を始める。
「ぎゃあああーー!」
ラッセルズの悲鳴がダンジョンに響き渡る。三橋師範と上条は助けようと思ったが、距離があるので助ける方法がなかった。
地面に落下する直前、『フライ』の発動に成功して落下スピードが緩んだ。だが、落下を止める前に地面に墜落した。
三橋師範が上条の横に並んだ。
「死んだと思うか?」
上条が首を捻る。
「しぶとそうな人物でしたから、生きているんじゃないですか」
「仕方ない。助けに行こう」
三橋師範にそう言われ、上条は渋々という感じで頷いた。
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