第947話 ギャラルホルンの行方

 クレイヴン少将は追って来るパープルワイバーンを見て唇を噛み締めた。

「邪卒王め、あんな隠し玉を持っているとは……」


 最初は保管場所にギャラルホルンを置いておけば大丈夫だ、と少将は考えていた。ステイシーとジョンソンが居れば、邪卒王を倒せるだろうと判断したのだ。だが、思いがけずパープルワイバーンに攻撃され、建物が爆発して邪気が侵入するとギャラルホルンを移送する決断をした。


 このままではギャラルホルンを保管していた金庫室が破壊され、ギャラルホルンを奪われてしまう、と考えたのである。


「少尉、スピードを上げろ」

 少将は部下に命じた。

「残念ですが、このヘリは全速を出しています」

 保管場所が空軍基地なら、航空機で逃げられただろう。しかし、少将が保管場所に選んだのは陸軍基地で、最速の乗り物はヘリだった。


「うわっ」

 ヘリのパイロットが声を上げながら操縦桿を倒した。後ろからパープルワイバーンが火の玉で攻撃したのである。優秀なパイロットが気付いてぎりぎりで躱したが、窓の外を紫の炎が通り過ぎるのを見た少将は胃がキリキリと痛み始めた。


「逃げるという選択肢は、間違いだったか? もしかして、ステイシー本部長たちと合流すれば……」

 少将は呟いた。ギャラルホルンを持ってステイシーたちと合流した方が良かっただろうか、という疑問が少将の心に浮かんだ。


 だが、そのステイシーたちは邪卒王と戦っている最中である。わざわざ最強の敵が居る場所に向かうのは、馬鹿げている。


 パープルワイバーンたちが集まって来て次々に紫の炎の玉で攻撃してきた。必死で避けるパイロットだったが、五発目の火の玉がヘリの後部にあるテールローターに命中して爆発した。ヘリは回転しながら落ちていく。


 ヘリは巨木の上に落ち、太い枝をへし折りながら地上にぶつかった。少将は身体中が痛かったが、それを我慢してヘリから脱出する。


「グッ、ゴホッ……」

 咳き込んだ少将は、ギャラルホルンが入った白輝鋼製の箱を抱えていた。咳が治まって上を見上げると、パープルワイバーンたちが旋回している。


 同乗していた部下たちを確認すると、パイロットは死亡していた。護衛の二人は重傷のようだ。少将だけが奇跡的に軽傷で済んだらしい。


 重傷の護衛二人をヘリから引っ張り出したが、それ以上は何もできなかった。ヘリに積んであったはずの救急バッグが空中で飛ばされ、なくなっていたからだ。


 少将は白輝鋼製の箱を抱えて近くの町に向かって歩き始めた。すると、上空で旋回していたパープルワイバーンが急降下を始めた。


「クッ、気付かれたか」

 少将は必死で逃げた。だが、急降下したパープルワイバーンが下に向かって紫の火の玉を吐き出す。少将の近くに着弾した火の玉が爆発し、爆風により少将の身体が吹き飛ばされた。そして、邪気を吸い込んだ少将は倒れたまま動かなくなった。


 一方、邪卒王と戦っているジョンソンは、攻撃手段を生活魔法に切り替えていた。『ホーリーファントム』のホーリー幻影弾が邪卒王にも有効だと分かったので、ホーリー幻影弾で邪卒王の足を狙い始めたのだ。


 邪卒王の四本の足のうち二本がボロボロになって動かなくなった。この攻撃にはステイシーも協力しており、遠距離から邪卒王の足を狙ってダメージを与えている。


 動けなくなった邪卒王は口から巨大な火の玉を吐き出し始めた。ジョンソンたちにも吐き出すが、邪卒王自身の周囲にも吐き出し、炎の障壁を作ろうとしているように見える。


 ジョンソンはステイシーのところまで後退し、一つの提案をした。

「『ホーリーメテオ』で一斉攻撃しましょう」

「分かったわ」


 二人は邪卒王が作り上げた炎の障壁に近付き、ステイシーは『ホーリーメテオ』の攻撃魔法版である『キングキラーメテオ』の準備を始めた。その直後、ジョンソンが『ホーリーメテオ』、ステイシーが『キングキラーメテオ』を発動する。


 上空に二つの聖爆隕石弾が形成され、凄まじい速度で落下する。動けなくなっている邪卒王は格好かっこうの的だった。邪卒バリアや<邪神の加護>を打ち破り、その巨大な背中に二つの聖爆隕石弾が着弾した。邪卒王の内部に潜り込んだ聖爆隕石弾が爆発し、邪卒王の肉片を周囲に撒き散らす。


 それでも邪卒王は死ななかった。助けを求めるように、多くの邪卒を召喚する。ジョンソンは襲い掛かってくる邪卒たちを光の槍だと判明したロンゴミニアドで薙ぎ払った。


「新しい武器を手に入れたのね」

 ステイシーがジョンソンに声を掛けた。

「ええ、邪神眷属のズメイからドロップした武器です」


 ジョンソンが邪卒を近寄らせないないようにしている間に、ステイシーがもう一度『キングキラーメテオ』を発動する。『キングキラーメテオ』を創ったのはステイシーなので、この魔法を熟知している。ステイシーが発動した『キングキラーメテオ』は、聖爆隕石弾を邪卒王の頭に落下させた。


 聖爆隕石弾は邪卒王の頭を打ち砕き、トドメを刺した。邪卒王が消滅したのを確認したジョンソンとステイシーは、まだ戦っている冒険者と軍人たちに加勢し、残っている邪卒を駆逐する。


「やっと終わった」

 ジョンソンの言葉を聞いたステイシーが渋い顔になる。

「終わってなどいない。まだ紫のワイバーンを倒していませんよ」

 そう言われて、ジョンソンも思い出した。

「そうだった。陸軍基地に行ったようだけど、どうなったんだろう?」


 ジョンソンはホバーバイクを出してステイシーと一緒に乗ると陸軍基地に向かった。ホバーバイクの高度を上げると、陸軍基地が炎に包まれているのが見えた。


「燃えているわ。ギャラルホルンはどうなったの?」

「たぶん持ち出したと思いますけど」

 ジョンソンたちは周囲を探し、墜落したヘリを発見した。そして、その近くにクレイヴン少将を発見したが、ギャラルホルンは見付けられなかった。


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