第946話 陸軍基地の危機
燃えている小麦畑や山火事の上をホバーバイクが飛ぶ。後部席に同乗しているステイシーが、下を見下ろしていた。
「中々快適ね。グリム殿に頼んだら、作ってくれるかしら?」
ステイシーもホバーバイクが欲しくなったようだ。
「これを作るには、特殊な素材が必要だと言っていましたから、作れるかどうかは分かりませんよ」
「このふわっとする感じからすると、重力を操作しているようね。魔法的な効果がある素材が必要だという訳ね」
攻撃魔法の賢者であるステイシーは、重力を制御して飛んでいるのだと理解していた。攻撃魔法の中にも『ブラックホール』などの重力に関連する魔法があるので、勉強した事があるのだろう。
「見えてきましたよ」
ジョンソンが遠くに邪卒王の姿を見て言う。
「まずいわね。思っていた以上に陸軍基地に近付いている」
「軍の兵士が戦っています」
基地に近付いたので、反撃するしかなくなったクレイヴン少将が、攻撃を許可したようだ。
「邪卒王は、邪卒たちを召喚したようです」
多数の黒武者、ダークウルフ、ダークゴーレムが地上で暴れているのが目に入った。それに対して軍の対邪卒部隊が戦っている。
「ゴールドスライムは、居ないようですね」
「邪卒王の移動速度に付いて来れないから、召喚しなかったのかもしれないわ」
「なるほど。邪卒王がそれだけ急いでいるという訳ですね」
「邪卒たちは軍の対邪卒部隊に任せ、我々は邪卒王を倒します」
「分かりました」
疲れているとか、愚痴を言っている状況ではないと判断したジョンソンは、素直に返事をしてホバーバイクを着陸させた。
ステイシーは後方から、ジョンソンは邪卒王に接近して戦う事になった。ジョンソンが前進した時、ダークウルフが襲ってきた。ジョンソンはズメイを倒して手に入れたロンゴミニアドを取り出し、襲い掛かってくるダークウルフを薙ぎ払った。
ロンゴミニアドは日本の笹穂槍のように突く事もできれば斬る事もできる刃が存在した。そして、破邪の力を持っているようで、邪卒が備えているバリアを切り裂いてダークウルフの首を切り裂いた。
「これはいい。破邪の力があるようだ」
ジョンソンはニヤッと笑って邪卒王に向かって走り出す。それを邪魔するようにダークゴーレムが前方に立ち塞がった。ジョンソンの二倍ほど大きく頑丈そうなダークゴーレムに向かってロンゴミニアドを振る。バリアは切り裂いたが、ダークゴーレムの強靭な身体にロンゴミニアドの刃が撥ね返された。
「使い方が間違っている気がする」
ジョンソンは試しに魔力をロンゴミニアドに注ぎ込んだ。すると、ロンゴミニアドから光り輝く刃が伸びて五メートルほどになる。ジョンソンはその輝きに見覚えがあった。光剣クラウ・クラウから伸びたフォトンブレードと同じ輝きだったのだ。
「光剣クラウ・クラウがフォトンブレードなら、こいつはフォトンスピアだな」
そのフォトンスピアでダークゴーレムを薙ぎ払う。その一撃で邪卒バリアごとダークゴーレムの胸を切り裂き、ダークゴーレムが黒い霧を噴き出して消える。
ジョンソンは、襲い掛かってくる邪卒をフォトンスピアを使って次々に倒して邪卒王に近付いた。そして、邪卒王が発している熱気を感じるところまで近付くと、生活魔法の『ヒートレジストコート』を発動する。これは熱を遮断する機能がある魔法だ。
ジョンソンは熱を気にする事なく邪卒王に近付いてフォトンスピアで邪卒王の足を切り裂いた。邪卒バリアと<邪神の加護>により二重に守られている邪卒王が相手だと、フォトンスピアの威力も弱まるようだ。巨大な足に浅い傷しか刻めなかった。
それでも痛みを感じた邪卒王が立ち止まり、首を曲げてジョンソンを見た。邪卒王が何か命じるように声を上げる。すると、周囲に居た邪卒が一斉にジョンソンに襲い掛かる。ジョンソンは『フラッシュムーブ』を使って後退した。
後退したジョンソンに向かってダークウルフたちが駆け寄る。ダークウルフたちの攻撃を躱しながらフォトンスピアで反撃するジョンソン。その時、大勢の声が響き渡った。
冒険者たちが到着し、一斉に邪卒たちに襲い掛かったのだ。ジョンソンの周りに居る邪卒たちにも『ホーリーキャノン』や『デビルキラー』の魔法が撃ち込まれた。
「ふうっ、これで邪卒王に集中できる」
ジョンソンはそう言った時、後方から何かが飛んで来て邪卒王に命中した。それは後方に居るステイシーが発動した『ブレーキングイービル』による攻撃だった。命中した瞬間、<破邪光>の力を秘めたエックス線が発生して邪卒王のバリアと<邪神の加護>の守りを突破した。
それはジョンソンが邪卒王から離れた瞬間に発動したもので、邪卒王だけにダメージを与えた。真っ赤な邪卒王の体表がボロボロになった。但し、そのダメージは邪卒王の表面だけを痛めつけたようだ。
邪卒王が苦しげに全身を震わせ、叫び声を上げた。それは召喚の合図だった。空中に紫色をしたワイバーンのような魔物が現れる。
「紫色のワイバーンだと……」
その邪卒は『パープルワイバーン』と呼ばれるようになるものだった。そのパープルワイバーンは、ジョンソンたちや軍の兵士を無視して陸軍基地を目指して飛び去った。
それを見たステイシーは険しい顔になる。
「ここで
予想外の事が起きた。ステイシーはどうすべきか、考え始めた。だが、その間にもパープルワイバーンは基地に近付き、その上空を旋回し始める。
そして、八匹のパープルワイバーンが一斉に急降下する。大きく口を開けたパープルワイバーンが口から紫色の火の玉を吐き出した。それが地上に着弾して盛大に爆発する。
アッという間に、陸軍基地が紫色の炎に包まれた。その炎には大量の邪気が含まれており、それを吸い込んだ兵士たちが次々に倒れた。
同じ頃、クレイヴン少将は保管場所からギャラルホルンを持ち出し、他の場所に移そうとしていた。ギャラルホルンを軍用ヘリコプターに積んで自分も乗り込むと、東海岸の方へ行けと命じた。
軍用ヘリコプターが飛び立つと、その後ろからパープルワイバーンが追い掛け始めた。パープルワイバーンもギャラルホルンから発する邪気を感じる能力を持っていたのだ。
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