第944話 ノースダコタ州の危機

 逃げるホバーバイクをズメイが追い掛けた。ジョンソンはチラリとズメイの方を見てから、初級治癒魔法薬を取り出して飲む。身体中の痛みが緩和されるのを感じた。


 ズメイが口から火球を撃ち出したのを見たジョンソンは、ホバーバイクを上昇させてなんとか避ける。その直後、ズメイが大きな翼を広げて羽ばたき始めた。


「ま、まさか。あの重量で空を飛べるのか?」

 ズメイの情報は少なく、空を飛んだという記録はなかった。なので、ジョンソンもズメイが飛べないと思っていたのだが、翼は飾りではなかったようだ。


 ズメイが空に飛び上がり、ホバーバイクを追い掛けてくる。意外に速いので、ジョンソンは顔をしかめた。


「思っていた以上に、厄介な魔物だな」

 ジョンソンは愚痴るように言い、後ろをチラリと見た。スピードはホバーバイクの方が速いようだ。ジョンソンは逃げながら『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジを後ろに放った。


 聖光分解エッジはズメイ目掛けて飛び、もう少しというところでズメイの口から吐き出された火球により迎撃された。


 ジョンソンはもう一度『マナバリア』を発動する。その直後、ズメイがジョンソン目掛けて火球を放った。ジョンソンは『ガイディドブリット』を発動し、その火球をロックオンするとD粒子誘導弾を撃ち出した。


 火球がD粒子誘導弾と衝突して大爆発する。火球には<邪神の加護>はないようだ。だが、至近距離で火球が爆発したので、衝撃波を受けたホバーバイクが嵐に巻き込まれた船のように揺れる。


 ジョンソンはホバーバイクのバランスを必死で取り戻すと、ズメイに視線を向けた。ズメイは火球を撃ち出した反動で、少し高度を落としている。


 ジョンソンはチャンスだと感じて『ホーリーファントム』を発動し、ホーリー幻影弾をズメイ目掛けて放った。音、魔力、D粒子の存在を隠して飛翔するホーリー幻影弾には、ズメイも気付かなかった。


 ホーリー幻影弾は、ズメイの残った頭の一つに命中して爆散した。D粒子に付与された<聖光>と<分子分解>の効果でズメイの頭は粉々となり、残った頭は一つだけとなる。


 ズメイはきりもみ状態で落下すると、地面に叩き付けられた。

「よし」

 ジョンソンが思わず声を上げた。ズメイは墜落した時に大きなダメージを受けたようだ。<邪神の加護>は落下を敵からの攻撃と認識しなかったらしい。


 チャンスだと思ったジョンソンは『ホーリーメテオ』を発動し、ズメイの頭上に聖爆隕石弾を形成。その聖爆隕石弾が凄まじい勢いで落下を始める。頭が一つだけになったズメイは、まだ地面で苦しんでいた。


 聖爆隕石弾がズメイの胸に落下して内部に潜り込んで爆発。これは致命傷だろう。聖爆隕石弾の命中率は低いので、普通は何人かの生活魔法使いが共同で爆撃する方法が広まっている。だが、今回の標的は地面で苦しんでいたので簡単に命中した。


「ふうっ、なんとか仕留められたけど、もう邪神関係は嫌だな」

 ジョンソンは着陸してホバーバイクを収納した。ほぼ土と石だらけの荒野を見回し、魔石が落ちているのに気付いた。


 邪神眷属は邪卒と違い、ダンジョンが生み出した魔物を邪神が乗っ取って邪神眷属にしたものなので、死ぬと魔石やドロップ品を残す。


 ジョンソンが魔石を拾い上げて調べた。紫色に変色した魔石で、嫌な感じがする魔石だ。その魔石を仕舞って他のドロップ品を探す。


 次に宝箱を発見したが、後回しにする。トラップが仕掛けられている予感がしたのだ。他のドロップ品を探すと、槍が見付かった。鑑定モノクルを取り出したジョンソンは、槍を調べてみる。


 すると、『ロンゴミニアド』と表示された。この槍はアーサー王の槍らしい。本来の意味は薙ぎ倒す槍というものだそうだ。


 これ以上は持ち帰って本格的に調べてみないと分からない。他を探しても見付からなかったので『マジックストーン』で探してみる。すると、指輪が飛んできた。ジョンソンはニヤッと笑ってキャッチする。


 調べてみると指輪は『広目天こうもくてんの指輪』だと分かった。これは素早さを十倍、視力を八倍に強化する魔導装備らしい。


「さて、いよいよ宝箱だ」

 ジョンソンは注意深く宝箱を調べた。そして、毒針を飛ばす仕掛けを発見する。それを解除して宝箱を開けると、水晶球が入っていた。ジョンソンは以前にも躬業の宝珠を見た事があったので、それが躬業の宝珠だとすぐに分かった。


「マジか……こいつは誰にも言えないな」

 躬業の宝珠を手に入れたと知られれば、政府が取り上げようとするだろう。ジョンソンは冒険者ギルドに報告しない事を決めた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ジョンソンがタウナーダンジョンに潜っている頃、ステイシーはクレイヴン少将と陸軍基地で面会していた。


「ステイシー本部長は、ギャラルホルンの保管場所が、邪神に知られたというのですね?」

「そうです。ミスター・ジョンソンは、ゴールドスライムにギャラルホルンを感知する能力があるのではないか、と推測しています」


 少将が厳しい顔になる。

「すると、ゴールドスライムは情報収集用の邪卒という訳ですか?」

「ええ、最近はノースダコタ州の周囲から、この基地に向かうゴールドスライムが増えたそうです」


「そんなやり方で、邪神がギャラルホルンを探すのなら、隠す方法がない」

「たぶんギャラルホルンから邪気のようなものが漏れていて、それを感知しているのでしょう」


「その邪気を隠す方法は?」

「完全に隠す方法は、発見されていません。銀魔石が邪気を吸収する事は分かっていますが、全ての邪気を吸収する事はできないようです」


 その時、クレイヴン少将の部下が報告に来た。その慌てた様子に少将が顔を曇らせる。

「どうした?」

「冒険者ギルドからの報せです。タウナーダンジョンに邪神眷属が現れ、ダンジョン近くの地上に邪卒王が現れたそうです」


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