第942話 タウナーダンジョン
ステイシーはギャラルホルンの保管責任者であるクレイヴン少将に保管場所がノースダコタ州ではないかと確認した。結果、ジョンソンの予想通り、ノースダコタ州の陸軍基地にギャラルホルンが保管されている事が判明する。
ジョンソンとステイシーは、ノースダコタ州に出現した新しいダンジョンへ向かった。そのダンジョンで何かが起きそうだと感じたのだ。
二人がタウナーダンジョンに到着した時、多くの冒険者が集まっていた。新しいダンジョンの宝箱やドロップ品、それに実績が欲しくて集まってきた者たちである。
「何も起きていないようですね?」
冒険者たちが次々にダンジョンに入って行く様子を見て、ジョンソンがステイシーに言った。
「これからかもしれないわ。あなたにはダンジョンの中を調べて欲しいのだけど、いいかしら?」
「ええ、中級ダンジョンらしいですから、五層くらいまでなら構いませんよ」
この新しいダンジョンは、四層までしか攻略されていないようだ。それに中級なので手強い魔物は遭遇したという報告はない。但し、A級のジョンソンが手強いと思う魔物が居ないというだけで、F級やE級の冒険者からすると手強い魔物は数多く居た。
ジョンソンがダンジョンを調査している間に、ステイシーは陸軍基地へ行くという。クレイヴン少将に直接会って保管状況を確認するつもりなのだ。
ジョンソンは一人でタウナーダンジョンへ入った。一層は起伏の激しい草原になっており、オークやゴブリンと戦っている冒険者たちの姿が見える。
F級とかE級の冒険者が周りにウロウロしているのを目にしたジョンソンは溜息を吐いた。
「ちょっと場違いな感じがしてきた」
独り言を言ったジョンソンは、戦っている冒険者たちを横目に見ながら奥へと進む。チェックしながら進んでいるので時間が掛かった。
「ここまでは、異常がないようだ」
二層へ下りる階段まで来たジョンソンは、今から二層へ下りようとしている少女と一緒になった。その少女がジョンソンを見て首を傾げた。
「おじさん。その装備からすると、C級以上じゃないの?」
「まあそうだ。中級ダンジョンに潜っているのが不思議か?」
その少女が頷いた。
「最近は邪卒とかが出没するようになったから、調査をしているんだよ」
「そう言えば、見た事がある顔です。もしかして、有名人?」
A級八位ともなると、雑誌や新聞に写真が載ったりする。但し、ジョンソンは写真写りが悪いらしく、本人に会っても一発で名前を言い当てた者は少ない。どこかで会った事がある人、といつも言われてしまう。
「私は、A級のダリル・ジョンソンだ」
「嘘っ」
その少女はジョンソンの名前は知っていたようだ。目を丸くしてこちらを見ている少女に、ジョンソンは苦笑いした。
少女と一緒に階段を下りると、大きな三つの山に囲まれた盆地のような地形が目に入る。盆地は竹のような植物が生い茂っており、竹がほとんどない北アメリカの住人には不思議な空間だと感じられた。
竹は気候が温暖で湿潤な地域や熱帯に限られている。アジア東部と南部、それにアフリカ、南アメリカが主な自生地である。
馴染みのない竹に囲まれた土地をジョンソンと少女は進んだ。
「どうして一緒に来る?」
気の強そうな顔をした少女は、肩を竦めた。
「行先が一緒だというだけです。邪魔ですか?」
ジョンソンは首を振って否定した。
「良かった。あたしはシンシアです」
「E級か?」
「そうです。魔法学院の二年生で、生活魔法が専門です」
「魔法レベルを聞いてもいいいか?」
「まだ魔法レベル5です」
「『5』だと、『ブレード』と『ジャベリン』を使えるのか」
「そうです。ジョンソンさんは生活魔法にも詳しいんですね」
「ああ、生活魔法も勉強しているんだ」
「魔法レベルはいくつですか?」
「『16』だ。『ホーリーメテオ』を習得したばかりだ」
シンシアが目を輝かせた。
「凄い。『ホーリーメテオ』と言えば、邪卒王用の魔法じゃないですか」
その時、近くの
シンシアがチラリとジョンソンを見た。
「獲物を横取りするような事はしないぞ。それに私の目的は、狩りじゃなく調査だ」
それを聞いたシンシアは三重起動の『ジャベリン』を発動し、D粒子の槍をリザードマン目掛けて放った。その槍はリザードマンの腰を掠めて地面に突き刺さる。
リザードマンが血を流しながらシンシアに向かって来た。怖いほど真剣な顔になったシンシアは、三重起動の『ブレード』を発動してD粒子の刃をリザードマンの胴体を目掛けて薙ぎ払った。リザードマンはシンシアを攻撃する事に集中しており、シンシアの攻撃に気付かない。次の瞬間、D粒子の刃がリザードマンの胴体に深く食い込んで切り裂いた。
リザードマンが死んで魔石を落とすと、シンシアが拾い上げた。それから青トカゲやリザードマンを倒しながら、竹林を奥へと進む。すると、山の
三層は不毛な大地が広がる荒野だった。茶色の乾いた土と石や岩がほとんどで、所々に乾燥に強い草が生えている。
「ここも異常はな……」
その時、耳が痛くなるほどの咆哮が大気を震わせた。
「今の咆哮は、どんな魔物が発したんでしょう?」
シンシアが尋ねた。
「さすがに咆哮だけじゃ分からない。私は調べに行くから、シンシアは二層へ戻ってくれ」
「でも、A級のジョンソンさんが居れば、大丈夫じゃないんですか?」
「今回の調査は邪神関係なんだ。邪神眷属や邪卒だった場合は、私一人じゃ倒せないかもしれない」
シンシアは納得した訳ではないが、頷いて二層へ戻り始めた。ジョンソンは収納アイテムからホバーバイクを取り出して乗ると飛び上がった。咆哮が聞こえた方向に飛ぶと、巨大なドラゴンが何かを攻撃している姿が見えてきた。
そのドラゴンと戦っているのは、地元の冒険者たちである。身体の大きさを比較すると、ドラゴンは全長二十メートルほどもありそうだ。
「三つの頭と大きな翼を持つドラゴンか……確か東欧の伝説に出て来る『ズメイ』というネームドドラゴンだったはず。こんな低層に出て来る化け物じゃない。宿無しか?」
ジョンソンは七重起動の『コールドショット』を発動し、D粒子冷却パイルをズメイに放った。高速で飛翔したD粒子冷却パイルが、ズメイに命中した。だが、ズメイの肉体から<邪神の加護>が発揮され、D粒子冷却パイルが拒絶され消滅する。
「チッ、こいつは邪神眷属か」
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