第941話 アメリカの新しいダンジョン

 エロンダンジョンからロンドンに戻り、千佳たちと合流した。見本市は今日までなので、明日には亜美たちと一緒に日本に帰る予定になっている。


 アヴァロンは『創僕』の研究を始めるために自分の城に戻った。そして、チャリスはいつの間にか消えていた。二人とも暇ではないようだ。


 その日、俺は千佳から神剣ヘクスカリバーを預かり、心眼を使って解析した。その結果、一つだけ新しい機能を見付け出した。それは【鬼神撃きじんげき】というものである。剣に注ぎ込んだ鬼神力をスピードと切断する力に特化して撃ち出すという攻撃技で、その威力は巨獣にもダメージを与える事ができそうだ。


 それを千佳に説明する。

「巨獣にも通用する武器だという事ですね。それは凄いです」

「ただ大量の鬼神力を使うので、技の発動時間が長くなりそうだ」

「それだけ練習する必要がある、という事ですね?」

「そうだ」


 俺と千佳はロンドンにある有料練習場へ行って新しく発見した神剣ヘクスカリバーの攻撃技を試す事にした。


 練習場に入るとお馴染みのコンクリートブロックがあった。

「あのコンクリートブロックを狙って、【鬼神撃】を試してみよう。但し、初めは手加減してやってみろ」

「分かりました」


 千佳は神剣ヘクスカリバーを抜き、体内で魔力を循環させながら凝縮して鬼神力を作り出す。その鬼神力を神剣ヘクスカリバーに注ぎ込み、上段に構えて振り下ろした。その瞬間、九十センチほどの綺麗な剣身から鬼神力の刃が飛び出し、コンクリートブロック目掛けて飛翔する。


 長さ二メートルほどの鬼神力の刃がコンクリートブロックを切り裂き、後ろに積んである土嚢どのうも切り裂いて練習場の壁に食い込んだ。


「あっ」

 千佳が小さな声を上げた。もう少しで練習場の外にまで飛び出しそうだったので慌てたのだろう。だが、外は小山があったはずだ。


「今のは、どれほどの鬼神力を注ぎ込んだんだ?」

「全力の三割ほどです。それに鬼神力の凝縮度は五割にも達していなかったはずです」

「それでコンクリートブロックを完全に切り裂く威力があるのか。凄まじいな」


 神剣ヘクスカリバーの【鬼神撃】は、練習場で試せるような技ではなかったようだ。本格的に試すのなら、ダンジョンへ行くしかない。


「日本に帰ってから、試す事にします」

「それがいいだろう」

 千佳は慣れていないイギリスのダンジョンではなく、日本のダンジョンで試す事にしたようだ。


 見本市も終わり、俺たちは日本に帰った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アメリカの魔装魔法使いであるジョンソンは、A級九位から八位になったと知ってホテルのバーで祝杯を挙げていた。


 そこに近寄ってくる者の気配を感じ、ジョンソンは振り向いた。

「ジョンソンさん、久しぶりですね」

 最近になって活躍が評判になっているクレイグ・サムウェルだった。サムウェルはその活躍でA級二十一位なったと聞いている。


「サムウェルか。活躍は聞いている。ブラックサーペントを倒して、凄い魔導武器を手に入れたそうじゃないか」


 魔装魔法使いであるサムウェルにとって、優秀な魔導武器を手に入れた事は最大級の喜びだった。なので、ジョンソンから魔導武器の件を聞くと自然に頬が緩んだ。


「ジョンソンさんのジョワユーズほどじゃないですよ」

 そう言ったが、サムウェルは手に入れた魔導武器に自信があるようだ。そんな風に感じたジョンソンは、サムウェルの新しい魔導武器に興味を持った。


「何という魔導武器を手に入れたんだ?」

「『ナーゲルリング』という剣です」

 中世ドイツの伝説に出て来る剣だと聞いた事があるが、ジョンソンはどんな剣なのか知らなかった。


 ジョンソンとサムウェルは酒を飲みながら情報交換をした。その中でノースダコタ州に新しいダンジョンが現れたという情報が、ジョンソンの危機センサーに引っ掛かった。


 ジョンソンはサムウェルと別れてステイシーのところに向かった。電話で話そうかとも思ったが、直接話す事にした。飛行機でフロリダ州に飛び、ダンジョン対策本部に向かう。


 ステイシーは会議中だったので、会議が終わるのを待つ。一時間ほどでステイシーが会議から戻ってきた。


「珍しいわね。呼んでもいないのに来るなんて」

 ステイシーがジョンソンを見て声を上げる。

「ちょっと気になる情報が入ったので、確認に来たんです」


「何が気になるというの?」

「新しいダンジョンの事です。ノースダコタ州に出現したのは、邪神が関係しているのでは?」


 ステイシーが首を傾げた。

「なぜそう思うの?」

「ハワイの陸軍基地に保管していたギャラルホルンを、ノースダコタ州に移したと考えているからです」


「私にも秘密にしている情報なのよ。そう思う理由は?」

「ゴールデンスライムの出現場所です。最近のゴールデンスライムは、ノースダコタ州の周りにあるモンタナ州やミネソタ州のダンジョン近くに現れました。私はゴールデンスライムの駆除を頼まれましたから、確実な情報です」


「それだけでは、ギャラルホルンがノースダコタ州にあるとは断言できないわ」

「ゴールデンスライムは、全てノースダコタ州がある方向に移動しようとしていました。あいつらは、近くまで行くとギャラルホルンの存在を感じられるのかもしれません」


 それを聞いたステイシーが渋い顔になる。

「それが本当だとすると、邪神は世界中にゴールデンスライムをばら撒いて、ギャラルホルンを感じ取ったゴールデンスライムが現れると、そこに集中させるという事?」


 ジョンソンが頷いた。

「しかも、新しいダンジョンが出現したとなると……」

「邪神がギャラルホルンの保管場所に、何か仕掛けようとしていると考えているのね?」

「そうです。軍に確認した方がいいですよ」


 ステイシーもギャラルホルンの保管場所を知らされていないのだ。それだけ情報管理が厳しくなったという事なのだが、邪卒には通用しなかったらしい。


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