第940話 アヴァロンの躬業

 チャリスが先頭に立ってドロップ品を探し始めた。最初に白魔石<大>を見付けたチャリスが、俺に魔石を持ってきた。アヴァロンが躬業の宝珠以外は、俺の取り分だと言ったので魔石もその一部のようだ。


 俺もドロップ品を探し、草むらの中に玄武の牙のようなものを発見した。マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると、『玄武水筒』と表示された。これで水筒? 玄武の牙で作ったものらしいが、先端部分だけを使ったらしく、長さが二十五センチほどしかない。


「それは?」

 チャリスが質問した。

「これは玄武の牙で作った水筒らしいですね」

「その大きさだと、五百ミリリットルも入らないんじゃないですか?」

「これは魔道具ですよ。魔力を使えば、いくらでも水を出せるようです」


「へえー、試してみないんですか?」

 そう言われて試す事にした。牙型水筒を握って少しだけ魔力を注ぐ、すると水筒の太くなっている方から大量の水が流れ出す。小さな水筒からアッという間に浴槽をいっぱいにするほどの水が出て来たので、魔力を注ぐのをやめた。


「これは飲める水なんですか?」

 チャリスの質問に頷いて肯定する。

「ええ、綺麗で衛生的な水のようです。降雨量の少ない地域なら、凄いお宝なんだろうけど、俺が住んでいるところでは不要かな。換金した方がいいかも」


 大容量の収納アイテムもあるので、水に困る事はないと思う。ただ金に困っている訳でもないので急いで換金する必要もない。


 ちょっと迷い始めたので保留という事にした。他のドロップ品を捜すと巻物を発見した。その巻物をマルチ鑑定ゴーグルで調べると『ラストライトニング』と表示された。雷撃系の攻撃魔法なのだが、普通の雷撃とは異なっていた。


 <脆弱化>という効能が組み込まれており、その雷撃を浴びたものはボロボロになって崩壊するようだ。面白そうな魔法なので研究してみよう。


 アヴァロンが躬業の宝珠を発見した。小さな宝箱のようなものがあり、それを拾い上げて蓋を開けると躬業の宝珠が入っていた。


 アヴァロンが躬業の宝珠を手に持って確認を始めたので、傍に寄って心眼を使って覗き込んだ。その躬業の宝珠は『創僕の宝珠』だと分かった。これはゴーレムを創り出す躬業のようだ。


 使い方によっては、恐ろしい武器となる躬業だった。アヴァロンは俺が持っているマルチ鑑定ゴーグルのような鑑定アイテムを取り出し、躬業の宝珠を調べた。そして、頷きながら収納リングに仕舞う。


「目的のものだったのですか?」

「そうだ。躬業の宝珠だ。これで邪神と戦う事ができる」

「ん? どういう意味です?」


「五層の壁画には、邪神の絵もあった。それを分析すると躬業の持ち主の中で七名が邪神と戦う事になるという意味になるそうだ」


 アヴァロンの言葉を聞き、躬業の宝珠はいくつあるのだろうと考えた。俺が五つ持っているので、欲張りすぎたかと心配になったのだ。本来ならばらばらの人物が所有するはずだったのに、俺が五つも集めたために邪神と戦う戦士が減ったという事にならなければ良いが。


 俺が所有する躬業は『神威』『心眼』『神慮』『界理』『天意』の五つ、千佳が『練凝』を所有し、ステイシーが『魔儺』を所有している。『御空』はハインドマンが所有しているという噂だが確認できていない。


 他にアメリカ軍が『天翼』を持っていたのだが、それが誰の所有になったのか知らない。そして、今日はアヴァロンが『創僕』を手に入れた。


 死んだピゴロッティが所有していた『神言』は、別のところで現れるのだろうか? あの躬業は危険なので、誰が所有者になるのかが気になる。


「約束通り、他のドロップ品はグリム先生のものだ」

「では、手伝ってくれたチャリスさんには、白魔石を譲ります」

 チャリスは嬉しそうに笑って受け取る。

「今回はタダ働きかと思っていた」

 白魔石はオークションなどに出すと数千万円ほどで落札されるので、十分な報酬になるだろう。


 アヴァロンは十層の確認だけして戻るらしい。十層へ下りる階段を見付けて確かめた。十層は雪原であり、雪で視界が制限されるエリアだった。


「寒い、これだと氷点下二十度くらいですよ」

 チャリスが身体を震わせながら言った。俺は保温マフラーを取り出して首に巻く。それを目にしたチャリスが、首を傾げた。


「そんなマフラーで、防げるような寒さじゃないはずですけど」

「これは保温マフラーという魔道具です。これ一つで気温の変化を防げるんです」

「そうなんですか? どれどれ」

 チャリスがマフラーの先っぽを握る。


「本当ですね。寒くなくなった」

 アヴァロンがもう一方のマフラーの先を握る。そして、納得したように頷いた。俺がマフラーを首に巻き、その両端を二人のおじさんが持っているという格好になった。『やめてくれ』と言いたいが、この寒さだと我慢するしかなかった。


「早く戻りましょう」

 俺が提案すると、二人がマフラーの先っぽを握り締めたまま同意した。


 俺たちは地上に向かって進み、地上に戻ると冒険者ギルドに報告した。今回は実績のほとんどがアヴァロンのものになった。俺とチャリスはサポートみたいなものだったからだ。


 ただ冒険者ギルドも躬業の宝珠の事を知っていたらしく、手に入れた躬業の宝珠を買い取らせてくれないかと申し出た。アヴァロンはきっぱりと断った。


 躬業の宝珠が欲しくて玄武を倒したのだから、目的のものを売るはずがなかった。それにアヴァロンが手に入れた躬業は『創僕』である。戦闘シャドウパペットが欲しいと言っていたのだ。巨大なゴーレムも作れる『創僕の宝珠』を手放すはずがない。


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