第939話 アヴァロンと玄武の戦い

 俺たちは六層、七層、八層と進み、ついに九層に到着した。九層には大きな湖が一つあり、その周りは草原になっていた。玄武は湖の島の上に棲み着いているという。


 その島に近い湖畔に着いた俺たちは、玄武が居る島に目を向けた。

「あの島で戦うんですか?」

 俺はアヴァロンに尋ねた。

「いや、こちらの岸から玄武を攻撃すれば、向こうからこっちに来てくれる。準備がいいなら攻撃する」


「準備しますから、待ってください」

 俺はホバーキャノンを取り出し、『プロジェクションバレル』を発動して磁力発生バレルをホバーキャノンに接続した。


 ホバーキャノンの操縦はチャリスに頼んだ。アヴァロンは秘匿魔法で玄武を攻撃しなければならないので、操縦しながらというのは無理だと判断したのだ。


 アヴァロンなら可能かもしれないが、この戦いの主役は彼だ。彼には万全な状態で戦ってもらうのがベストだろう。俺とチャリスがホバーキャノンに乗り込んだ。そして、『マナバリア』を発動する。


「準備は完了です」

「じゃあ、玄武を攻撃する」

 そう言ったアヴァロンが集中するのを感じた。次の瞬間、アヴァロンの身体から大量の魔力が放出され、それが上空で黒い霧のようなものに変化し、それが渦を巻き始めた。


 その黒い渦は紡錘形となって玄武に向かって飛翔する。黒い渦は回転速度を上げて火花のようなものを周りに放ち始めた。火花放電のような黄色い火花でなく、黒い火花である。


 その黒い火花が大きくなり、渦が黒い稲妻の渦に変化した。それが玄武の頭に命中して爆散。黒い火花を飛び散らかせながら、玄武の頭と首が黒い稲妻に焼かれて灰になる。


 その直後、玄武の全身から魔力が溢れ出した。すると、アヴァロンの攻撃により消失した首が再生を始めた。首がニョロニョロと伸びて最後には頭が再生する。それは予想以上に短時間だった。


「あの再生能力は馬鹿げている。そう思いませんか?」

 俺が言うと、チャリスが不安そうな顔をする。

「思うけど、本当に倒せるのか心配になった」

「一撃で仕留められるほど強力な魔法を使えば、可能ですね」


 チャリスが俺に鋭い視線を向けた。

「そんな秘匿魔法を持っているの?」

 俺はわざとニヤリと笑う。

「どうなんでしょうね」

 アヴァロンのようにチャリスをからかってみた。チャリスの顔色が変わるのを見て、こういうのも面白いと感じた。だが、度が過ぎると嫌われそうである。


 頭まで再生した玄武は湖に飛び込み、こちらの岸まで潜ってきた。湖から上がってきた玄武は、アヴァロンを見下ろすとハイドロブレスで攻撃する。


 玄武の口から水の塊が吐き出され、それが空中で水の矢になってアヴァロンへと飛翔する。その威力は岩を貫通するほどだった。アヴァロンは『フラッシュムーブ』を使って水の矢を回避した。そして、反撃とばかりに先ほどと同じ秘匿魔法の一つである『ブラックヴォルテックス』を放つ。


 今度は頑丈な甲羅に命中して甲羅に穴を開けた。だが、内部の肉体にはほとんどダメージを与えられなかったようだ。この『ブラックヴォルテックス』はアヴァロンが頻繁に使う魔法で、チャリスが名前を知っていた。


 俺たちも攻撃を準備する。玄武の周りを旋回しながら、狙いを付けて引き金を引く。砲弾が音速の何倍もの速さで飛翔し、玄武の甲羅に命中した。


 純粋な物理攻撃なので玄武の魔法耐性には影響を受けずに、砲弾が甲羅を砕き爆散しながら破片が玄武の肉体に突き刺さる。


 確実にダメージを与えられるが、思っていた以上に甲羅が頑丈だった。そこで連続で砲撃すると、次々と命中し甲羅を砕く。そして、砲弾が砕かれた甲羅の場所に命中して内部に深く潜り込み、玄武の内臓を破壊した。


 玄武が吠えて俺たちに向かってハイドロブレスを吐き出した。

「ウオッ!」

 チャリスが叫びながらホバーキャノンを操縦して回避する。俺は魔力バリアを展開して水の矢を防いだ。


 俺たちが時間稼ぎしている間、アヴァロンは大技の準備をしていたようだ。アヴァロンの周りに魔力が渦を巻いている。それに反応するかのようにD粒子も集まり始めている。アヴァロンが生活魔法も習得しているので、D粒子も反応しているのだろう。


 アヴァロンの頭上に金色に輝く球体が生まれた。それは次第に大きくなって直径三メートルを超えながら空高く舞い上がる。そのまま『メテオシャワー』のように落下するのかと思っていたら、球体から先の尖った剣のようなものが伸び始めた。


「チャリスさん、あの魔法を見た事がありますか?」

「いや、初めてです」

 チャリスにも見せた事がない秘匿魔法のようだ。俺たちは玄武の攻撃から逃げながらアヴァロンの魔法に注意を払っていた。


 金色に輝く巨大な剣のようだったものが、木の幹から伸びる枝のように斜め下に向かって何本も伸び始める。それは巨大な七支刀しちしとうのような形となり、玄武に向かって落下した。


 黄金の七支刀が刃を下にして落下し、玄武の甲羅を貫いた。枝刃も甲羅を貫き玄武の肉体を切り刻む。その瞬間、玄武はハイドロブレスをやめて藻掻き苦しむ。


 黄金の七支刀は玄武を突き刺したまま脈動するように輝き始めた。その輝きが玄武の肉体を焼き始める。玄武は首や足を甲羅の中に引っ込めて不可侵モードになろうとするが、七支刀の刃と輝きがそれを妨害しているようだ。


 チャリスはホバーキャノンを停めて玄武を見詰め始めた。アヴァロンはこの大技を出すために時間稼ぎする者が欲しかったのだろう。


 玄武が断末魔の叫びを上げて光の粒となって消える。チャリスはホバーキャノンをアヴァロンの近くに着陸させた。ホバーキャノンを収納し、祝福の言葉をアヴァロンに掛ける。


「おめでとうございます。あの魔法は何という名前なんです?」

 アヴァロンが嬉しそうな顔をする。

「『セブンブランチソード』だ。魔力消費は凄まじいが、魔法耐性の高い魔物を貫通するだけの威力を持つ魔法だ。但し、玄武が不可侵モードになると貫けたかどうかは分からない」


 アヴァロンは不変ボトルを取り出して万能回復薬を飲んだ。

「クーッ、全身に染み渡るぜ」

 日本人が美味しい酒を飲んだ時に『五臓六腑に染み渡る』と言う表現を使う事があるが、同じような意味だろう。


「アヴァロンさん、ドロップ品を探しましょう」

 チャリスが声を上げた。


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