第884話 三者三様
「あなた、A級のアリサさんに対して失礼ですよ」
姫川がアリサを馬鹿にするような事を言った地元冒険者を睨んで強い口調で言った。
「えっ、でも、A級の
アリサはグリムと結婚して
「あれは伊達メガネです」
アリサは数年前まで目が悪くメガネを掛けていたのだが、『視力回復の指輪』を手に入れて視力は回復していた。ただ新聞やテレビに出る時は伊達メガネをして出るようにしている。変装という事ではなく、その頃にはアリサのメガネはトレードマークみたいなものになっていたからだ。
だからかもしれないが、メガネなしのアリサはA級冒険者だと気付いてもらえない事が多い。アリサはそれで良いと思っているので、いちいち名乗る事はなかった。
これで分かってくれただろうとアリサは思ったのだが、この地元冒険者は疑い深かった。
「いやいや、おれはA級冒険者の高瀬さんや長瀬さんにも会った事があるんだ。A級冒険者からは何かプレッシャーみたいなものを感じたぞ」
「疑り深いわね。アリサさん、ここは一発ウォーミングアップで本物のプレッシャーを見せてやってください」
こういう場面が好きな姫川が生き生きとしている。アリサは困ったような顔になったが、姫川が期待するような目で見ているので、ウォーミングアップをする事にした。
アリサの体内で魔力が循環を始め、次第に魔力が増えていく。そして、身体から魔力が溢れ始めた。すると、生活魔法使いの魔力に反応したD粒子が溢れた魔力に引き付けられ、アリサの周りで渦を巻き始めた。そのD粒子の動きでポルターガイストのようにテーブルが震えだし音を鳴らす。
プレッシャーを感じた地元冒険者が、青褪めた顔になっている。それどころか姫川自身も顔が強張っていた。それだけ強いプレッシャーを感じたのだ。まずいと思ったアリサはウォーミングアップを止めた。
「これで分かってもらえたかしら?」
地元冒険者は声が出ないようで、黙ったまま何度も頷いた。アリサはそんなに怖がらなくても良いですよ、と知らせるために優しく微笑み掛けたが、地元冒険者は益々顔を強張らせた。
ちょっと資料室に居づらくなったので、冒険者ギルドを出て食事をする事にした。居酒屋に入った四人は料理とビールを注文する。
「料理とお酒が、もの凄く値上がりしていますね」
咲希がメニューを見ながら言う。
「材料費が上がっているから、仕方ないのよ。それよりウォーミングアップの件で、変な噂が立たないか心配」
「大丈夫だと思いますよ。それより、このまま食料が高くなったら、どうなるんですか?」
紫音がアリサに尋ねた。
「そうね。こういう店は閉めるしかなくなるかな。後はメインの食材が芋になるかも」
「サツマイモやジャガイモは好きだから、いいですけど。それが毎日だと確実に飽きますね」
飽きるくらいなら良いが、国によっては餓死する人も出るかもしれない。政府は日本の食料は大丈夫だと言っているが、四人で話しているうちに心配になった。
「咲希のお母さんは、まだ群馬に居るんでしょ。心配だから渋紙市に呼んだ方がいいわよ」
アリサが言うと咲希は真剣な顔で頷いた。姫川と紫音の両親は、彼女たちの兄弟と一緒に居るので大丈夫なようだ。但し、食料に困るようなら渋紙市に呼んだ方が良いとアドバイスした。その後は食べて飲んでホテルで寝た。
次の日、アリサたちは奈半利ダンジョンへ向かった。奈半利ダンジョンは、住宅地に出来たダンジョンで土地を国が買い上げて入り口の周りに高い塀を建設し、その隣にダンジョンハウスを建てている。
ダンジョンハウスで着替えて奈半利ダンジョンに入った。ブタバシリは草原で発見されている。だが、何層の草原かはっきりしないので、階層に関係なく草原を中心に探す事に決めていた。
一層は森が広がるエリアなのでホバービークルで飛ぶ事にする。このホバービークルはグリムが使っているものを借りた。一層を無事に通過すると二層に下りる。その二層は草原だった。
「この草原にブタバシリがあるかもしれないんですか?」
紫音がアリサに確認した。
「ええ、ブタバシリの事が書かれた資料は、曖昧な書き方をしていて、草原エリアだったという事しか分からないの」
アリサたちは草原を歩き回りながら、ブタバシリを探し始めた。五分ほど進んだ頃、三匹のオークと遭遇する。
「私たちが倒します」
姫川は咲希と紫音に合図して前に出た。姫川はタイチとシュンが富山の早月ダンジョンへ遠征した時に知り合い、生活魔法を学ぶために渋紙市に引っ越してきた。
普段はC級冒険者として鳴神ダンジョンで活動しているが、生活魔法を学ぶ時だけアリサたちと組んでダンジョン探索をしている。モデル並みのスタイルと容貌の持ち主なのでバタリオンでは人気があり、生活魔法の魔法レベルは『12』になっていた。
咲希はアリサと姫川が群馬県の妙義ダンジョンへシャドウウルフの影魔石を取りに行った時に知り合い、咲希が分析魔法の才能があると分かったので、アリサの助手のような事をしながら生活魔法を学んでいる。
最後の紫音は付与魔法の才能があるので、天音から付与魔法について学びながら生活魔法も勉強している。生活魔法の魔法レベルは『9』になったばかりで、三橋師範と天音から学んでいる影響が戦い方に出ているようだ。
姫川は攻撃魔法だけでは限界だと感じて生活魔法を学び始め、その成果がようやく出てきたところだった。とは言え、オークが相手ではその成果を披露するまでもなく『バレット』の魔力弾で仕留めた。
咲希はオークが近付くのを待ち構えて三重起動の『コーンアロー』を発動し、D粒子コーンの矢で仕留めた。その射撃精度は正確でオークの心臓を刺し貫いている。
そして、紫音は三重起動の『サンダーボウル』を発動して放電ボウルを放ち、命中したオークが麻痺して倒れたところをバタリオンの武器庫からレンタルしている蒼銀製戦鎚を叩き込んで仕留めた。この戦い方は天音から学んでいるからなのだろう。
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