第885話 ブタバシリの発見

 奈半利ダンジョンの二層を探し回ったが、ブタバシリは探し出せなかった。アリサたちは二層の草原にはないのだと判断し、八層の草原へ向かう。途中の階層はホバービークルで飛ぶか最短ルートで通過した。


 そして、八層の草原を丹念に探し回ったが、ここにもない。

「ここにもなかった。本当にあるんですかね?」

 姫川が暗い表情になって言う。八層の草原にもないとすると、次は十六層の草原になる。姫川たちが疲れているのに気付いたアリサは、十層の中ボス部屋に行って野営する事にした。


 中ボス部屋に到着したアリサは、執事シャドウパペットのサクラを影から出して野営の準備をさせた。サクラは猫人型シャドウパペットで体重が九十キロほどである。戦闘もできる執事というコンセプトで教育したので、ある程度の戦闘も可能だが、メインは執事となっている。


 器用にテーブルや折り畳みベッドを組み立てると、夕食の準備を始めた。その様子を姫川がジッと見ていた。


「執事シャドウパペットは、いいですね」

 アリサが姫川に目を向ける。

「そう思うなら、自分で作ったらどうです?」

「でも、私は不器用な方だから」

 それを聞いたアリサが微笑んだ。

「一人だと難しくても、バタリオンの仲間に声を掛け、手伝ってもらえばいいのです」


「手伝ってもらうと言っても、誰に?」

「天音や亜美は忙しそうだから、シュン君や千佳に頼んだらいいですよ」

「でも、お二人はA級とB級なんですよ」


「ランクなんて関係ないです。但し、シャドウクレイや影魔石、ソーサリー三点セットは、自分で用意しなきゃならないので、大変だと思いますけど」


 そんな話をして夜を過ごした翌日、アリサたちは十六層の草原に向かった。十六層の草原は八層より三倍ほど広かった。そこでチームを二つに分けて探す事にした。アリサと紫音、姫川と咲希の組み合わせである。


 草原を二つに分けて右側をアリサたち、左側を姫川たちが探す事にした。アリサたちが右側へ離れていくと、姫川と咲希も左側に向かって歩き出す。


「アリサさんと離れると、何だか不安になるのはどうしてでしょう?」

 咲希が姫川に尋ねた。

「普段のアリサさんからはプレッシャーは感じないけど、何か存在感みたいなものがあるのよ」


 それを聞いた咲希が納得して頷いた。

「そう言えば、姫川さんはまだB級にならないの?」

「ならないんじゃなくて、なれないのよ。中ボスクラスの魔物をバンバン倒さないとB級は難しいから」


「そうなんだ。バタリオンの人たちがどんどんB級以上になっているから、もっと簡単なのかと思ってました」


「グリーンアカデミカは特別よ。特にグリム先生の直弟子の人たちは異常なのよ」

「あっ、アーマーボアです」

 姫川たちはアーマーボアと遭遇した。中級ダンジョンで遭遇する魔物の中では、防御力が高くタフな巨大猪である。アーマーボアも姫川たちに気付いて威嚇の声を上げて突進を開始する。


 姫川は五重起動の『ハイブレード』を発動し、D粒子の長大な刃を形成すると迫って来るアーマーボアに向けて振り下ろす。大気を切り裂いた高速の刃が、アーマーボアの頭を真っ二つにした。


「アーマーボアを一撃ですか」

「咲希だってできるでしょ」

「できますけど、実際に戦うと怖いんですよね」

 体長三メートルの巨大な猪に近付いて生活魔法を発動するというのは、はっきり言って怖い。習得できる魔法レベルが低い生活魔法は射程が短いので仕方ないのだが、それ故に使い熟すのに精神的修業が必要だった。


 基本が攻撃魔法使いである姫川が生活魔法を習い始めた時、接近して戦うという事に中々慣れなかった。今では使い熟せるようになったが、諦めてしまう者も居るはずだ。


 姫川たちは魔石を回収して先に進む。草原に生えている雑草の中から、里芋に似ている葉っぱを探しながら進んでいるので、ゆっくりとした歩みになる。


 ブタバシリを探して歩き回っている時、遠くの方から何かが戦っている音が聞こえてきた。姫川と咲希の二人は何事かと確かめに向かう。すると、遠くにアタックボアとオークが戦っている姿が見えてきた。


「珍しいですね。魔物同士が戦っています」

 咲希の言葉を聞きながら、姫川が目を輝かせた。

「ふふふ……分からないの、咲希」

「何がですか?」

「きっとアタックボアとオークは、ブタバシリを見付けて争っているのよ」


「なるほど、そうかもしれません」

 姫川と咲希は話し合い、アタックボアとオークを最後まで叩き合わせる事にした。どちらかが倒れたら、残った方を手早く倒してブタバシリを手に入れる作戦である。


「何だか、作戦がせこくないですか?」

 そう言った咲希を、姫川がジロリと睨む。

「グリム先生みたいに、段違いの実力があるなら、力でねじ伏せればいいけど、私たちみたいにそこそこの実力しかない者は、これくらいでいいのよ」


 二人は隠れて魔物の戦いを最後まで見守った。結果はアタックボアの勝ちである。オークは棍棒しか武器を持っていないからだ。さすがに棍棒でアタックボアを倒すのは無理だった。


 オークが光の粒となって消えた瞬間、姫川と咲希が跳び出して『ジャベリン』を使ってアタックボアを仕留めた。その後、魔物たちが戦っていた辺りを探す。


「姫川さん、これじゃないですか?」

 咲希がブタバシリを発見して声を上げた。姫川が近付いて確かめると、本当に里芋のような植物が五株ばかり生えている。


「掘ってみよう。実がジャガイモみたいだったら、ブタバシリで決定よ」

 二人はブタバシリらしい植物を掘り出した。すると、親芋から伸びた根っこの先に子芋が実っている。その実は確かにジャガイモに見えた。


「やりましたね」

「ええ、ブタバシリ発見が実績になって、B級の昇級試験を受けさせてくれないかな」

 姫川が言うと、咲希が首を振る。

「それは無理だと思いますよ。ブタバシリの最初の発見者は、別に居るんですから」


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