第881話 草原ダンジョンの異変
攻撃魔法使いの
D粒子の衝撃吸収シールドが形成され、それにアタックボアが衝突して突進が止まる。『エアガード』で魔物の突進が止まったら、魔装魔法使いの二人が跳び出してトドメを刺す事になっていたのだが、その二人が出遅れた。『エアガード』の防御力を信用できずに、完全に止まるまで動かなかったのだ。
魔装魔法使いの一人が飛び掛かった時には、アタックボアも状況を把握していた。アタックボアは後ろに跳んで攻撃を避けた。その様子を厳しい顔をした鉄心が見守っている。
「アタックボアが走り出す前に、仕留めろ!」
鉄心の指導の声が響いた。魔装魔法で筋力を強化している魔装魔法使いたちが、剣を振り上げて攻撃する。その攻撃でアタックボアにダメージを与えた。但し、致命傷ではない。
続いて生活魔法使いの二人が五重起動の『コーンアロー』を発動し、アタックボアの脇腹と首を貫いてトドメを刺した。それを見た鉄心が不満そうな顔になる。
鉄心は魔装魔法使い二人に目を向けた。
「もう少し踏み込めば、アタックボアの首を狙えたはずだ。それに生活魔法の日比野たちは、三重起動で十分だったはずだ。魔力消費にも気を配れ」
鉄心は細かい指導をしてから、草原の背が高い草が生えている場所に注意を向ける。
「どうかしたんですか?」
日比野が尋ねた。
「あの草むらの中に、三匹のアタックボアが潜んでいる。一斉に襲い掛かってきそうだ」
「分かるんですか?」
「D粒子センサーを鍛えれば、これくらいは分かる。おれが二匹を倒すから、残りの一匹は五人で倒せ」
鉄心がそう言った直後に、三匹のアタックボアが草むらから跳び出してきた。鉄心はマジックポーチⅠから白輝鋼製菊池槍を取り出した後に、一匹目に向かって三重起動の『ジャベリン』を放って仕留めた。続けてもう一匹に駆け寄ると菊池槍の一突きでアタックボアの心臓を刺し貫いた。
この菊池槍はグリムからもらったものだ。長い柄に短刀のような片刃の刀身を付けた槍で、<貫穿>と<斬剛>の特性が付与されている。鉄心はメイン武器として魔導武器の神槍ゲイアッサルを使っているのだが、神槍ゲイアッサルは強力すぎて教育の現場では向かないと分かり、実習などでは菊池槍を使っている。
鉄心が二匹を倒した後も、生徒たちとアタックボアの戦いは続いていた。アタックボアが強いという事ではなく、生徒たちの連携がまずいのだ。今回の実習は連携が課題なので生徒たちには協力して戦ってもらう。
やっとアタックボアを倒した生徒たちが、鉄心のところへ戻ってきた。
「鉄心先生、一人で戦ったらダメなんですか?」
今林が確認した。
「ダメに決まっている。課題が連携だと言っただろ」
「でも、一人で戦った方が早く倒せます」
「今はそうかもしれないが、連携が上手くいくようになれば、強力な魔物も倒せるようになるんだ」
今林は不満そうだったが、これくらいの連携ができなければ冒険者としては失格だ。
「おれはソロで活動するつもりなのに……」
その時、異様な気配を感じた鉄心は、気配の方角に目を向ける。いきなり鉄心が厳しい顔になったので、生徒たちが首を傾げた。
「先生、どうしたんですか?」
「変な気配がする。皆、気を付けろ」
生徒たちが鉄心が目を向けている方角に視線を向けた。すると、草むらからオークナイトが現れた。
「えっ、草原ダンジョンにオークナイトは居ないはずだろ」
今林が驚きの声を上げた。その声が聞こえたのか、オークナイトが鉄心たちに目を向ける。鉄心は生徒たちに下がるように指示した。
「おれたちも戦います」
今林が反発する。
「ダメだ。お前たちでは返り討ちに遭う。それにこいつは普通のオークナイトじゃない」
そう言った鉄心が『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを放つ。D粒子振動ボールはオークナイトに命中したが、何のダメージを与える事もできなかった。
「邪神眷属だ!」
日比野が青い顔になって叫び声を上げる。鉄心は武器を菊池槍から神槍ゲイアッサルに替えた。そして、影からワーベア型シャドウパペットの『
その大黒天は武器として<清神光>を付与した蒼銀で作った
「鉄心先生は、戦闘シャドウパペットも持っていたのか。凄いな」
井筒が驚いて声を上げる。
ワーベア型の大黒天が生徒の前に出ると、鉄心が神槍ゲイアッサルを構えてオークナイトに近付いた。鉄心は試しに五重起動の『ライトニングショット』を発動し、D粒子放電パイルをオークナイトに撃ち込んだ。オークナイトには絶大な効果があるはずの雷撃系の攻撃が全く通用しない。
オークナイトがロングソードで切り付ける。それを神槍ゲイアッサルで受け流し、『ホーリーキャノン』を発動して聖光グレネードを撃ち込んだ。
聖光グレネードに気付いたオークナイトが五メートルほど跳躍して躱す。鉄心は追撃して神槍ゲイアッサルの突きを叩き込もうとした。だが、オークナイトはロングソードで受け流し、生徒たちの方へ走り出す。鉄心は舌打ちして追い掛け始めた。
オークナイトが生徒たちに近付いた時、大黒天がオークナイトの胴を狙ってホーリースピアで薙ぎ払う。胴に入ったホーリースピアが、オークナイトを弾き飛ばした。
「よくやった」
鉄心が声を上げて地面に横たわるオークナイトに駆け寄り、『ホーリーソード』の聖光ブレードでオークナイトの首を刎ねた。オークナイトが消え、紫に変色した魔石が残る。そして、魔導武器らしい短剣がドロップした。
生徒たちがホッとした顔をして集まってきた。
「先生、それは何ですか?」
「魔導武器の短剣だと思う」
「凄え、冒険者ギルドで換金したら、いくらになるんだ?」
鉄心は実習を中断して地上に戻り、冒険者ギルドに報告する事にした。
冒険者ギルドに到着し、受付で邪神眷属の事を報告すると支部長室に呼ばれた。生徒たちを連れて支部長室へ入ると近藤支部長が笑顔で迎えてくれた。
鉄心が詳しい報告をすると、魔石とドロップ品を確かめたいと言うので支部長に渡す。受付の加藤が呼ばれて鑑定すると、間違いなく邪神眷属の魔石だと分かった。そして、短剣は『光の短剣』だった。
「光の短剣を買い取りたいのだが、いいだろうか?」
鉄心は邪神眷属や邪卒の対策で、ギルドが光の短剣を集めていると知っているので承知した。それを見ていた生徒たちは、鉄心を凄い冒険者だったんだと認識を改めた。
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