第869話 巨人カークス

 三橋師範たちは九層の廃墟を抜けて十層に下りる。そして、ホバーバイクに乗って森の上を中ボス部屋に向かって飛び始めた。ここの森は恐竜型の魔物が多いと有名だが、恐竜狩りをするつもりはない。


 中ボス部屋の近くに着陸してホバーバイクを仕舞う。歩いて中ボス部屋に通じるトンネルがある場所へと向かうと、トンネルの入り口付近をソーンサウルスがうろうろしていた。


「さあ、これからだという時に、こういう奴が居るとテンションが下がりますね。私が始末しましょうか?」

 瀬戸の申し出を三橋師範は断った。ちなみに、ソーンサウルスは体長四メートルほどで背中に大きな棘を剣山のように背負っている恐竜型魔物である。


 三橋師範はソーンサウルスの前にゆっくり歩み出ると、『クラッシュボール』を発動してD粒子振動ボールをソーンサウルスに向かって放った。D粒子振動ボールがソーンサウルスの脇腹に命中して空間振動波が放射された。


 その空間振動波はソーンサウルスの胴体を貫通して反対側に抜けた。その一撃でソーンサウルスの心臓が破壊されて死んだ。


「お見事です」

 瀬戸の言葉に頷いた三橋師範がトンネルに目を向ける。

「さて、行こう」


「中ボス部屋に入ったら、すぐに隅に避難しますから、私を気にせずに戦ってください」

「分かった」

 中ボス部屋を覗いた三橋師範は、中に体長五メートルの巨人カークスが居るのを確認した。ギリシャ彫刻のような肉体を持つ巨人で、手には巨大な戦鎚を持っている。


 この巨人がB級昇級試験の課題となっているという事は、アイアンドラゴン並みに強いという事である。冒険者ギルドの資料によると、素早さは人間並みで筋力は二十人力、脅威なのは魔法耐性や防御力がドラゴン並みだという点だ。


 衝撃吸収服のスイッチを入れ、『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻いてから中に入った。続いて入った瀬戸は、部屋の隅へ走って行く。


 侵入者に気付いた巨人カークスは、巨大な戦鎚を掲げて雄叫びを上げた。そして、そのまま三橋師範に向かって走り出す。三橋師範は横に三メートルほど跳んで避けた。竜鱗ブーツの脚力六倍の効果があるので、これくらいの跳躍は楽勝である。


 巨大な戦鎚が地面を叩く音を聞いた三橋師範は、巨人の懐に飛び込むと右膝に龍撃ガントレットを打ち込んだ。魔力衝撃波が発生して巨人の膝にダメージを与えたが、防御力がドラゴン並みなので少し痛みが走る程度だろう。


 巨人が三橋師範に向かって戦鎚を横薙ぎに振る。大きくバックステップして躱した三橋師範は、『カタパルト』を発動して巨人の頭に向かって身体を投げ上げる。


 巨人の顔に龍撃ガントレットを叩き込むと、魔力衝撃波の威力で巨人カークスの顔が歪み、意識が遠のいたように全身をゆらりと揺らした。


 やはり龍撃ガントレットだけでは倒せないと判断した三橋師範は、『クラッシュステルス』を発動してステルス振動弾を巨人に向けて放った。このステルス振動弾には巨人も命中するまで気付かなかった。


 巨人カークスの右肩に命中したステルス振動弾は、直径十センチの穴を穿った。血を噴き出しながら戦鎚を落とした巨人が苦痛の叫び声を上げる。血走った目で三橋師範を見下ろした巨人が、捕まえようと左手を伸ばす。


 痛みで冷静な判断ができなかったようだ。三橋師範は『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードで左手の肘の部分を斬り飛ばす。


 両手が使えなくなった巨人が吠えて暴れ始めたのを見た三橋師範は、冷静に『クラッシュソード』で右足を攻撃して巨人が立っていられなくする。


 バランスを崩した巨人がゆっくりと倒れ始めると、三橋師範は『ホーリーキック』を発動して魔法を待機状態にしてから、巨人の頭が倒れる位置まで跳躍して巨大な顔が地面でバウンドして跳ね上がった瞬間、蹴りを叩き込んだ。足の甲から眩しい光が放たれ、聖光貫通クラスターが巨大な顔を貫通した。


 巨人カークスが光の粒になって消えると、中ボス部屋の隅に宝箱が現れた。見守っていた瀬戸が三橋師範に近付いて来た。


「おめでとうございます。これでB級昇級試験は合格です」

「この巨人だが、本当にドラゴン並みの強さがあったのか?」

「間違いなくあります。ただ三橋さんとは相性が良かったのではないかと思います」

「相性?」


「人型の魔物だったので、空手が応用できたのではないでしょうか?」

「なるほど。ドラゴンだったら、もう少し手子摺てこずったかもしれないな」

 三橋師範はグリムだったらどう戦っただろうと考えた。グリムなら大技の一撃で仕留めたかもしれない。


「ドロップ品を探すのを手伝います」

 瀬戸がドロップ品探しを始めたので、三橋師範も探し始める。最初に白魔石<小>が見付かり、次に防具の脛当すねあてのようなものが発見された。


 その脛当てを鑑定モノクルで調べると『神爪レガース』と表示された。これは神話級の魔導武器で、格はメジャーに分類されるものだという。その使い方は、魔力を流し込みながら蹴る事で次元断裂刃が飛び出し、対象物を斬り裂くというものだった。


 次元断裂刃というと、ジョンソンの愛剣ジョワユーズが繰り出す必殺技と同じである。A級上位の魔装魔法使いが使っている魔導武器と同レベルというのは、相当な威力を持つのだろう。


 ドロップ品は神爪レガースだけのようだった。次は宝箱を開ける番である。部屋の隅に現れた宝箱に近付き、罠のチェックをしてから蓋を開けた。中に入っていたものは小さなペンダントと蒼銀のインゴットだった。一キロのインゴットが二十本ほど入っていた。


「このペンダントは、魔導装備ですかね」

 瀬戸が宝箱を覗き込んで言う。三橋師範がペンダントを拾い上げて鑑定モノクルで調べる。すると『収納ペンダント』である事が分かった。その容量は縦・横・高さがそれぞれ六メートルの空間と同じである。


 収納ペンダントを首に掛けた三橋師範は、蒼銀インゴットを仕舞ってみる。ちゃんと収納できたので本当に収納ペンダントだと確認できた。


「今回はドロップ品の数は少ないが、豪華なような気がしますね」

「試験官も、巨人カークスを倒してB級に?」

「そうです。私の時はドロップ品が『効率倍増の指輪』と『魔法強化の指輪』で、宝箱には上級治癒魔法薬が四本入っていました」


 それなりに高価なものだが、インパクトに欠けるような気がする。そう三橋師範は思ったが、瀬戸が攻撃魔法使いだったのを思い出した。


「『効率倍増の指輪』と『魔法強化の指輪』……それらは攻撃魔法使いとして最高の贈り物ではないかな」

「そうなんですが、神話級の魔導武器と比べると見劣りがするんです」


 贅沢を言ったらきりがない。それに上級治癒魔法薬が四本なら、オークションに出して三億くらいになったはずだ。


 三橋師範たちは地上に向かって戻り始めた。地上に戻った二人は、冒険者ギルドへ行って報告した。これで三橋師範のB級は確定である。


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