第868話 ケンタウロススケルトン

 ハイゴブリンの群れを全滅させた三橋師範は、魔石を回収してから山々の間を縫うように進み始める。しばらくしてワイバーンが上空を飛んでいるのに瀬戸が気付いた。


「あれは我々を狙っているのですかね?」

 瀬戸が上空を見上げて三橋師範に尋ねた。

「襲ってきたら、返り討ちにするだけの事」

 三橋師範はワイバーンをチラリと見てから先に進み始めた。階段が近くなった頃、初めてワイバーンが急降下を開始した。


「最後まで手を出さなければ、良かったのに」

 『バーストショットガン』を発動した三橋師範は、三十本の小型爆轟パイルをワイバーンに向かって撃ち上げた。その中の三発がワイバーンを捉えて爆発。巨大な翼を折られたワイバーンが地面に激突して首の骨を折った。


 それでも死なずに藻掻いているワイバーンに駆け寄った三橋師範が、龍撃ガントレットで巨大な頭を数回殴って頭蓋骨を粉々にした。瀬戸は口を開けたまま見ていた。

「ワイバーンをどついて仕留めるなんて、初めて見た」


 魔石を回収して三層に下りる。一層の荒野よりも乾いた砂漠が広がっており、ここを歩いていくのは嫌だと思った三橋師範は、ホバーバイクをマジックポーチⅦから取り出した。マジックポーチⅦは七千リットルの容量があるのでホバーバイクなら収納できる。


 このホバーバイクはグリムに依頼して作ってもらったものだ。三橋師範としてはかなりの出費だったが、将来的に絶対に必要だと考えて購入したのである。


 このホバーバイクは二人乗りになっている。ホバーバイクの汎用型が二人乗りなので、しっかりした後部座席が存在する。


 瀬戸は装甲車で行くつもりだったようだが、ホバーバイクの後部座席に乗せる事にした。ホバーバイクが浮き上がると、『おっ』と瀬戸が声を上げる。ちなみに、一層と二層でホバーバイクを使わなかったのは、ダンジョンで実戦の勘を取り戻すと同時に身体を慣らすためである。


 そのホバーバイクで三層の砂漠、四層の海、五層の草原を飛んで五層の中ボス部屋まで行く。

「あのホバーバイクは、素晴らしいですね」

 中ボス部屋で野営の支度を始めた瀬戸が言った。

「中々手に入らない金属を使っているそうだから、簡単には造れんそうだ」


「そうでしょうね。簡単に造れるのなら、今頃製造会社が設立されているでしょう」

 グリムは忙しいので、そんな余裕はないのだろうと三橋師範は思った。


 そろそろ夕方の時間なので、その中ボス部屋で野営の準備を始めた。三橋師範は戦闘シャドウパペットの十兵衛を出そうか迷ったが、瀬戸がまた驚きそうなのでやめる事にした。


 翌日、五層の中ボス部屋を出発した三橋師範たちは、ホバーバイクを使いながら問題なく九層まで来た。この九層はアンデッドが出没するエリアである。三橋師範たちはホバーバイクで飛ばずに歩いて行く。


 三橋師範はファントムなどの霊体型アンデッド用の武器を鍛冶屋に特注して用意していた。『ホーリーメタル』を使って<清神光>の特性を付与した蒼銀を作り、その蒼銀で腰鉈こしなたと呼ばれる刃物を作製して武器にしたのだ。


 本来の腰鉈は山歩きで蔓を切断したり、薪割りに使ったりするものだ。三橋師範は日常生活で腰鉈を使っていたので使い慣れており、ファントムなども蒼銀製腰鉈でスパッと斬っている。


 その時も半透明なファントムが現れてふらふらと近付いて来たので、腰に吊るしている腰鉈を素早く引き抜き横薙ぎに真っ二つにした。


 三橋師範たちが廃墟の町を進んでいると、珍しいアンデッドが現れた。ケンタウロスがアンデッド化したケンタウロススケルトンである。


「あれは無視した方がいいですよ」

 瀬戸が忠告してくれた。

「襲ってくるのではないのか?」

「後を追い掛けてくるだけで、襲ってはきません。ただ攻撃されると仲間を呼びます」


「嫌なアンデッドだな。それにストーカーされているようで、気分が悪い」

「ここは我慢した方がいいですよ」

 三橋師範は忠告に従って我慢する事にした。だが、攻撃されないと分かったケンタウロススケルトンが、調子に乗って三橋師範たちとの距離を縮めた。


 魔物が傍に居るので、臨戦態勢で歩く事になる。三橋師範は不機嫌な顔でケンタウロススケルトンに視線を向ける。そのケンタウロススケルトンも三橋師範たちを監視するように顔を向けて後ろから付いて来る。非常に鬱陶しい。


 三橋師範とケンタウロススケルトンが睨み合いながら進んでいると、ケンタウロススケルトンが建物の瓦礫に足を引っ掛けてコケた。


 頭から転んだケンタウロススケルトンの頭蓋骨にピキッとヒビが入る。そして、立ち上がったケンタウロススケルトンが顔を上に向けカクカクと顎の骨を鳴らした。


「しまった。仲間を呼んだようです」

 瀬戸が声を上げた。

「ちょっと待て、儂は何もしておらんぞ」

 三橋師範が大声を出したが、遠くから何かが近付いてくる気配を感じて目を向ける。ケンタウロススケルトンの群れだった。


 その群れは最初のケンタウロススケルトンの前に集まった後、三橋師範たちに向かって突撃してきた。なぜか最初のケンタウロススケルトンが満足そうに見守っていた。


「あのケンタウロススケルトンは性悪しょうわるだな。成敗せいばいするぞ」

「成敗ですか……分かりました」

 全部で十二匹ほどの群れは、二手に分かれて三橋師範と瀬戸に襲い掛かった。三橋師範は『ホーリーキャノン』を発動し、聖光グレネードを群れの中心に叩き込んだ。着弾した聖光グレネードが爆発し、<聖光>が付与されたD粒子が広がってケンタウロススケルトンにダメージを与える。


 この攻撃で二匹のケンタウロススケルトンが消えた。近付いてきたケンタウロススケルトンが前足で三橋師範を踏み潰そうとする。ギリギリで躱した三橋師範が、龍撃ガントレットを剥き出しの背骨に叩き付ける。その一撃で背骨が粉砕され、ケンタウロススケルトンが一匹減った。


 一方、瀬戸は『クラッシュバレット』の破砕魔力弾で近付くケンタウロススケルトンを粉砕。次に『ヘビーショット』を発動して魔力榴弾を叩き込んだ。B級冒険者らしく着実にケンタウロススケルトンを仕留めていく。


 三橋師範は衝撃扇を取り出して広げると、ケンタウロススケルトンの群れに衝撃波を放った。その攻撃でケンタウロススケルトンの攻撃が止まる。その隙に七重起動の『ハイブレード』を発動し、十メートルもあるD粒子の刃を横薙ぎに振り切る。


 その一撃で五匹のケンタウロススケルトンの胴体が切り裂かれた。地面に倒れて藻掻くアンデッドたちに駆け寄った三橋師範がトドメを刺す。それで残り二匹となった。瀬戸と戦っているケンタウロススケルトンと最初の性悪である。


 三橋師範はそいつを睨み付けながら近付く。そいつは棍棒を振り上げて襲ってきた。その棍棒はケンタウロススケルトンの標準装備という訳ではなく、落ちていたのを拾って使っているらしい。


 棍棒が三橋師範に振り下ろされ、それをするりと躱して馬体部分の肋骨に龍撃ガントレットを叩き込む。その瞬間、魔力衝撃波が発生してケンタウロススケルトンが吹き飛んだ。近付いた三橋師範は、そいつの人体部分の背骨を踏み付けてからフルボッコにして仕留めた。


 性悪ケンタウロススケルトンが消えると、ドロップ品を残した。黄魔石<大>と白輝鋼製の刃に長さ五十センチほどもある柄を組み込んだ鉈だった。鑑定モノクルで調べてみると、『白鬼鉈』と表示された。伝説級の魔導武器で魔力を流し込みながら一撃すると刃から衝撃刃が飛び出して敵を切り裂くようだ。


「魔装魔法使いが好きそうな魔導武器だな」

 瀬戸が近付いてきて三橋師範が持つ白鬼鉈を見る。

「ケンタウロススケルトンが、魔導武器をドロップするなんて珍しい」


 三橋師範と瀬戸はチームを組んでいる訳ではないので、ドロップ品は魔物を倒した者の所有物になる。三橋師範は篠田に白鬼鉈をプレゼントすると言ったら、どう反応するだろうと考えた。高価すぎる贈り物だから拒否するかもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る