第822話 邪卒用キック魔法
屋敷に戻った俺は、三橋師範に約束した魔法の開発を始めた。作業部屋のソファーに深々と座り、賢者システムを立ち上げる。
『新しい魔法が起動する切っ掛けを、蹴りの動作にするという話でしたが、訓練しないと難しいのではないですか?』
メティスが気になった点を尋ねた。
「まあ、そうだな。掌打プッシュを実行するために一ヶ月くらい練習したからな」
『今回の魔法も同じようにするのですか?』
「今回は魔法を発動した後、それが実際に動き出すまで保留、いや待機状態にしておく事を考えている」
『待機状態?』
「ああ、追尾機能を持つ『スキップキャノン』などで、相手をロックオンするまで魔法は待機状態になっている。あれと同じだ」
『なるほど、それで蹴りが魔物に命中した時に撃ち出すのですね?』
「そうだ」
『足のどの部分が当たったら、撃ち出すのです?』
「二ヵ所を考えている。足の裏と甲だ」
俺は前蹴りなどで足の裏が相手に命中した場合と、回し蹴りなどで足の甲が命中した場合を考えていた。
『三橋師範の場合は、龍撃ガントレットで戦いながら、新しい魔法でトドメを刺すという戦い方になるのですね』
「そういう事になる」
俺は新しい魔法の構築を始めた。『魔法構造化理論』を使ってコンパクトに纏めようと工夫を凝らす。それでも難しい。俺は構築しては壊してやり直すという事を何度も行う。
一週間後に完成させた。その苦労の御蔭で習得できる魔法レベルが『11』になった。一応『10』を目標にしていたのだが、いろいろ工夫しても目標を達成できなかった。ただ『11』なら練習すれば、高速戦闘中に発動できるレベルだ。
「完成したの?」
アリサが声を掛けた。
「構築が終わった段階だ。これから試して問題を洗い出すつもりだ」
そう言って屋敷を出ると、鳴神ダンジョンへ向かった。ダンジョンハウスで着替えると一層の木々が生い茂っている森に向かう。
今回は巨木を標的にして試そうと考えていた。影からエルモアとネレウスを影から出す。為五郎はまだ作り直していない。どういう身体にするか検討中なのだ。
『新しい魔法の名前は決めたのですか?』
「『ホーリーキック』でいいかなと思っているんだが」
『<聖光>が付与されている蹴りという事ですか。名前と効果にギャップがあるように感じますが』
「いつもの事だから気にするな」
森に到着すると一本の巨木を見上げる。直径が一メートル半ほどもある巨木だ。その傍に立った俺は、深呼吸して集中する。
賢者システムを立ち上げて『ホーリーキック』を発動。その魔法は待機状態でトリガーが引かれるの待つ。俺は前蹴りを巨木の幹に向かって放った。
右足の
俺は魔法が起動した時のインパクトで後ろに押されて尻もちを着いた。こういう反動があると分かれば、対応する事ができるだろう。
『怪我はありませんか?』
エルモアが近付いて尋ねた。
「大丈夫だ。強めの反動が来たので対応できなかった」
俺は巨木に近付いて幹に開いた穴を確認した。直径十五センチほどの穴が巨木の反対側まで続いている。
「これなら、邪卒のバリアを貫通できるんじゃないか?」
『どうでしょう。実際に試してみないと分からないと思います』
メティスが言うように邪卒のバリアがどれほど強度があるかは、具体的に分かっている訳ではない。分かっているのは『ホーリーファントム』やフォトンブレードで破れるという事だけだ。
俺はもう少し試してみていくつかの問題点を発見した。『聖光貫通クラスター』と呼ぶ事にしたD粒子の塊が足から撃ち出される時の角度が感覚とズレているので修正するというようなものだったので、直すのは簡単だった。
『これなら高速戦闘に移る前に発動し、高速戦闘中に起動するという事はできませんか?』
メティスの提案を聞いて首を傾げた。
「そんな余裕はないと思う。相手が素早い魔物だと判断したら、すぐに指輪に魔力を流し込んで素早さを強化しないと間に合わない場合が多いからな」
『それなら相手との距離がある時だけは、高速戦闘前に発動するのもできるという事ですね』
「もしくは、高速戦闘ができる冒険者が二人居て、一人が戦っている間に『ホーリーキック』を発動し、待機状態にしてから高速戦闘に移るという事ならできる」
それから高速戦闘中に『ホーリーキック』を発動する練習を数日間ほど続けた。六日ほどで高速戦闘中に発動できるようになった。コンパクトに構築した御蔭で発動しやすくなっているようだ。
この『ホーリーキック』が邪卒に対して使えるかは、実際に邪卒に使用してみないと分からない。ただ三橋師範から早く教えてくれという要望をもらったので、三橋師範にだけは教えた。普通の魔物に対しても大きな効果を期待できるので、普段のダンジョン探索に使うのだろう。
その後、『天意』の研究を再開したが、こちらはゆっくりとしか進まなかった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
グリムから『ホーリーキック』を教わった三橋師範は、習得すると高速戦闘でも使えるように練習した。
そんなある日、知り合いの冒険者から広島の中級ダンジョンで中ボスのゴブリンエンペラーが発見された、という情報を手に入れた。
その情報を聞いた三橋師範は黒武者の代わりにゴブリンエンペラーで『ホーリーキック』を試そうと考えた。ゴブリンエンペラーは魔力障壁を纏っており、黒武者のバリアの代わりにためしてみようと考えたのだ。
それに近々広島でフルコンタクト系空手の大会が開かれるという事もあり、ゴブリンエンペラー狩りをするついでに大会の見物をしようと計画した。
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