第814話 ベヒモス戦の行方

 ベヒモスが牙に神威エナジーを集め始めた。神威エナジーの衝撃波を放つつもりなのだ。俺たちは散開してバラバラになってチャンスを待つ。


 次の瞬間、ベヒモスから神威エナジーの衝撃波が放たれた。衝撃波は地面の土砂を巻き上げて渦を巻きながら飛翔し、俺に迫ってきた。


 これを防ぐには『クローズシールド』が必要だと感じたが、『クローズシールド』は内側から攻撃できなくなるので、『フラッシュムーブ』を使って避ける事にした。魔法が発動した直後に、衝撃波の渦が俺を掠めるように通り過ぎていく。


 その衝撃波でキャナダインがバラバラになったのを見たばかりだった。自分には命中しなかったと分かっていても、心拍数が高まって胸が苦しくなる。


 俺は恐怖を感じながら走り、ベヒモスの横に回り込もうとしていた。エルモアがオムニスブレードのエナジーブレードをベヒモスに叩き付けた。エナジーブレードでは大きなダメージを与えられないが、それが牽制になる。


 横に回り込んだ俺は『神威迅禍』を発動しようとした。それを邪魔するように、ベヒモスが毛針を俺に向かって撃ち出す。神威エナジーの動きで気付いた俺は『神威迅禍』を中断して『神威結界』に切り替える。結界が神威エナジーで撃ち出された毛針を弾き返した。


 反撃しようとしたが、また毛針が飛んでくる。これでは結界を解除する事もできない。俺の状況を見た為五郎が、ダスクバスターから朱色の光線を撃ち出した。夕焼けの空を連想させる光線がベヒモスに向かって飛び、その胴体に穴を穿うがつ。


 ベヒモスが為五郎へ視線を向け、右の前足をドシンと地面に打ち付ける。その振動が俺にも伝わり身体が振動した。ベヒモスが毛針を為五郎に向かって飛ばした。その数は五十本を超えていただろう。為五郎は避けようと走り出したが、全てを避ける事はできなかった。


 二本の毛針が為五郎の胸と腹を貫通する。為五郎は衝撃吸収服を着ていたのだが、ベヒモスの毛針は神威エナジーを纏っていたので、<衝撃吸収>でも吸収できなかったようだ。


「為五郎!」

 為五郎が倒れた。それを見た俺は歯を食いしばってギシッと音を鳴らす。視線をベヒモスに向けた俺の身体から神威エナジーが溢れ出していた。


 本来の人格である俺の精神に影響された二次人格が大量の神威エナジーを取り込み始めたらしい。俺は自分に向かって冷静になれと何度も言い聞かせる。


 為五郎の身体は破壊されても、魔導コアが残っていれば復活できるんだ。少し冷静になった俺は『神威迅禍』を発動し、圧縮貫通弾を凄まじい速度で撃ち出した。


 ステルス機能を持つ圧縮貫通弾にはベヒモスも気付かなかったようだ。圧縮貫通弾が命中した瞬間、ベヒモスが驚きの叫びを上げる。圧縮貫通弾はベヒモスの体内に五メートルほど潜り込み、<空間圧縮>の効果が起動する。


 直径五メートルの球形空間が凄まじいパワーで圧縮され、超高熱となってプラズマ化する。そして、<空間圧縮>の効果が消えた瞬間、圧縮されたプラズマが膨張。それはベヒモスの肉体を焼いて大きなダメージを与えた。


 ベヒモスの口から鮮血が吐き出されるのを俺は見た。殺れると思った俺は、もう一度『神威迅禍』を発動しようとした。だが、ベヒモスが口を大きく開け、青い炎のブレスを吐き出す。


「くそっ」

 俺は『神威迅禍』を中断して『神威結界』を発動する。『神威迅禍』は威力があるが、発動に時間が掛かるのが欠点だ。


 青い炎が結界を包み込んだが、結界はそれに耐えた。俺がホッとした時、炎の広がりが細くなりビームのように収束して結界を破壊しようと凄まじいパワーを発揮し始めた。


 結界が赤く輝き始め揺らめきを見せるようになった。これでは長くは保たないと感じた俺は、神威月輪観の瞑想を始める。二次人格に任せていた神威エナジーの入手をダブルで行い、倍増した分も結界に注ぎ込み我慢比べを覚悟する。その時、朱色の光線がベヒモスの首に突き刺さった。


 青炎ビームが途絶え、ベヒモスがよろめいた。為五郎が撃ったのか? 俺は朱色の光線が発射された方向を見ると、エルモアがダスクバスターを構えていた。


「メティス、為五郎はどうなんだ?」

『身体は完全にダメです。しかし、魔導コアやソーサリー三点セットなどは回収しました』

「そうか、ありがとう」


 俺は開発中の魔法を発動しながら神剣ヴォルダリルを振り下ろし、神威飛翔刃を飛ばす。その魔法は神剣ヴォルダリルから発生する神威エナジーを制御する魔法概念が含まれているものだった。但し、開発中なので試してもいない。


 神威エナジーをどう制御しようと考えたのかと言うと、『斬る』という概念を高次元にまで拡張しようと試み構築したものだった。その目標は『神に会うては神を斬り、仏に会うては仏を斬る』という言葉の実現である。


 この言葉は『臨済録りんざいろく』という本の中にあった言葉をアレンジしたものらしい。俺もよくは知らないが、対邪神用として使えると思ったのだ。


 神剣ヴォルダリルから噴き出した神威エナジーが、新魔法の魔法概念により変異する。力の方向が定まっていないが、凄まじい威力と膨大な量のエネルギーが『斬る』という魔法概念で律せられ、神の領域にまで到達しそうな鋭さと切れ味を持つようになる。


 変異した神威飛翔刃がベヒモスの肩を捉えた。その刃は肩を切断して肺を斬り脇腹を切り裂こうとした時に粉砕した。切れ味に釣り合った強度がなかったようだ。


 ベヒモスの肩から血が噴き出し、地面を赤く染める。致命傷に近い大ダメージを負ったベヒモスが膨大な神威エナジーを体内で循環させ始める。そうする事で傷の治療をしているようだ。


「そうはさせるか」

 俺はベヒモスの頭を狙って『神威迅禍』を発動し、圧縮貫通弾を撃ち出した。ベヒモスの頭に命中した圧縮貫通弾は巨大な頭蓋骨に突き刺さり、そこで止まった。だが、圧縮貫通弾の威力はこれからである。直径五メートルの球形空間を圧縮し、超高温となってプラズマ化したものを開放した。


 超高熱のプラズマが爆散してベヒモスの脳を焼いた。それが致命傷となってベヒモスの息の根が止まる。その瞬間、体内でドクンドクンという音が鳴る。魔法レベルが二つ上がって『33』になったのだ。


 二次人格を解除すると神威エナジーが途絶え、俺の身体から力が抜けて草原に崩れるように倒れた。


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