第815話 ベヒモスのドロップ品

 身体が重い。膨大な量の神威エナジーを使い続けた結果、身体にも負担が掛かったようだ。

『グリム先生、大丈夫ですか?』

「身体から力の全てが流れ出たようだ。シャドウパペットたちを出すから、ドロップ品を頼む」

『任せてください』


 俺は影からシャドウパペットたちを出した。元気よく影から飛び出したタア坊とハクロがドロップ品探しに向かった。巨体のベヒモスは広範囲にドロップ品をばら撒いたようだ。


 最初にネレウスがベヒモスの牙を発見した。神薬ネクタンシアの材料になるものだ。他にも使い道があるかもしれないが、研究が必要だろう。


 次にタア坊が小さな宝石箱のようなものを見付けて持ってきた。その箱を開けると、躬業の宝珠が入っていた。マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると『天意の宝珠』と表示された。


 『天意』についてはいろいろ情報があるが、よく分からない躬業である。これを習得すれば分かるのだろうが、それは日本に帰ってからだ。俺は『天意の宝珠』を収納アームレットに仕舞った。


『こんなものを見付けました』

 エルモアが発見したのは、何かの苗木だった。

「これは何の木だろう?」

『才能の木かもしれませんよ。調べてみましょう』


 才能の木と聞いて、俺は目を輝かせた。マルチ鑑定ゴーグルを出して調べると『限界突破の苗木』と表示された。この木は三メートル以上に成長すると、二年に一回一個の実をつけるようだ。その後成長すれば、生る実が増えるのだろうか? 鑑定ではそこまでは分からなかった。


 ハクロが琥珀魔石<大>を見付けて持ってきた。それに続いてオムニスシリーズのグレイブをネレウスが見付けて持ってきた。


 そのグレイブは百七十センチの長柄に剣鉈のような刀身が付いている魔導武器だった。ただオムニスブレードとは異なり、刀身からエナジーブレードが伸びるというようなものではなく、神威エナジーで形成された長さ二メートルの刀身をパイルバンカーのように撃ち出すというものだった。


 絶大な貫通力を持っており、ベヒモスに対してもダメージを与える事ができそうだ。これは新しく作る為五郎に装備させる事にしよう。


 最後に『励起魔力の可能性』という魔導技術書をネレウスが見付けた。それは励起魔力を使った魔道具の作成に関する技術書で、便利そうな魔道具について書かれていた。


 ドロップ品の全てを回収したようなので、俺たちは地上に向かった。討伐チームは八層の湖の近くで一泊するようなので、俺たちは四層の海に浮かぶ島で野営する事にした。


「ベヒモスを倒したんだな」

 俺はベヒモスを倒したという事実が実感できずに戸惑っていた。エルモアが用意してくれた椅子に座って海を眺めながらコーヒーを飲む。本当はビールでも飲みたい気分なのだが、ダンジョンでアルコールを飲むのはまずいと気持ちを抑えた。


『ベヒモスを倒せたのは、それだけの準備をしたからです』

「でも、急いで来たから、完全に準備が終わっていた訳じゃない。そのせいで為五郎が犠牲になった」


『犠牲と言っても、為五郎は復活します』

「それはそうだけど、危ない場面もあったからな」

『相手がベヒモスだったのですから、完勝という訳にはいきません』

 それを聞いて頷いた。確かにそうなのだが、まだ邪神が残っている。邪神は巨獣三匹を合わせたより強いという話だから、ダンジョン神に任せるしかないと実感した。


 神威エナジーを使ったとしても、人間にはベヒモスが限界だと感じていた。もう一度『神域転移珠』を使えば、ダンジョン神に会えるだろうか? 会って邪神をどうするのか確かめたい。


「日本に帰ったら、ダンジョン神について調査しよう」

『ダンジョン神ですか。神域に行って会う前に、事前に調査しようという事ですね?』

「そうだ。烏天使の事も何か情報がないか確かめてみよう」


『そう言えば、討伐チームはどうなるのでしょう?』

「巨獣は俺が倒したから、当分復活する事はないだろう。軍の目的は躬業の宝珠だから、龍蛇アジ・ダハーカみたいに、持っていそうな巨大な魔物を倒すという方向に進むんじゃないかな」


 俺は疲れたので、見張りをエルモアたちに頼んで寝た。

 翌朝、起きた俺は地上に向かった。地上に出ると冒険者ギルドに行って報告する。但し、三層の主であるテンタクルズツリーを倒した事と討伐チームとベヒモスが戦うのを観戦した事だけを伝えた。


 それでも支部長が詳しい話を聞きたいというので、支部長室へ向かう。ここの支部長はシェリルという女性の支部長だった。たぶん四十代だと思うが確かめる事はできない。


「討伐チームとベヒモスの戦いを見たそうですね?」

「ええ、遠くからですが観戦しました」

「どのような戦いだったのですか?」

「まず『ブラックホール』の攻撃から始まりました」

 俺が戦いの様子を話すと、ベヒモスの別格すぎる強さに支部長が驚いた。


 さらにキャナダインの戦死とアーキン少尉が逃げ遅れて死んだ事を聞いたシェリル支部長は、顔を強張らせていた。


「ありがとうございます。参考になりました」

 シェリル支部長から礼を言われたが、貴重な戦力を失ったアメリカがどうするのか不安になった。またモイラたちを育成した時のように無茶をしなければ良いのだが。


 翌日、ステイシーがホテルに訪ねてきた。

「討伐チームとベヒモスが戦うところを見に行ったそうね?」

「ええ、勉強になりました」


「戦いが終わった後、ベヒモスはどうしたの?」

「それがいつの間にか消えたんです。もうタンパダンジョンには居ません。それより残念でしたね」


 その言葉を聞いてステイシーの顔が曇る。

「ああ、キャナダインとアーキン少尉の件ね。無理して威力偵察する必要はないと言ったのだけど、軍が功を焦ったのよ」


「今回の威力偵察は失敗だと思うのですが、これをアメリカはどう判断するのです?」

「政府も軍の失敗だと判断したわ。たぶん巨獣討伐チームは、軍から取り上げる事になるでしょう」


 これからアメリカも大変なようだ。


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