第805話 オムニスガンと鬼神力

 アリサと千佳は二十五層へ戻り、転送ルームから一層へ移動して地上に出た。ダンジョンハウスで着替えると、冒険者ギルドへ向かう。


「これでA級になれるのよね?」

 アリサが確認すると、千佳が頷いて笑顔を見せる。

「これでやっと、グリム先生と同じA級になれる」

「A級はランキングがあるから、これからが大変よ」


「アリサはランキング上位を目指さないの?」

「私は研究があるから、無理よ」

「せっかくオムニスガンを手に入れたのに、勿体ない」

「ダンジョンでの活動をやめる訳じゃないんだから、ちゃんと使うわよ」


 冒険者ギルドに到着して支部長室に向かった。ドアをノックすると中から返事があったので入る。


「無事に戻ったところを見ると、牛鬼を倒したのだな」

「ええ、倒しました。これが牛鬼の魔石です。確認してください」

 アリサは魔石を支部長に渡した。


「支部長、これでA級への推薦は間違いないんですよね?」

 千佳が確認すると、支部長が間違いないと言う。

「二人がA級になるのは間違いないだろう」

 近藤支部長が太鼓判を押したので、二人は安心した。世界冒険者ギルド本部が審査して承認するまで時間が掛かるが、ほとんど間違いないらしい。


「面接とかないんですか?」

 アリサが質問した。

「グリム君の時は、特別だよ。彼の場合は初めて生活魔法使いが、A級になったのだからね」

 すでに実績があるので書類審査だけで承認されるだろうという事だった。


 二人は報告を済ませてから、帰宅した。励起魔力を凝縮して鬼神力にする件は、明日にした。さすがに疲れを感じたのだ。


 翌日、千佳が屋敷に来た。本当に励起魔力を凝縮して鬼神力にできるのか、興味があったのだ。

「アリサ、疲れは取れた?」

「大丈夫。ぐっすり眠ったから、体調は完全よ」

「グリム先生は?」

「東京へ行っている。アルゲス電機の重役会議があるの」


「グリム先生と重役会議というのが、何だか違和感があるのよね」

「そんな事を言っても、アルゲス電機という大企業の会長なんだから、会議くらい出るわよ」


 グリムは役職なんか要らないと言ったのだが、菅沼社長がそういう訳にはいかないと言い出し、会長という役職に就いたのだ。アルゲス電機の業績は文句なしの絶好調なので、グリムは経営には口を出さず会議にだけ出席している。


 アリサたちは地下練習場へ向かった。

「千佳は励起魔力を凝縮して、鬼神力にしようとはしなかったの?」

「それが難しいのよ。励起魔力を作り出す作業と、それを凝縮する作業を同時に行うのは無理だった。やっぱり二次人格が必要みたい」


「そうだったの」

 アリサは試してみる事にした。まず『並列思考のペンダント』を使って二次人格を作り、その二次人格にD粒子を操作して励魔球を作り出させる。その励魔球から生み出された励起魔力を『鬼神力鍛錬法』で身に付けた凝縮する技術で鬼神力へ変えようとする。


 魔力の時には感じた事のない抵抗があった。凝縮しようとすると励起魔力の扱いが難しくなる事が分かった。それでもアリサが粘り強く凝縮の作業を続けると励起魔力が凝縮を始め、鬼神力へと変わり始める。但し、それはただの鬼神力ではなく『高鬼神力』というべきものだった。


「凄い、アリサ。凝縮されている」

 千佳の声を聞いたアリサは、その高鬼神力を新しく手に入れたオムニスガンへ注ぎ込んだ。その作業を二十分ほど続けると、オムニスガンのバッテリーのようなものが満杯になる。


「ふうっ、終わった」

 アリサが大きく息を吐き出して言う。

「それじゃあ、オムニスガンの威力を確かめに行こう」

 千佳がアリサの手を引っ張って地下練習場を出ると、鍛錬ダンジョンへと向かう。ダンジョンの二層へ下りて岩山がある場所まで行く。


「的はあの岩山でいいんじゃない」

 アリサは頷いてオムニスガンを構える。岩山の中腹を狙って引き金を引くと、オムニスガンから高鬼神力が流れ出して高鬼神力の鬼神弾が形成され、高速で撃ち出された。高鬼神力を使って撃ち出された鬼神弾は音速の三倍ほどの速度で飛んで岩山に命中し、ドガンと爆音を響かせて爆発した。


 二人が岩山に近付いて調べると、深さ二メートルほどのクレーターが出来ていた。それを見た千佳が目を丸くする。


「威力も凄い。オムニスガンを連射すればドラゴンを倒せそう」

「問題は満タンにした状態で、何回撃てるかという点ね」

 試してみると連続して四十回ほど撃てる事が分かった。十分ではないが、ダンジョン探索には大きな助けになる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、俺は東京のアルゲス電機本社に来ていた。会議室で報告を聞く。

「今年度の売上目標は、一兆六千億円に決まりました」

「売上目標とは言え、一兆円を超すのは凄いな」


「いえいえ、世界ランキングで見ると百位以内にも入っていませんから、我が社はまだまだです」

 菅沼社長はそう言うが、潰れそうだった企業がそれだけの売上目標を掲げる事ができるようになったのだ。奇跡のような事だと思う。


 それからいくつかの議題について話し合ったが、俺は菅沼社長たちに任せて話だけ聞いた。


 東京から帰った俺は、牛鬼の件や励起魔力を凝縮した事をアリサから聞いた。

「へえー、高鬼神力か。面白いな。魔儺も凝縮できるのかな」

 魔儺という言葉を聞いたアリサが、何かを思い出したような顔をする。


「そう言えば、レヴィアタンを倒して手に入れた魔儺生成器とレヴィアタンの小角を使って武器を作るという話はどうなったの?」


「あれはメティスのアイデアだよ。確か進めているはず。メティス、どうなんだ?」

「少し開発に苦労しています。レヴィアタンの小角が持つ機能を制御するために、複雑な制御装置が必要なのです」


 メティスは開発した武器を、為五郎に使わせようと考えているようだ。為五郎だけが巨獣ベヒモスに通用する武器を持っていないからだ。ただ本当にベヒモスに通用するかは分からない。


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