第804話 宿無しの牛鬼

 アリサと千佳の精神の核の周りに二重障壁が構築された。千佳は近くに着陸してホバービークルを仕舞う。

「あの精神攻撃は、牛鬼の攻撃?」

 千佳が尋ねた。

「たぶんね。何をするつもりだったのかは分からないけど」


 千佳は影から戦闘用シャドウパペットのスライムナイトをアーマーを装備した状態で出した。アリサも大型犬シャドウパペットのベルカを出す。ここまでシャドウパペットを出さなかったのは、なるべく自分たちで倒して経験値を得るためだったが、この牛鬼だけは実力が分からないので全ての戦力を使って倒す事にしたのだ。


 アリサが『クラッシュボール』を発動してD粒子振動ボールを牛鬼に放った。このD粒子振動ボールに、牛鬼が気付いたようだ。牛鬼は蜘蛛のような足で素早く避けた。


「意外と素早いわね」

「防御力はどうかな?」

 千佳は『バーストショットガン』を発動し、三十本の小型爆轟パイルを牛鬼に向けて撃ち出した。牛鬼を包み込むように小型爆轟パイルが降り注ぎ牛鬼の周囲で爆発が起きた。ただ不思議な事に牛鬼を直撃した小型爆轟パイルはなかった。


 千佳は不思議に思ってスライムナイトと一緒に前に出た。そして、虚空蔵ブレードに鬼神力を流し込んで鬼神刀という刃を形成して打ち込んだ。鬼神刀が牛鬼の頭に命中しようとした瞬間、何かの力で鬼神刀が跳ね上げられた。


 最初は何かバリア的なものがあるのかと千佳は思ったが、違うようだ。近くで見たので分かったのだが、牛鬼は魔力の細い糸を束ねて外殻の表面から撃ち出している。


「面白い防御をするんだな。だったら、突きはどう防御する?」

 千佳は横に回り込んで鬼神刀を巨体の胴体に突き入れる。すると、魔力の糸の束が鬼神刀に巻き付いて軌道を逸らそうとした。だが、鬼神刀に触れている魔力の糸が鬼神力で削られ分解していく。


 鬼神刀の切っ先が牛鬼の胴体を掠めた。千佳は『カタパルト』を発動し、身体を斜め後ろに投げ上げた。その直後に牛鬼の足が千佳が立っていた地面に突き刺さる。


 追撃しようとする牛鬼にスライムナイトが大剣光盾剣を振り下ろす。牛鬼は追撃をやめて足で受け止めた。光盾剣は朱鋼製の大剣に<貫穿><斬剛><光盾>の三つの特性を付与したものだ。その剣を受け止めたという事は、牛鬼の足が同等の強度を持っているという事になる。


 牛鬼が口をパカッと開けると、強烈な酸の毒霧を吐き出した。毒霧の一部がスライムナイトの鎧に触れた。スライムナイトは後ろに跳んで『パペットウォッシュ』を発動して全身を洗浄した。


 その様子を見ていたアリサが『ホーリーファントム』を発動し、ホーリー幻影弾を放った。牛鬼はホーリー幻影弾に気付けなかった。だから、魔力の糸で防ぐ事ができずにホーリー幻影弾が直撃して爆発した。


 その爆発で牛鬼の胴体の一部が吹き飛んで大ダメージを与える。ベルカが『クラッシュボールⅡ』を発動し、高速振動ボールを撃ち出した。その高速振動ボールは牛鬼の毒霧で迎撃される。


「ベルカにも『ホーリーファントム』を、組み込んだ方がいいみたいね」

 アリサは『ホーリーファントム』を高く評価し、牛鬼に視線を向ける。傷を負った牛鬼が逃げ始めた。アリサはニヤッと笑う。その前方には千佳が待ち構えていたからだ。


「逃さないよ」

 千佳は『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードを容赦なく振り下ろす。牛鬼は足で受け止めようとしたが、拡張振動ブレードがその足を切り裂いて胴体に深い傷を負わせた。


 よろよろとしながらもまだ逃げようとする牛鬼に、アリサが『ジェットフレア』を発動し、D粒子ジェットシェルを撃ち込んだ。牛鬼はD粒子ジェットシェルを迎撃する力が残っていないようだ。


 牛鬼に命中したD粒子ジェットシェルは、磁気で牛鬼を包み込んだ上で大量の超高熱プラズマを浴びせて焼き尽くした。


 その瞬間、アリサの左手の甲に痛みが走る。

「ううっ」

 アリサは呻きながら左手の甲を見ると、転送ゲートキーが刻まれていた。

「そうか。牛鬼は宿無しだった」


 千佳がアリサの傍に戻ってきた。

「割とあっさり倒せたね」

「でも、習得したばかりの『ホーリーファントム』がなかったら、もう少し手子摺ったかも」

「そうかもね。D粒子に敏感に反応する魔物には、最適な魔法かもしれない」


 アリサたちはあっさりと倒したが、精神攻撃と魔力の糸による防御、毒霧の攻撃があり、さらに素早い牛鬼は客観的に見ると手強い魔物だったのだ。


 アリサたちはドロップ品を探し始めた。ベルカが白魔石<中>を見付けて戻ってきた。アリサが褒めるとベルカは嬉しそうにまた探しに行った。


 アリサがドロップ品を探していると、地面にライフル銃のようなものが落ちていた。

「魔導銃の類かな」

 この手の魔導武器はハズレのものが多いので、アリサは少しガッカリした。それでも鑑定しようと思い『アイテム・アナライズⅡ』を発動する。すると『オムニスガン』という名前だと分かった。オムニスガンはオムニスブレードやオムニスシールドと同じオムニスシリーズのようだ。


 魔力や励起魔力、神威エナジーなどをオムニスガンの内部に溜め込み、それを銃弾の形に加工して撃ち出すというものらしい。これはアリサにとって嬉しい贈り物となった。千佳に相談してアリサが使う事になった。ちなみに神話級で格はメジャーに分類される魔導武器である。


 千佳は指輪を見付けた。アリサに鑑定してもらうと『セクメトの指輪』だと分かった。セクメトはエジプト神話に登場する戦いの女神である。その指輪には素早さを十倍、防御力を五倍、視力を三倍にするという機能が備わっていた。


「これは私が使ってもいい?」

 千佳がアリサに確認した。

「ええ、私がオムニスガンで、千佳は『セクメトの指輪』という事でちょうどいいわね」


 牛鬼を倒すと凄い宝がドロップするという噂だったが、本当だったのかもしれない。転送ゲートキーに、オムニスガンと『セクメトの指輪』をドロップしたのだから、十分凄い宝と言えるだろう。


 千佳がアリサが持っているオムニスガンに視線を向けた。

「そのオムニスガンのエネルギー源には、何を使うの?」

「そうね……鬼神力をエネルギー源にするのがいいかな」

 パワーなら神威エナジーの次である鬼神力が良さそうだとアリサは考えたのだ。


「ねえ、アリサは『並列思考のペンダント』を持っているから、二次人格に励起魔力を作らせて、それを凝縮して鬼神力にできないかな?」


 励起魔力も魔力の一種なので、凝縮できないかと思ったようだ。そのアイデアをアリサは面白いと思った。

「帰ったら、試してみよう」


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