第803話 ハイリザードマンの群れ

 ストームベアを倒したアリサたちは、白魔石<小>を回収してから先に進んだ。ここは熊系の魔物が多いのだが、例外もある。それはハイリザードマンの群れである。


 トカゲ人間であるリザードマンが素早さを身に付けたのが、ハイリザードマンという魔物なのだ。しかも群れで襲ってくるので、冒険者からは嫌われている。


 アリサと千佳もハイリザードマンの群れは厄介だと思っていたので、先に見付けて回避しようとしていた。それなのに歩いて森を進んでいるのは、上空からだと分かり難い場所に階段があるからだ。


 森の中に道があるのだが、その道は木が邪魔になって上空から見えない。冒険者ギルドにある資料は、その道を地図にしているので地上を歩くしかない。


「はあっ、最悪」

 千佳が愚痴るように言う。アリサと千佳はハイリザードマンの群れに取り囲まれていた。ストームベアの気配を感じ、それを迂回しようとしたらハイリザードマンの群れに遭遇してしまったのだ。


 運が悪いとしか言いようがない。二人は多機能防護服のスイッチを入れる。個別のハイリザードマンは弱いので、千佳は武器を虚空蔵ブレードから天照刀に替えた。


 アリサは最初にハイリザードマンのD粒子に対する感知能力を試そうと考えた。その瞬間、ハイリザードマンたちが一斉に走り出す。アリサは連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをハイリザードマンに向かってばら撒く。


 それに気付いたハイリザードマンたちが横に跳んで避けた。素早いだけではなくD粒子に対する感知能力も優れているようだ。


 ハイリザードマンのD粒子感知能力が予想以上に高いと判断したアリサは、距離があるうちは確実な『ガイディドブリット』で仕留めようと考えた。魔法を発動するとハイリザードマンをロックオンしてD粒子誘導弾を撃ち出す。


 素早いハイリザードマンでも追尾機能を持つD粒子誘導弾を避ける事はできなかった。次々に致命傷を受けて光の粒となって消える。六匹ほどを仕留めたところで発動に時間が掛かる『ガイディドブリット』をやめ、ロックオンする作業が必要ない『クラッシュステルス』に替えた。


 今度はステルス振動弾がハイリザードマンを仕留め始めた。次々にハイリザードマンが倒れて消えるが、まだ生き残っているものが十数匹いる。


 一方、アリサが『ガイディドブリット』を使い始めた頃、千佳はハイリザードマンの集団に接近して『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードを横に薙ぎ払った。その一撃で五匹のハイリザードマンの首が飛んだ。


 それを見たハイリザードマンたちは警戒して散開する。ばらばらになったハイリザードマンを相手に、千佳は腰に差した天照刀ではなく魔装魔法の『ラセツウィップ』を使って戦い始めた。


 鬼神力の鞭は案外使いやすい武器だった。鬼神力の周りを魔力で包んでいるので、ある程度の動きを魔力で制御できるのだ。


 千佳が使う鬼神力は魔力を百倍まで凝縮したものである。その鬼神力の鞭は明らかに威力が違った。鬼神力の鞭で叩かれたハイリザードマンはチェーンソーで斬られたような傷が刻まれる。千佳は鬼神力の鞭を使って次々にハイリザードマンを仕留めた。


 千佳は動き回ってハイリザードマンを仕留め、アリサは一箇所に留まって近付くハイリザードマンを生活魔法で迎撃する。


 ハイリザードマンの生き残りは数匹にまで減少していたが、距離は近付いていた。アリサはポイズンソードを持つハイリザードマンを近付けたくなかった。ポイズンソードは掠っただけで毒に侵される危険なものだからだ。


 アリサは近付いたハイリザードマンに対して、グリムから習った『超速視覚』を使い始める。遠くにいた時はそれほど感じなかったが、ハイリザードマンは素早いので目では追いきれなくなる時があるのだ。


 D粒子センサーからの情報と視覚からの情報を統合して映像化し、ハイリザードマンの動きを捉える。アリサは五重起動の『ライトニングショット』のD粒子放電パイルで仕留めた。


 アリサは五重起動の『ライトニングショット』を毎日毎日練習し、反射的に発動するほど使い熟せるようになっていた。発動速度も速くなり、二十メートルの射程圏内なら的を外さない。


 『ライトニングショット』も『コールドショット』と同じで敵に命中した時に終端がコスモスの花のように開いて、全ての運動エネルギーを敵に伝達する。しかも高圧電流を放出するのでストッピングパワーが高い。アリサは十メートル離れた場所に防衛ラインを引き、そこに一歩でも踏み込む魔物にはD粒子放電パイルを撃ち込んだ。


 ハイリザードマンの姿が消えた。

「終わったようね」

 千佳がアリサのところに戻ってきた。

「これだったら、ストームベアと戦った方が、楽だったかもしれない」

 アリサが言うと千佳も同意した。それから赤魔石<中>の回収を始めると、驚いた事に四十二個の魔石が集まった。


 アリサは魔力が少なくなっているのに気付いて不変ボトルを出し、万能回復薬を飲んだ。千佳も同じように魔力を回復する。


 二人は少し休んでから先に進んだ。三十分後にやっと階段を見付けて下りると、目の前には広大な草原が広がっていた。この何処かに牛鬼が居るのだが、探すのも大変そうな広さである。


「ホバービークルを使いましょう」

 アリサが提案した。千佳は頷いてホバービークルを収納ペンダントから取り出した。乗り込んだ二人は、千佳の操縦で飛び始めた。


 草原の上を飛んで牛鬼を探していると、下にデビルバッファローの群れがうろうろしているのを発見した。デビルバッファローは全長四メートルほどで角に毒の棘が付いているバッファローの魔物である。


「デビルバッファローか。中々牛鬼が見付からないね」

「そう……ん? あれが牛鬼じゃない」

 アリサは左前方に何か大きな魔物が居るのを発見した。近付いてみると、蜘蛛のような巨体に牛の頭が確認できた。間違いなく牛鬼である。


「どうやって倒す?」

 千佳がアリサに尋ねる。

「そうね。『ダイレクトボム』の粘着榴弾でも落としてみようか?」


 その時、二人の頭の中で『チリン、チリン』と音が響いた。精神攻撃を受けているという警告音である。二人は急いで『鋼心の技』のスイッチを押した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る