第799話 ブレガダンジョンの気配
ドラゴンワームを倒した俺たちは、三層へ下りた。その俺たちの目に映った光景は、寒々とした荒野だった。ほとんど緑がない光景で、大きな石が地面の上に転がっている。
『ワイバーンが飛んでいます』
メティスの声で上を向くと、ワイバーンが上空を旋回していた。
「ホバービークルで飛ぶと、ワイバーンが絡んでくるんだよな」
『絡んでくるのではなく、ただ襲い掛かってくるだけだと思います』
「俺にとっては、どっちも一緒だ」
結果は戦う事になるのだから、ワイバーンがどういうつもりだとしても一緒である。普通なら安全策を取って歩いて行くのだが、今回はホバービークルで飛ぶ事にした。操縦はエルモアに任せ、俺はワイバーンが襲ってきた場合の迎撃役を務める。
ホバービークルが飛び上がると、すぐにワイバーンが近付いてきた。俺は『ガイディドブリット』を発動し、ワイバーンにロックオンしてからD粒子誘導弾を放った。
D粒子誘導弾に気付いたワイバーンが旋回して逃げ始める。だが、それを追ってD粒子誘導弾が軌道を変えた。そして、巨大な翼に命中して空間振動波が放射され、ダメージを負ったワイバーンが落下を始める。
『追いますか?』
「いやいい。先に進もう」
俺は先を急いだ。今回はベヒモスに戦いを挑めば終わりではなく、クレタ島のパレオコラダンジョンに戻らなければならない。急いでいるのだ。
それからも二匹のワイバーンに絡まれたが、その二匹は一撃で仕留めて進んだ。そして、この階層の主らしい魔物を見付けた。
それは全長十五メートルもありそうな岩で出来た巨人だ。ゴーレムに似ているが、眼を見ると生き物の眼である。
「こいつも階段を守っている」
『戦うしかないですね』
俺たちはホバービークルを着陸させ、巨人の正体を調べるためにマルチ鑑定ゴーグルで調べた。
「こいつはヒッタイト神話に出てくる岩の巨人ウルリクムミだそうだ」
『ヒッタイト神話というのは、珍しいです』
メティスも知らない魔物のようだ。俺はオムニスブレードを取り出し右手に持つとウルリクムミに向かって進み出る。
「後方からの援護を頼む」
『分かりました』
「ガウッ」
俺は巨人を睨みながらオムニスブレードのスイッチを押した。オムニスブレードの先端から神威エナジーの刃がするすると伸びて十二メートルの長さになる。
近付いてきた巨人がゴツい拳を振り下ろす。俺は『カタパルト』を発動し、身体を斜め上に投げ上げて避けた。十メートルほど飛んだところで魔法が解除され、俺はそれまでの勢いで飛びながらオムニスブレードから伸びるエナジーブレードを巨人に向かって薙ぎ払う。
エナジーブレードは巨人の胸を掠めて左腕の肘を切断した。巨人が苦痛の叫び声を上げながら、残った右手を振り回す。
俺は空中でもう一度『カタパルト』を発動して避けた。エルモアと為五郎が『クラッシュボールⅡ』を発動し、高速振動ボールを放つ。為五郎の高速振動ボールは外れたが、エルモアの高速振動ボールは巨人の太腿に命中して大きな穴を開けた。
そのせいでバランスを崩した巨人が倒れる。俺は『エアバッグ』を使って着地すると、倒れている巨人に駆け寄ってエナジーブレードを太い岩のような首に叩き込んだ。首が切断されて岩巨人ウルリクムミが死んだ。
俺は大きく息を吐き出して身体の緊張を解いた。その時、強大な気配を感じて後ろを振り向いた。エルモアと為五郎が居るだけである。
「何か気配を感じなかったか?」
エルモアと為五郎が首を振る。
『何も感じませんでしたが、どうかしたのですか?』
「ベヒモスの気配を感じたのかな? 勘違いだったみたいだ」
俺たちはドロップ品を探し始めた。黒魔石<大>を見付けた後に『マジックストーン』を発動する。すると、俺の手の中に石が飛んできた。
その石には見覚えがある。マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると、『賢者の石』と表示された。
「賢者の石だ。岩の巨人のドロップ品が、賢者の石というのは納得かな」
『貴重なものが手に入りましたね。以前に手に入れた賢者の石は、神剣ヴォルダリルの修理で使ってしまいましたから、今度はエリクサーでも作りますか?』
「他の材料はどうするんだ?」
『いつか手に入りますよ』
「霊薬ソーマもあるんだから、必要ないだろう」
『しかし、万能薬エリクサーは、死んだ直後なら生き返らせる事もできるというほどの薬ですよ』
「それって与太話じゃないのか?」
『実例があるそうです』
「しかし、死んだのなら、薬を吸収する事もできないだろう」
『直後だったら、吸収するのかもしれません』
偶然、材料が揃ったら作ってもいいが、わざわざ材料を手に入れるためにダンジョン探索をするつもりはなかった。
ドロップ品を回収した俺は、階段を四層へ下りる。
「ここは森林が広がる階層なのか。階段を探すのが大変そうだ」
こういう森だと木々の下に階段がある場合があるので、階段探しに時間が掛かる。取り敢えずホバービークルで上空から探す事にした。
階段がないか探しながら、強い気配の持ち主も同時に探す。ホバービークルで森の上を飛びながら探していると、右手の方に何かの気配を感じてホバービークルの進路を変える。
「あいつだな」
気配の主は巨大な猿だった。身長が七メートルほどもある真っ黒な毛並みの猿で、真紅の目でこちらを睨んでいる。ゴリラのように胸を叩き始めた巨大猿が、口を開いて咆哮を発した。それは単なる咆哮ではなく膨大な魔力が込められており、強力な衝撃波となって俺たちに襲い掛かった。
俺はダメージを受けて身体が痺れたような状態になったが、それはすぐに回復した。エルモアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
『大丈夫ですか?』
「ちょっとびりびりした感じだったが、大丈夫だ」
俺は巨大猿を睨んで『クロスリッパー』を発動し、巨大猿をロックオンしてクロスリッパー弾を放つ。
飛んでいる俺たちを攻撃する手段が咆哮だけだった巨大猿が、もう一度咆哮を放とうとした時にクロスリッパー弾が命中した。その瞬間、<編空>の効果によりX字の形の空間を巨大猿の肉体とともに切り取る。
それが致命傷となって巨大猿は消えた。残った黒魔石<大>を鑑定してみると、『ロアリングコングの魔石』と表示された。巨大猿はロアリングコングという魔物だったようだ。他のドロップ品として『限界突破の実』を二つ回収した。ロアリングコングは当たりの魔物だったようだ。
その時、俺は素早く後ろを振り返った。何も居ない。
「おかしい」
また気配を感じたのだが、周囲には何も居なかった。
『グリム先生、階段がありました』
俺は不審に思いながら五層へ下りた。そして、五層の山岳地帯を目にした時、凄まじいエネルギーを内蔵した存在が近付いてくるのを感じた。
「気を付けろ!」
そう叫んだ瞬間、山と山との間に巨大な魔物が姿を現した。
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