第798話 ブレガダンジョン
俺はギリシャ経由でクレタ島に到着した。この地中海に浮かぶクレタ島には、一つのダンジョンしかなかった。中級のパレオコラダンジョンである。
そのダンジョンの近くにある冒険者ギルドへ行き、パレオコラダンジョンについて調べた。これは偽装のためである。パレオコラダンジョンに潜っているふりをしてリビアに飛ぼうと考えているのだ。
ギルド職員ともパレオコラダンジョンについて話し、俺はクレタ島のダンジョンへ向かった。ダンジョンの中で夜になるまで時間を潰し、『フライトスーツ』を発動してから飛んでダンジョンを抜け出す。『フライトスーツ』には<ステルス>の特性が使われているので、ほとんど見えなかったはずだ。
そのままリビアの海岸を目指して飛び、無事にリビアに到着。『フライトスーツ』の航続距離は五百キロほどなのでリビアまでなら飛べるのだ。それからは何度か休憩を挟みながら海岸沿いにブレガまで飛んで目的のブレガダンジョンへ辿り着いた。
まだ内戦はここまで広がっておらず、このダンジョンは放置されていた。その周りには人の気配がない。ただダンジョンの入り口は鋼鉄製の扉で閉鎖されていた。扉は鍵が掛けられており、このままでは入れない。
俺は神剣グラムを取り出して鍵を叩き切った。素早く扉を開けると中に入って扉を閉める。一層へ向かうと、そこは砂漠だった。
俺は影からエルモアと為五郎を出し、収納アームレットからホバービークルを出した。エルモアに操縦を任せ、俺は『魔物探査球』を取り出す。
これはアリサから借りてきたものだ。それを使ってベヒモスの位置を確認する。驚いた事にベヒモスは十二層から八層に移動したようだ。
『ブレガダンジョンは特級ですから、各層に主と呼ばれる手強い魔物が居るかもしれません』
「八層に辿り着くまで、時間が掛かりそうだな」
この一層の主とはどんな魔物だろうと考えていると、砂漠にギガントリザードが現れた。全長二十メートルほどの巨大なトカゲで、怒ると後ろの二本足で立って襲い掛かってくる化け物だ。その二本足で立つ姿はエリマキトカゲに似ており、ちょっとだけユーモラスだった。
主というのは下へ行く階段の近くに居る事が多いので、この辺に階段があるはずだ。ホバービークルを旋回させながら階段を探すと、ギガントリザードの足元に階段があるのを見付けた。
「あいつを倒さないと、二層へは行けないという事か、メティス、近くに着陸してくれ」
ホバービークルがギガントリザードから少し離れた場所に着陸した。俺たちが降りるとメティスが為五郎にホバービークルを仕舞うように指示した。
俺たちは多機能防護服や衝撃吸収服のスイッチを入れ、『マナバリア』を発動させる。砂漠に降りた俺たちをギガントリザードが睨む。
次の瞬間、ギガントリザードが大量の砂を蹴散らしながら走り出した。俺は『ニーズヘッグソード』を発動し、十メートルもある拡張振動ブレードをギガントリザードに向かって振り下ろした。
空間振動波の長大な刃はギガントリザードの
その叫びには苦痛と怒り、それに恐怖が混じっているように感じた。ギガントリザードが二本足で立ち上がり、威嚇するように
為五郎が『クラッシュボールⅡ』を発動し、高速振動ボールを巨大な胸に向かって放つ。同時にエルモアが魔導武器の槍であるブリューナクを投じた。
ブリューナクは稲妻へと変化し、高速振動ボールより先にギガントリザードの腹を貫いた。強烈な電気が巨大トカゲの全身を駆け巡り、巨体を麻痺させる。その直後に高速振動ボールが命中し、その分厚い胸に穴を開けた。
それがトドメとなってギガントリザードが消え、魔石と保温マフラーをドロップ品として残す。保温マフラーは保温マントとは違う効果を持つようだ。これは首に巻くだけで周囲の温度を快適な温度にしてくれる魔道具だった。
俺たちは二層へ下りた。ホバービークルで飛びながら二層を調査する。広大な草原でゴブリンからレッサードラゴンまで様々な魔物が棲息しているようだ。
「ここの主は何だろう?」
『それらしい魔物は居ません。もう少し奥へ行きましょう』
「そうだな」
俺たちはホバービークルで飛んで草原の奥へと進み、主の姿を探した。そして、先に階段を見付ける。俺たちは着陸してホバービークルを仕舞う。
「結局、主は発見できなかったな」
そう俺が言った瞬間、地面が揺れて地下から巨大なミミズが這い出してきた。
『ドラゴンワームですね。これが主でしょうか?』
メティスの疑問に頷いた。ドラゴンワームは全長二十メートルほどの巨大なミミズである。こいつはタフで再生能力も高い。
そのドラゴンワームが迫ってきた。俺は『フラッシュムーブ』で後ろに飛んで距離を取る。
『ドラゴンワームは、冷凍攻撃に弱いはずです』
メティスの助言を聞いて、俺は七重起動の『コールドショット』を発動し、D粒子冷却パイルをドラゴンワームに向かって放った。
高速で飛翔したD粒子冷却パイルはドラゴンワームに命中して終端部がコスモスの花のように開いてストッパーとして働く。D粒子冷却パイルの全運動エネルギーがドラゴンワームに叩き込まれ、ドーンという轟音を響かせて胴体の中央付近がクレーターのようにへこんだ。
次の瞬間、D粒子冷却パイルに付与された<冷却>の特性が力を発揮して周辺の部分を凍らせる。ドラゴンワームの動きが遅くなった。『コールドショット』は凄まじい威力を発揮したが、一撃ではドラゴンワームを仕留められなかった。
俺は連続で七重起動の『コールドショット』を発動し、三発のD粒子冷却パイルを撃ち込んだ。撃ち込まれたD粒子冷却パイルは、ドラゴンワームの全身を凍らせた。全身が凍りついた巨大ミミズは光の粒になって消える。
『ドロップ品が見えませんね』
黒魔石<大>だけはすぐに見付けたが、他のドロップ品が見付からない。
「主だから、魔石だけというのはないと思うんだけど」
俺は『マジックストーン』を発動した。すると、俺の手の中に小さな指輪が飛び込んできた。
「巨大なミミズだったけど、残したのは魔石と指輪だけか」
『大きさは問題じゃありません。その機能です。調べてみましょう』
俺はマルチ鑑定ゴーグルを取り出して指輪を調べた。結果は収納リングだと判明した。その容量は縦・横・高さがそれぞれ二十五メートルほどの空間に匹敵するようだ。この容量は中学校や高校にある体育館に匹敵するだろう。
『収納系の魔道具をドロップするのは、ドラゴンやゴブリンだと言われていますが、ワームもドロップするのですね?』
「ドラゴンワームは、『ドラゴン』という名前が付いているから、ワームの中でも特別なのかもしれない」
その収納リングは容量だけで言えば、これまでのものより大きかった。これだけ大きな容量だと、何か特別な利用法がありそうだ。
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