第797話 神威エナジーの魔法

 俺は『ホーリーファントム』を試すために鳴神ダンジョンへ向かった。ダンジョンに到着すると二層へ行った。この階層の岩山が並んでいる場所へホバービークルで飛ぶ。


 岩山が連なっている近くで着陸するとホバービークルを仕舞う。周囲には誰も居ないようだ。俺は高さ二十メートルくらいの岩山から十五メートルほど離れて立ち、その岩山を見上げる。


 岩山の中腹中央を狙って『ホーリーファントム』を発動し、ホーリー幻影弾を放った。放った瞬間、ホーリー幻影弾が消えた。いつもならD粒子センサーが捉えるのだが、今回は何も感じなかった。目にも見えず、音も聞こえない。


 次の瞬間、ホーリー幻影弾が岩山に命中して爆発した音が聞こえた。爆発した事で<消音>の効果が切れたようだ。その結果、岩山の一部が崩れて直径三メートルほどの穴が開いた。


 黒武者なら一撃で確実に仕留められる威力である。その後、何発か試射して確かめたが、ホーリー幻影弾が飛翔している瞬間を感知する事はできなかった。ステルス機能は完璧である。


『ステルス機能は、大丈夫なようですね』

 メティスにも感知できなかったようだ。後はバリアや武器を制して邪卒に命中させられるかだが、それは実際に邪卒が現れないと試せない。


「テストは、これくらいにして帰るか。後はベヒモス用の魔法だけど、どんなものにしよう?」

『『覚醒の間』で創った<空間圧縮>を使って、魔法を創るのですね?』

「そのつもりだけど、巨獣ベヒモスの大きさを考えると、これはというアイデアが浮かばないんだ」


『ベヒモスの表面に命中した時に、<空間圧縮>が発揮されるような魔法だと、ベヒモスの表面しかダメージを与えられない事になります。<空間圧縮>はどれほどの大きさの空間を圧縮できるのですか?』


「魔力を使った場合は直径五十センチほどの球状の空間、励起魔力を使った場合は直径一メートル半ほどの空間、そして、神威エナジーを使った場合は直径五メートルほどの空間になる」


『待ってください。<空間圧縮>という特性は、魔力、励起魔力、神威エナジーの三種類の力を使えるという事ですか?』

「そうだ。『覚醒の間』でなければ創れないほど、高機能な特性だよ」

 俺たちはベヒモス用の魔法を話し合いながら地上へ向かう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺は地上に戻って屋敷に帰った。リビングで寛いでいると、テレビでニュース番組が始まる。最初は政治家の失言問題を放送していたが、後半になってリビアの内戦についての情報をアナウンサーが読み上げ始めた。


 その中に内戦を行っている場所が、東に広がっているという情報を伝えた。内戦というのは国民政府の軍隊と革命評議会の兵士が戦っているようだ。


 内戦には興味がなかったが、戦場がブレガダンジョンに近付いているというのが気になった。このままだとブレガダンジョンの周囲も戦場になってしまう。


『このままだと、益々ブレガダンジョンに入り難くなりますね』

 俺はリビアの情報を集め始める。すると、内戦の裏にはエジプトの関与があると分かった。反政府組織である革命評議会をエジプトが援助しており、戦いがエスカレートする気配があった。


 俺とメティスは状況を話し合い、ベヒモス討伐のベストな方法を探した。

「まずいな。今のうちにベヒモスに挑戦して、ベヒモスを別のダンジョンに移動させた方がいいかもしれない」


 一度ベヒモスと戦いたいという気持ちがあった。仕留めるのはまだ無理だろうが、小手調べ程度に戦ってベヒモスの実力を調べたいのだ。


『しかし、ベヒモスは反撃するでしょうから、それを防御しなくてはなりません。大丈夫でしょうか?』

「防御を考えなければならないか。どうするかな」

 攻撃用の魔法より先に防御用の魔法を創った方が良さそうだ。

『神威エナジーを使ったバリアみたいなものが、いいと思います』


 ベヒモスがどんな攻撃方法を持っているか分からないので、全身を守れるように結界のような防御手段が良いかもしれない。二次人格で神威エナジーを供給して結界を作り出す。その時に神威エナジーに込める思いにより結界の強度が変わるだろう。それをメティスと相談した。


『どういうものになるか、一度試してみましょう』

 俺とエルモアはグリーン館の敷地にある鍛錬ダンジョンに入り、人が居ない場所へ行く。そこで神威エナジーを使った結界魔法の開発を始めた。


 まずは何も加工しない神威エナジーで結界を張ってみた。その結界は俺の周囲に展開しているだけで、何も仕事をしなかった。物理的なものや衝撃波のようなものも素通りする。


「何だこれ? 全然意味がないじゃないか」

『やはり思いを込めないとダメなようです』

 その思いをどんなものにするかいろいろな案が出たが、一つずつ結界で弾くものを列挙する事にした。まずは物理的な攻撃や衝撃波を弾くようにする。


 次に魔力を使って発生したものを弾く、この中には魔法が入っている。

「面倒だな。この結界の魔法を発動する時、一つずつ考えながら発動しなけりゃいけないのか」

『人の思考や思いを、魔法的に表現する方法が発見されたという本を読みました』


 メティスが言うには、ダンジョンの石碑に『魔法概念』という考え方が刻まれており、それを研究した本だったらしい。


 俺とメティスは、その本を探し出して研究した。数日間研究したが、あまり研究は進まなかった。

「これは『覚醒の間』に行くか、『知識の巻物』を使うかしかないな」


 俺は使っていない『知識の巻物』を一つ持っているので、それを使う事にした。『知識の巻物』を取り出して開き、魔力を流し込む。すると、頭の中に選択肢が浮かび上がった。


 魔力法陣・細胞活性化魔力循環・ダンジョン通信網・励起魔力転換法・巨獣・魔法概念構築法というものだ。巨獣という選択肢に興味を持ったが、俺は『魔法概念構築法』を選択した。


 次の瞬間、魔法概念というものと、それを構築する方法が頭の中に流れ込んできた。それは生活魔法の特性に似ていた。


 俺とメティスは『魔法概念構築法』を使って神威エナジーに込める結界の魔法概念を構築した。そして、その魔法概念を<結界律>と名付ける。


 その<結界律>を神威エナジーを使って結界を展開する魔法に組み込む。すると、物理攻撃や衝撃波、魔力や励起魔力、魔儺、鬼神力、神威エナジーによる魔法を弾く結界を展開できる魔法が出来た。


 『魔法構造化理論』を使って構築したのに、習得できる魔法レベルは『30』になった。ただこの魔法は神威エナジーを使う俺専用の魔法なので、問題はないだろう。その魔法が完成した頃、リビアのブレガダンジョンの近くまで内戦が広がり始めた。


 急がなければならないと思った俺は、ギリシャへ行く飛行機を予約した。ギリシャからクレタ島へ行き、そこからリビアへ飛ぼうと考えたのだ。


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【あとがき】


 『生活魔法使いの下剋上 2巻』の販売予約が始まり、イラストなどの製作が急ピッチで進められているようです。編集部様から頂いて公開許可が下りたイラストなどを近況ノートで公開しておりますので、良かったら御覧ください。


 2巻目もよろしくお願いします。


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