第777話 マヌカウダンジョン

 タイチとシュンはニュージーランドに来ていた。目的はマヌカウダンジョンの十五層に現れる中ボスである。その中ボスというのは『レヴァナント』と呼ばれる吸血鬼に似たアンデッドである。


 レヴァナントは不死身だと言われており、殺すには特別な武器が必要だそうだ。

「タイチ、本当にレヴァナントを倒すと、『才能の実』が手に入るのか?」

「確実じゃないけど、レヴァナントを倒すと希望する『才能の実』がドロップする事があるそうだ」


 タイチの生活魔法の才能は『B』で魔法レベルが『19』、シュンの才能は『C+』で魔法レベルが『17』である。このまま順調に伸びれば、魔法レベルが才能の限界に達するだろう。


 タイチたちは限界に達する前に『才能の実』か『限界突破の実』を手に入れる方法を探し、レヴァナントの事を探し当てたのだ。


 灰になっても生き返ると言われているレヴァナントを仕留めるのは、破邪の力を持つ武器をレヴァナントの心臓に突き刺すしかないという。幸いにもタイチは千子村正、シュンは明神剣小狐丸という破邪の武器を所有しているので、レヴァナントを倒せると考えたのである。


 オークランド国際空港に到着した二人は、バスでマヌカウに向かった。二人はグリムに言われて英語を勉強し、会話ができるようになっている。


 バスの中でメモを見ていたシュンが前方に視線を向けた。

「次のバス停で降りれば、冒険者ギルドが近いようだ」

 二人はバスを降りると冒険者ギルドに向かって歩き始める。地図を見ながら冒険者ギルドを探し当てると、二人は中に入った。


 二人は受付カウンターへ近付き、受付の女性職員に冒険者カードを見せてから話し掛けた。

「日本から来た冒険者だ。マヌカウダンジョンの資料を見たいんだ」

 その女性職員は親切にマヌカウダンジョンの資料がある部屋を教えてくれた。


 二人が資料室へ向かおうとした時、デカいニュージーランド人が二人の前に立ち塞がった。

「おい、ガキども。ここは上級ダンジョンの資料室だ。間違えるんじゃねえ」

 それを聞いたタイチとシュンは、なぜか嬉しそうな顔をする。


「凄い、初めて見た」

「若い冒険者に絡んでくるベテラン冒険者というのは、絶滅危惧種か伝説だと思っていたのに……居るんだ」

 二人はツチノコを発見したかのような調子で言った。


 シュンとタイチは日本語で喋ったので、絡んできた冒険者には意味が分からなかったようだ。タイチは冒険者カードを出し、そいつに見せた。


「僕たちはC級冒険者ですよ」

「嘘をつけ」

 そのベテラン冒険者は、タイチの冒険者カードを取り上げようとした。タイチは素早く冒険者カードを仕舞って、後ろに跳び退いた。


 周りを見ると地元の冒険者たちがニヤニヤしている。いたずらかジョークの一種だと思っているようだ。シュンが受付の女性職員に目を向ける。


「この人は何なのです?」

 女性職員は肩を竦め、しょうがない人だという感じで止めに入る。

「ジョーンズさん、やめてください」

「うるせぇな。口を挟むんじぇねえよ」


 この冒険者は何かあって機嫌が悪かったようだ。タイチたちにしてみれば、八つ当たりである。タイチは地元冒険者を観察した。身長は百九十センチを超えているだろう。分厚い胸と腕の筋肉から相当鍛えているのが分かる。ただ動きに隙がある点から武術または格闘技の技量はそれほどではなさそうだ。


「女性に、そんな口の利き方はないだろう」

 タイチが注意すると、その冒険者がタイチを睨んだ。

「黙れ。お前のようなガキが、C級だというのがおかしいんだ」

「もしかすると、D級なのか? だったら、上級者に対して失礼だぞ」

 その冒険者のこめかみがピクピクと痙攣している。どうやら当たっていたらしい。


 タイチとシュンは実力的にはB級である。雷神ダンジョンのアイアンドラゴンを倒してB級になる事に拘らなければ、すぐにでもB級になれる実力があった。ただアリサたちがアイアンドラゴンを倒して御神籤おみくじを引いているので、自分たちもと思っている。


「おかしいと言われても、実際にC級なんだ。外見で判断するのは、冒険者として未熟だという事じゃないか?」


 タイチの悪い癖が出たようだ。シュンが『よせ』というように合図する。だが、それも間に合わなかったらしく、地元冒険者の顔色が変わる。


「ふざけんな!」

 タイチはウォーミングアップでもして実力を知らせ、地元冒険者に冷静になってもらおうと考えていた。だが、その前に切れていきなり殴り掛かってきた。


 咄嗟とっさの事だったので、タイチは反射的に対応していた。左足を半歩だけ斜めに踏み込み、拳をぎりぎりで躱しながら右膝を相手の鳩尾みぞおちに叩き込む。


 三橋師範から鍛えてもらっているので、そこからは自然に身体が動いた。腹を押さえた相手がうずくまろうとしたところに、肋骨を折る事を狙って追い打ちの横蹴りを放つ。そして、床に倒れた相手にトドメのサッカーボールキックを叩き込もうとした。


「ストップ!」

 シュンがトドメの攻撃を止めた。その時には攻撃してきた冒険者が床で苦しそうにしており、周りのニュージーランド人冒険者は声を失ったように静かになっていた。


 タイチの容赦ない急所への攻撃に地元冒険者たちが引いていた。

「あの日本人、容赦ないな」

「あんなのにちょっかいを出したジョーンズが、馬鹿なのよ」


 ジョーンズを擁護する声はなかった。あまり好かれていないようだ。日本人は若く見られると聞いているが、地元の冒険者に確かめると、タイチとシュンは十代だと思われていたようだ。


 その後、資料室でマヌカウダンジョンの十五層までとレヴァナントについて調べた。十五層までだと、手強いと言える魔物は四層のジャイアントグリズリーと十二層のコカトリスの二種類だけである。


 タイチとシュンは十分に調査してからマヌカウダンジョンに向かった。


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