第778話 マヌカウダンジョンの四層
マヌカウダンジョンの一層は、広大な草原だった。その草原にはオークやパニッシュライノ、ハンターサウルスなどが棲み着いている。
「一層は楽勝じゃないかな。気になるのは、パニッシュライノの雷装アタックくらいか」
シュンは昨日読んだ資料を思い出して言った。
「ここは最短ルートで通過しよう」
「ホバービークルを使う?」
「いや、少し身体を動かしたい」
タイチとシュンは歩き出した。三匹のオークと遭遇すると、タイチはアロンダイトを取り出し、シュンは無敵の剣アパラージタを取り出す。
オークが棍棒を振り上げて襲ってきた。タイチは振り下ろされた棍棒をアロンダイトで受け流す。オークが体勢を崩したところに、アロンダイトがオークの首を刎ねた。それからシュンもアパラージタで戦い、残りの二匹のオークも始末する。その後、オークを何匹か倒して先に進んだ。
「そろそろパニッシュライノが居ると言われている場所だろ」
タイチがシュンに声を掛けた。
「パニッシュライノのような突進して来る魔物は、倒すのが楽でいい」
突進してくるパニッシュライノの迫力と破壊力は凄まじいが、こちらが先に発見すれば確実に倒せるだけの実力を二人は持っていた。
二人はD粒子センサーを使って魔物を探しながら進む。しばらくして大きな魔物を感知し、それがパニッシュライノだと分かった。
五十メートルほどまで近付いたところで、パニッシュライノもタイチたちに気付いた。すると、猛烈な勢いでタイチたちに向かって突進を開始する。
タイチとシュンはほとんど同時に『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを放った。パニッシュライノはD粒子振動ボールがどれほど危険か理解できなかったようだ。そのまま突進してD粒子振動ボールが命中し、放射された空間振動波に刺し貫かれて死んだ。
タイチたちは確実に魔物を倒しながら一層を攻略した。そして、二層、三層と進み、四層の森に下りる。その森は杉に似た巨木が密集しており、上空から探しても階段が見付からない恐れがあったので、タイチたちは徒歩で階段へ向かった。
この森に住むジャイアントグリズリーは、全長が八メートルもある巨大熊である。その巨体で暴れまわるジャイアントグリズリーを倒すのはC級になったばかりの冒険者には難しい、という程度の強さがあった。
タイチたちはギルドで手に入れた地図を見ながら階段を目指して進んだ。起伏の激しい地形を三十分ほど歩いた時、前方から悲鳴のような声を聞いて二人は顔を見合わせる。
「今のは悲鳴じゃないか?」
タイチがシュンに確認した。
「そうだけど、絹を引き裂くような悲鳴じゃなくて、ボロ雑巾を引き裂くような悲鳴だった」
シュンがちょっと冷めた感じで答えた。
「助けに行こう」
女性の悲鳴だったらモチベーションが上がるのに、と考えながら二人は走った。そして、魔物と冒険者たちが戦っている現場に到着した。
優勢なのはジャイアントグリズリーで、逃げ回っているのは四人組の冒険者たちだった。魔装魔法使いらしい冒険者が地面に倒れており、攻撃魔法使いらしい三人が逃げ回りながら攻撃魔法を使っている。
タイチは状況を見て冒険者たちに問い掛けた。
「助けが必要か?」
「た、頼む!」
タイチはシュンに合図して戦闘に参加した。シュンが『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを巨大熊に向かって放った。
それに気付いたジャイアントグリズリーが、横に跳んで避ける。パニッシュライノよりは勘が良いようだ。しかも攻撃の対象を地元の冒険者からタイチたちに変更して襲い掛かってきた。
タイチが『ティターンプッシュ』を発動し、突進してくる巨大熊を撥ね返す。地面に倒れたジャイアントグリズリーは慌てて二本足で立ち上がり咆哮を上げる。
タイチとシュンは耳を押さえた。
「凄い咆哮だな。鼓膜が破れるかと思った」
タイチが言うとシュンが首を傾げる。
「えっ、何だって?」
一時的に耳が聞こえなくなったようだ。シュンが『バーストショットガン』を発動し、三十本の小型爆轟パイルを威嚇している巨大熊に向かって放つ。その小型爆轟パイルを避けようとしたジャイアントグリズリーだったが、五本ほどの小型爆轟パイルが命中して爆発。
その爆発で巨体が揺れて血が吹き出した。それを見たタイチはチャンスだと思い、『ニーズヘッグソード』を発動する。そして、形成された拡張振動ブレードを血を流す巨大熊に向かって振り下ろした。
十メートルもある空間振動波の刃がジャイアントグリズリーの肉体を切り裂き、大きなダメージを与えた。血に染まった巨体がゆっくりと倒れ、地面に叩き付けられて轟音を響かせる。
「シュン」
タイチがシュンの名前を叫ぶと、シュンが『おう!』と答えて魔力を込めたモージハンマーを投げた。クルクルと回転しながら飛んだモージハンマーがジャイアントグリズリーの頭に命中して強烈な火花放電を発生させて巨大な頭蓋骨の中にある脳を電気で焼いた。
ピクンと痙攣したジャイアントグリズリーの巨体が光の粒となって消える。そして、白魔石<小>と上級治癒魔法薬を残した。シュンが戻ってきたモージハンマーを仕舞うとドロップ品を回収する。
タイチは倒れている冒険者のところへ行って様子を確かめる。その冒険者は巨大熊に殴られたらしい。魔装魔法で防御力を高めていたので死ななかったけれど重傷だ。
仲間の冒険者たちが駆け寄り手当てを始めた。手当てと言っても、初級治癒魔法薬を飲ませただけである。
冒険者たちから感謝されて礼を言われてから、タイチたちは先に進んだ。
「危なっかしいチームだったね」
シュンがタイチに言う。
「C級になったばかりかもしれない。僕たちもあれくらいの頃は、グリム先生から危なっかしいと思われていたのかな?」
それを聞いたシュンが笑う。
「グリム先生だったら、今でもそう思っているかもしれないよ」
二人は面白そうに笑った。
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