第765話 エリアターンアンデッド
由香里たちは中ボス部屋がある丘に登り、横穴から中ボス部屋に入る。ここの中ボスはボーンドラゴンだった。全長十三メートルの骨だけのドラゴンである。
もちろん、今は居ない。B級冒険者に倒されたと冒険者ギルドの資料に書いてあった。由香里は野営の準備をして夕食を食べ、アヤメと話を始める。
「鬼王の埋葬地は、なぜ見付けられないんでしょう?」
「五層のほとんどは調べたんだけど」
「ほとんどと言うと、調べていない場所があるんですか?」
「地獄谷という場所は調べていない」
「なぜです?」
「あそこには、オーガの反逆者が閉じ込められているのよ」
反逆者はハセヌ鬼王を倒した後、鬼王の部下たちも倒そうとした。しかし、その部下たちの計略にハマって地獄谷に閉じ込められたという。その状況も別の石碑に刻まれている、とアヤメが教えてくれた。
「何百匹という反逆者はドラウグオーガへと変化し、地獄谷をさまよっているわ」
「その集団が存在しているうちは、地獄谷には手を出せないという事ね」
「そういう事。でも、ハセヌ鬼王の埋葬地は地獄谷ではない、と言われている」
「なぜです?」
「敵が大勢いるところを埋葬地にはしないだろうと、思われているのよ」
それを聞いた由香里はなるほどという顔をする。
「でも、その裏をかくという事もあるんじゃないかしら」
「そうだったら、手が出せない。あそこのドラウグオーガの数は半端じゃないからね」
由香里は何百というドラウグオーガを
「そんな事ができるのは、グリム先生くらいね」
由香里の呟きを聞いたアヤメが首を傾げる。
「グリム先生がどうしたの?」
「何でもないです。それよりもう寝ましょうか」
由香里たちは明日に備えて寝た。
翌日、由香里たちはドラウグオーガ狩りを続けた。そして、由香里が七匹目のドラウグオーガを倒した時、生命魔法の魔法レベルが上がって『16』になった。
「おめでとう」
アヤメが祝福した。由香里は嬉しそうな顔になって礼を言う。
その後、由香里たちは地獄谷の
「そろそろ帰りましょう」
今回の探索で得たものは、ドラウグオーガの赤魔石<中>が十二個と魔法レベルが上がった事だけだった。とは言え、目的はレベル上げなので成果ありという事になる。
地上に戻った由香里たちは、冒険者ギルドへ行って魔石を換金した。由香里はアヤメと別れて渋紙市へ帰った。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
由香里が屋敷に来て冥土ダンジョンでの出来事を教えてくれた。
「ハセヌ鬼王の埋葬品か。手に入れると呪われそうな宝物だな」
それを聞いたアリサが頷いた。
「でも、鬼神の武器というのが、どういうものなのか知りたいと思わない?」
全然興味がないと言うと嘘になる。だが、それを手に入れるのに何百匹ものドラウグオーガを倒さなければならないとしたら、
「グリム先生でも何百匹ものドラウグオーガを倒すとなると、不可能なんですか?」
「いや、神剣ヴォルダリルを使えば、倒せると思う」
「だったら、一緒に冥土ダンジョンへ行きませんか?」
「ん、でもな……」
「グリム先生は鳴神ダンジョンで実戦訓練をしているんですよね。今度は冥土ダンジョンで実戦訓練するのはどうです?」
それを聞いて笑った。由香里はどうしてもハセヌ鬼王の埋葬地を確かめたいらしい。
「いいだろう。実戦訓練はダンジョンだったら、どこでもできるからな」
気が変わったのは、その地獄谷なら神剣ヴォルダリルの訓練ができそうだと気付いたからだ。神剣ヴォルダリルは威力がありすぎて、鳴神ダンジョンでさえ訓練をどこでやるか迷うほどだ。
下手な場所で神剣ヴォルダリルを使うと、他の冒険者を巻き込む恐れがある。その点、地獄谷はドラウグオーガしか居ないと分かっている。
「それじゃあ、私も行きます」
アリサが一緒に行くと言い出した。アリサは生活魔法を指導している
「私も魔法レベルを上げたいのよ」
アリサが由香里に言う。結局三人で冥土ダンジョンへ行く事になった。その後、由香里の休みに合わせて冥土ダンジョンへ行く打ち合わせをした。
数日後、俺たちは由香里の都合に合わせて冥土ダンジョンへ向かった。その日はホテルに泊まり、翌朝早くから冥土ダンジョンへ潜る。
「さて、行こうか」
俺はホバービークルを出して乗り込む。アリサと由香里が乗ると飛び始めた。一層は狩りの対象になりそうな魔物が居なかったので素通りする。
二層も同じで最短ルートを三層へと向かう。三層は廃墟になった村だ。その廃墟に多数のスケルトンソルジャーがうろうろしているのがホバービークルの上から見えた。その数は三十体ほどである。
村の近くにホバービークルを着陸させると、俺たちは廃墟に向かった。スケルトンソルジャーは身長百八十センチほどで革鎧とショートソードを装備している。
「あのスケルトンソルジャーの集団を殲滅しよう」
俺が言うとアリサと由香里が頷いた。今回は由香里に範囲魔法の『エリアターンアンデッド』で殲滅してもらう事にした。但し『エリアターンアンデッド』は発動に時間が掛るので、その間の守りを俺とアリサが担当する事になる。
村に足を一歩踏み込んだ瞬間、多数のスケルトンソルジャーが気付いて近寄ってくる。その動きは村中に散らばっていたスケルトンソルジャーに
由香里は『エリアターンアンデッド』の準備に入り、俺とアリサは近付いてくるスケルトンソルジャーに向かって『サンダーバードプッシュ』で迎撃を始め、一体と言えども由香里に近付けさせなかった。
迎撃をしている間にもスケルトンソルジャーは集団を大きくしていく。その数が三十体を超えた時、由香里の準備が終わった。
「発動します」
由香里が『エリアターンアンデッド』を発動した。スケルトンソルジャーの周囲から黄色の光の粒が湧き出すと霧のようになってアンデッドたちの集団を包み込んだ。
隊列を組んで進んでいたスケルトンソルジャーの一体が、ガクリと膝を突くと崩れるように地面に横たわる。そして、次々にスケルトンソルジャーが倒れて地面に横たわった。
地面で藻掻いたスケルトンソルジャーが次々に消える。
「一撃で全滅したな。凄いじゃないか」
俺は由香里を褒めた。由香里が嬉しそうな顔をする。アリサが『マジックストーン』を使って魔石を集め、それを由香里に渡す。
「ありがとう。やっぱりグリム先生とダンジョンに潜るのはいいですね。何だか安心感があります」
俺たちは三層から四層へ行き、最短ルートで五層へ下りた。由香里に案内されて石碑を確認してから、地獄谷へ向かった。
地獄谷に到着すると縁から下を見下ろす。そこには想像以上に多いドラウグオーガが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます