第764話 鬼王の墓

 一層に入った二人は、広大な墓地を奥へ進んだ。最初に遭遇したオークゾンビを『ターンアンデッド』を使って由香里が始末する。


「お見事。威力のある生命魔法ね」

 アヤメが由香里を褒めた。

「『ターンアンデッド』は初歩の初歩ですよ。褒められるようなものじゃないです」

「でも、『ターンアンデッド』一発で、オークゾンビは中々仕留められないと聞いている」


 『ターンアンデッド』一発では、スケルトンやファントムを仕留める事はできても、オークゾンビは無理だと言われている。ただ熟練者になると威力が強化されるという情報もあるのだ。


「由香里は生命魔法のレベルを上げるために来たと、言っていたよね?」

「そうですけど」

「何を狩るつもりなの?」

「五層のドラウグです」

 ドラウグというのは、スカンディナヴィアのサーガや民話に登場するアンデッドである。肉体を持つ動く死体だと言われている。同じようなゾンビとの違いは、死体が腐らないという事だった。


 ただドラウグと言っても種類が多い。冥土ダンジョンのドラウグはドラウグオーガと呼ばれており、オーガの死体がアンデッド化したものだ。


「もしかして、ドラウグオーガが守っていると言われている伝説の宝物を狙っているの?」

「伝説の宝物?」

 由香里が『何それ?』というような顔をする。


「ああ、知らないんだ」

「何ですか? その伝説の宝物というのは?」

 アヤメが説明してくれた。それによると五層の戦場跡には、戦いで死んだオーガキングの死体が埋葬されていると言われているそうだ。その埋葬品の中にはオーガキングが使っていた鬼神の武器があるという。


「誰も発見していないのに、なぜオーガキングの事が分かっているんです?」

「石碑が残されていて、そこに刻まれた碑文に書かれていたのよ」

 ダンジョンからの挑戦状という事だ。見付けられるものなら見付けてみろ、という事だろう。


「ここで活動している冒険者は、探したんですよね?」

「もちろんさ。私も探したけど、見付からなかった」

 簡単には見付からない場所に埋葬されているという事だ。それを探すのも面白いかもしれないと由香里は思った。


 一層を進み二層へ下りる階段まで辿り着いた。ここまでのアンデッドは、ガレスを出す必要を感じなかった。二層へ下りると、荒涼とした風景が広がっているのが目に入る。


 ここには巨大蛇のスケルトンやゾンビが棲み着いている。最初に遭遇したのは、巨大蛇のスケルトンだった。全長七メートルほどのスネークスケルトンが骨を鳴らしながら全身をくねらせて進む姿は不気味だ。


 アヤメが薙刀のような武器を取り出してスネークスケルトンを攻撃する。それは魔導武器のようで刀身から光を放っていた。


 薙刀の刃がスネークスケルトンの頭蓋骨に命中すると、スパッと頭蓋骨が切れた。但し、致命傷にはならなかったようだ。


 由香里はスネークスケルトンの動きを観察してから、『シャインブロー』を発動して右手から銀色の光を放った。銀色の光がスネークスケルトンの頭蓋骨に当たると頭蓋骨が輝き溶け始める。スネークスケルトンが苦しみながら由香里を噛み殺そうと大口を開けた。


 そこにアヤメの薙刀が振り下ろされる。その一刀で首が切断され、頭蓋骨が地面を転がって光に粒となって消えた。由香里は発動しようとしていた『サンダーバードプッシュ』を中断して安堵あんどの表情を浮かべる。


「その薙刀の切れ味は凄いですね?」

 由香里がアヤメの薙刀を見ながら言った。

「これは『破邪光の薙刀』よ」

 アヤメが嬉しそうに自分の武器を説明した。神話級の魔導武器でアンデッドに対しては無類の切れ味を持つそうだ。


 由香里たちは三層、四層と進み、ついに五層へ下りる階段まで辿り着いた。その階段を下りると、五層の草原が広がっており、そこにはボロボロの戦旗や折れた槍が地面に突き刺さっており、戦場跡だと分かる。


「気を付けて、ここのドラウグオーガは手強いわよ」

 アヤメが警告する。その直後にドラウグオーガと遭遇した。身長三メートルほどのイエローオーガのアンデッドが戦鎚を振り上げて襲ってきた。


 由香里は『サンダーバードプッシュ』を発動し、D粒子で形成された稲妻プレートをドラウグオーガの顔面に叩き付けた。その衝撃でドラウグオーガが弾き飛ばされると、駆け寄って『シャインブロー』でトドメを刺す。


 『シャインブロー』だけだと避けられる事もあるのだが、生活魔法を使って転ばせてからだと仕留めやすい。しかし、襲い掛かられた時の迫力でドラウグオーガの強さを感じた由香里は、ガレスを出す事にした。


「これからシャドウパペットを出すので、驚かないでください」

「へえー、そんなものを持っているんだ」

 由香里が影からガレスを出すと、アヤメが驚いた顔をする。もっと小型のシャドウパペットだと思っていたようだ。


「想像していたシャドウパペットと違う。これは特別製なの?」

「はい、戦闘用シャドウパペットです。盾役の前衛として作ったものです」

 ガレスがタワーシールドと神槍ワズラを出して構えると、アヤメが感心したように頷く。


 ガレスが先頭に立って進み始め、次のドラウグオーガと遭遇する。由香里たちに気付いたドラウグオーガは、戦鎚を振り上げて襲い掛かる。ガレスが前に進み出てドラウグオーガの突進をタワーシールドで止めた。


 この時はタワーシールドに魔力を流し込んで<衝撃吸収>を効かせていた。突進が止まったドラウグオーガに対して、ガレスが片手で神槍ワズラを突き出す。神槍がドラウグオーガの胸を貫通する。


 よろけたドラウグオーガに由香里が『シャインブロー』でトドメを刺した。その戦いを見ていたアヤメはガレスの強さに目を丸くする。


「ガレスだけで、ドラウグオーガを倒せたんじゃないの?」

「ええ、それくらいの強さはありますけど、それだとレベルアップができないから」

 そう言われたアヤメは納得したように頷いた。そのアヤメが由香里を石碑のところに案内してくれた。ちょっとした丘の上に石碑が立っている。


 石碑には魔法文字で文章が刻まれていた。魔道書を研究しているので、魔法文字を読める由香里が刻まれた文章を読む。


「『オーガの長い歴史の中で、初めて多数のオーガを纏め上げたハセヌ鬼王は三十年間君臨した。だが、反逆者との戦いに敗れて長い眠りについた。忠実なる臣下である我らは、ハセヌ鬼王が再び蘇る事を願って、ある場所に鬼王の亡骸なきがらと所有していた宝と鬼神の武器を埋葬した。鬼王が蘇るまで墓を探す事を禁ずる』」


 アヤメが由香里に目を向けた。

「魔法文字が読めるのね?」

「ええ、勉強したんですよ。でも、この文章には墓の手掛かりはなさそうです」

「まあ、探すなと書いてあるくらいだから」


 それからドラウグオーガを五匹ほど倒して野営する事になった。野営する場所はアヤメが案内した。石碑の丘から五キロほど離れた場所にある丘で、ここの中腹に中ボス部屋があるという。


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