第760話 八大竜王タクシャカ

 心眼の解析により巨大蛇タクシャカの事が少しだけ分かった。全てを解析するには時間が掛かるので表面的な事だけである。


 分かった事の中にはブレスの事があった。このタクシャカは、生活魔法のクラッシュ系と原理的には同じブレスを吐くようだ。無色透明な空間振動波のブレスは『破砕ブレス』と呼ばれている。


 俺はホバービークルを旋回させて冒険者ギルドへ戻った。ちなみに、タクシャカを倒すために何をしても良いという許可をもらっているので、ホバービークルを飛ばしている。


 着陸すると、ホバービークルを仕舞う。

「見た感想は?」

 シェーカルの質問を聞いて思わず難しい顔になった。

「八大竜王の中で最弱というのが、信じられない。シェーカルさんは一度戦ったんですよね。どうでした?」


 シェーカルが渋い顔になる。

「『メテオシャワー』を発動し、魔力衝撃弾を撃ち込んだのだが、全く通用しなかった。クエットは魔導武器のベガルタの斬撃で攻撃したが、竜王障壁によって防がれたようだ」


 ベガルタはケルト神話に出て来る神話級の魔導武器だ。斬撃を衝撃波として飛ばせる武器で五大ドラゴンさえ倒せる威力がある。


「作戦はどうなっているんです?」

「君以外の全員が攻撃しているうちに、光剣クラウ・ソラスの準備をして、ヴァースキ竜王の竜王障壁を破った技でタクシャカの竜王障壁も打ち破ってくれ」


 その後はタクシャカを総攻撃で倒すというシンプルな作戦らしい。竜王障壁を打ち破る方法は他にもあるのだが、光剣クラウ・ソラスのプロミネンスブレードを希望するというので、その作戦通りに従う事にした。


 今度は全員がマイクロバスに乗り込み、オララムへ移動した。タクシャカから五百メートルほど離れた地点でバスを降りた俺たちは、徒歩で巨大蛇タクシャカへ向かう。


 俺は歩きながら多機能防護服のスイッチを入れ、『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻く。


 散開した他の冒険者たちは、タクシャカに向かって攻撃を開始した。ラッセルズが『ブラックホール』を発動して疑似ブラックホールを放つ。ベトナムの攻撃魔法使いであるタンは『フレアコメット』を発動し、彗星弾を撃ち放った。


 疑似ブラックホールに気付いたタクシャカは、竜王障壁で疑似ブラックホールを弾き飛ばす。彗星弾は竜王障壁に命中すると大爆発を起こした。高熱の炎が竜王障壁を包み込もうとするが、竜王障壁は炎さえ弾き飛ばす。


 攻撃を受けた巨大蛇タクシャカは、大暴れを始めた。身体をくねらせて近くの家を破壊し、攻撃するA級冒険者たちに向かって破砕ブレスを吐く。


 その破砕ブレスの威力を知っている冒険者たちは、必死で逃げ回る。冒険者に命中しなかった破砕ブレスが、オフィスビルや店舗に命中して破壊した。


 仲間たちが巨大蛇を攻撃している間に、俺は光剣クラウ・ソラスに魔力を流し込んでいた。刃と刃の間にフォトンブレードが発生し、魔力の注入を続けるとそれがプロミネンスブレードに変化する。


 プロミネンスブレードが十五メートルにまで伸びると、タクシャカに向かって走り出した。竜王である巨大蛇はプロミネンスブレードの危険性に気付き、俺に向かって破砕ブレスを吐き出した。


 俺はプロミネンスブレードをタクシャカに振り下ろすと同時に、『フラッシュムーブ』を発動して移動。破砕ブレスは俺が直前まで居た場所を薙ぎ払い、深い溝を刻む。


 『フラッシュムーブ』を発動すると同時に振り下ろしたプロミネンスブレードの狙いが少し逸れた。頭を狙ったのに胴体部分に命中して炎熱球が竜王障壁に貼り付く。炎熱球は竜王障壁から魔力を吸い上げて炎へ変換し、そのせいで竜王障壁が維持できなくなって消えた。


 変な姿勢のまま『フラッシュムーブ』で移動して空中で放り投げられた俺は、地面に転がって素早く起き上がる。心臓がバクバクと脈動している。危なかったと自覚しながらタクシャカへ目を向けた。


 竜王障壁が消えて炎熱球が胴体を焼いている。タクシャカは凄まじい叫び声を上げ、破砕ブレスを炎熱球に向けて吐き出した。


 破砕ブレスは炎熱球と一緒に巨大蛇の胴体の一部まで粉々にした。だが、それにより炎熱球が消える。タクシャカの胴体から大量の血が噴き出す。しかし、致命傷にはならなかったようだ。


「よし、総攻撃だ!」

 シェーカルが大声を上げた。その後、シェーカルたちが次々に攻撃し、炎熱球による大ダメージを負っているタクシャカは避ける事もできずにダメージを受け続けた。


 巨大蛇がのたうち回り、段々と弱り始めている。仕留めるチャンスだと考えた俺は、『クロスリッパー』を発動してクロスリッパー弾を放った。


 高速で飛翔したクロスリッパー弾が巨大蛇タクシャカの頭に命中し、空間ごと引き裂いた。十字に切れた巨大な頭部から、盛大に血が噴き出して地面を濡らす。轟音を響かせて倒れたタクシャカが動かないのを確認し、戦いに決着がついたと分かった。


 竜王の血は不老不死の薬であるアムリタの材料となる。この暑さだと一時間以内に採取して凍らせないと、ダメになるだろう。


「この死骸はどうするんです?」

 俺はシェーカルに尋ねた。

「軍が回収する事になっています。ある情報によると、タクシャカの肉は若返りの効果があるらしいんです」


 この情報にはびっくりした。

「そうなんですか?」

 俺が確認すると、シェーカルが頷いた。俺は心眼で確かめてみた。すると、面白い事が判明した。確かにタクシャカの肉を食べると、人間の肉体を若返らせる効果があるようだ。


 但し、それは皮膚や筋肉が五年ほど若返るというものであり、脳などには効果がないと分かった。ところが、本格的な若返り効果のあるものが、タクシャカにはあった。


 タクシャカの眼球の中にあるゼリー状の硝子体というものが、人間の全身を若返らせる効果があると分かったのだ。ここで注目したのは、人間の脳も若返らせるという点である。


 俺はシェーカルにタクシャカの一部が欲しいと言ってみた。

「仕留めた者が、ドロップ品の一つを手に入れる事ができるというルールからすれば、当然の要求だと思うが……」


 何が欲しいのかと質問され、眼が欲しいというと変な顔をされた。シェーカルは俺が肉が欲しいと答えるだろうと思っていたようだ。


 シェーカルが他の冒険者たちに確認を取り、俺はタクシャカの眼球を手に入れた。神剣グラムでタクシャカの眼球を切り取り、ビニール袋に入れてからマジックポーチⅧに仕舞う。マジックポーチⅧは時間遅延効果を持っているので、すぐには腐らないだろう。


「その眼球は何に使えるんだ?」

 オーストラリアのギルベルトが尋ねてきた。

「肉が若返りの効果を持つなら、眼球も何かの効果があるかもしれないので、調べてみるつもりです」


「なるほど、面白いな。本当に何かの効果があれば、一攫千金いっかくせんきんという事だな」


 不老不死の霊薬であるアムリタの材料である血も回収しようかと思ったが、アムリタを飲んだ聖パルミロが半邪神になったのを思い出してやめた。それに暑い季節なので、血は腐り始めていた。


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