第757話 アーメルリアクターとアルゲス電機
アルゲス電機の本社で開かれた会議に出席していた俺は、業績が急激に伸びている事を確認した。アメリカから手に入れた黒鉄を使って製造した黒鉄製発電システムが、世界各地に売られて業績に繋がったようだ。
「黒鉄製発電プラントについては満足できる数字ですね。鋼鉄製の励起魔力発電システムの開発は、どうですか?」
俺が質問すると、堀越専務が資料を取り出した。
「これを見てください。励魔球から発生する衝撃波を効率的に分散させる事で、メンテナンスの期間を延ばす事ができるようです」
励魔球が発生する場所の内壁鋼が奇妙な形に波打っている。その形状が衝撃波を分散させているらしい。堀越専務から渡された資料を見ると、内壁鋼のダメージを三割削減するようだ。
「これで鋼鉄製発電システムを商品として出せる、という事でいいんですね?」
「はい、これで商品化ができます。鋼鉄製にしたので大型化する事になりましたが、出力を五万キロワットに上げる事で採算は取れます」
鋼鉄製発電システムは、アルゲス電機の主力商品になる予定なので『S型励魔発電プラント』という名前が付けられた。
会議の最後に菅沼社長から気になる報告があった。
「柴田電機の勝浦社長を監視していた探偵から、最近オランダ人らしい人物と
「オランダ人? 何者だろう?」
「オランダというと、魔石発電炉を開発したアーメルリアクターを連想してしまうのですが」
「社長はアーメルリアクターと勝浦社長が手を組んだというのですか?」
菅沼社長は首を振って否定した。
「いえ、そこまでは考えていません。ですが、アーメルリアクターは我が社のライバルとなる会社ですから」
社長はいつかアーメルリアクターとは衝突するだろうと考えていたようだ。どちらも発電プラント製造業で業績を伸ばしており、いつかは競い合う事になるというのは、簡単に予想できる。
俺もそうだと思っていた。魔石発電炉は小型化しやすく整備費が安いというメリットがあり、励起魔力発電システムは燃料費が無料だというメリットがある。
「やっぱり、オランダ人らしい外国人というのは気になりますね。探偵に詳しく調べるように指示を出してもらえますか」
菅沼社長が頷いた。
「分かりました。念のために調べさせましょう」
この時の判断は正しかった事が後に分かった。探偵たちの調査で、勝浦社長が会っている人物がアーメルリアクターの非常勤取締役であるランメルスだと分かったのだ。
それに加え勝浦社長の事も分かった。アルゲス電機が大規模な空売りを仕掛けられた事があったが、仕掛けたのが勝浦社長だったらしいのだ。
空売りを仕掛けたが、結果は大失敗で大損した勝浦社長はアルゲス電機と俺を恨んでいるらしい。身勝手な話だと思う。あの代議士先生のように脅してやろうかとも思ったが、それを逆手に取って『脅かされた』と警察に訴えそうだ。勝浦社長はそんな小狡い感じがする。
魔物なら魔法で
そんな事を考えながら日々を過ごしているうちに、黒鉄製発電プラントを納入した発電所が完成し、その完成式典に招待された。初めは行く気はなかったが、アーメルリアクターのランメルスがオランダから部下らしいチームを呼び寄せたという連絡を受けた。
完成式典に合わせるように来日したランメルスの部下というのが気になった。世界でも有名な一流企業がテロ行為などしないと思うが、用心のために完成式典へ出席する事にした。
『アーメルリアクターは、どうして正々堂々と競争しないのでしょう?』
メティスには金銭欲がないので、経済について理解していないところがある。
「あそこは発電プラントの四割を製造しているからな。競争相手が現れるのを嫌うのは当然さ」
電力産業は、火力発電、水力発電、風力発電、魔石発電が電気を作る主要な方法になっている。その他の再生エネルギーと呼ばれるものや原子力も少数だが存在するが、基盤電力とはなっていない。
コンピュータの技術が失われ、安価な太陽光パネルを製造する技術を失った太陽光発電や安全性に問題が生じた原子力発電は衰退したのである。
その代わりに伸びたのが魔石発電だ。今では電力の四割を魔石発電が供給している。その発電プラント市場にアルゲス電機が参入した事で一番燃料費が高い魔石発電がシェアを奪われる事になると、アーメルリアクターは分かっているのだろう。
アルゲス電機が他の発電プラントを製造している会社のシェアを奪いながら発展し、最終的には共存する事になる、と俺は予想している。
その過程で発電プラントの値下がりが起こり、発電プラント製造会社の儲けは少なくなるだろう。だが、それにより電気料金が安くなれば、需要が増えて売上が伸び始めるはずだ。
但し、アーメルリアクターだけで四割のシェアを取るという事はなくなるだろう。
『何を仕掛けてくるのでしょう?』
「見当が付かないな。一流企業だから、テロ行為はしないと思うんだが」
『そうなのですか? アルゲス電機の評判を落とすには、こういう式典で事故を起こすのが効果的だと思います』
「それはそうだけど……」
その完成式典の日、俺と菅沼社長は新潟県に完成した新発電所へ来ていた。県会議員や財界人が集まっている中で菅沼社長が挨拶した。俺は後ろから挨拶を聞いているだけである。
基本的に大勢の前で挨拶するなんて事は苦手なのだ。式典が進み、ようやく励起魔力発電システムのスイッチを入れるという時間になった。
式典を抜け出した所長が制御センターへ入り、時計を見ながら発電ボタンを押すタイミングを待つ。
所長の指で発電ボタンが押された後、電力会社の操作員が励起魔力発電システムの発電量を調節するレバーをゆっくりと上げていく。すると、ボイラーの温度が上がり始める。
式典の会場では発電が始まった事が報告され、歓声が沸き起こる。俺もその中に居て拍手していたが、俺の視覚は飛竜型シャドウパペットのハクロと繋がっており、そのハクロは制御センターの中に居た。
その操作員は予定の発電量に達したのに、まだレバーを上げようとした。その手を桜色の手が止めた。
『何をするんです?』
操作員の手を止めたのはエルモアである。このまま操作員が発電量を上げれば、大事故になっているところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます