第753話 ダイダラボッチとの戦い
ホバービークルに乗って上から見ていた時、千佳はドイツの冒険者たちを捜した。その姿は見付からず、やはり返り討ちに遭って全滅したのだろうと千佳は思った。
剣術家の娘として生まれた千佳は、人の死について割り切った考え方をしている。それでも人が死んだのだと考えると、暗い気分になった。
但し、戦いが始まった時、千佳はそれらの感情や考えを心の隅に追いやり、戦いに集中できるように訓練している。
ダイダラボッチは千佳を追って迫ってきていた。最初に本当にクラッシュ系が通用しないのか確かめる必要があると考えた。連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをダイダラボッチに向かってばら撒く。
三つのD粒子振動ボールがダイダラボッチに命中した。その衝撃で空間振動波が放射され、ダイダラボッチの肉体に穴を開けようとする。だが、巨獣ジズに匹敵するほどの魔法耐性を秘めたダイダラボッチの肉体が、それを拒んだ。
ダイダラボッチの魔法耐性は、空間振動波を受け止めた。
「クラッシュ系がダメだとなると、物理攻撃しかないのね」
千佳は一人乗りのホバーキャノンを出してから、『プロジェクションバレル』を発動した。磁力発生バレルが形成されると、それとホバーキャノンを接合する。
千佳はダイダラボッチをチラリと見てから、ホバーキャノンに飛び乗った。ダイダラボッチが岩を拾い上げて、千佳に向かって投げる。
それを見た千佳が急いで発進すると、後方で岩が落下した轟音が響き渡った。ダイダラボッチは投擲術みたいなものを習得しているのか物を投げるのが得意らしい。千佳はダイダラボッチの周りを旋回しながら鉄製砲弾を放つチャンスを待つ。ダイダラボッチは二十メートルほどもある棍棒を振り回し始めた。
その棍棒は木を引き抜いて自分で作ったものらしく粗末なものだ。千佳の真上に巨大な棍棒が振り下ろされた。千佳はホバーキャノンを加速して棍棒の攻撃を避ける。
次の瞬間、ホバーキャノンの接合した磁力発生バレルをダイダラボッチに向けるために、ハンドルを切って機体を横にしてドリフト状態にする。
その状態でダイダラボッチに狙いを付けて発射ボタンを押した。磁力発生バレルに砲弾が押し込まれ、強烈な磁気で砲弾が加速する。磁力発生バレルから砲弾が飛び出した瞬間、轟音が響き渡り、衝撃でホバーキャノンが震える。
音速の十倍近い速度にまで加速された砲弾は、空気を切り裂いて飛翔。それがダイダラボッチの腹を掠めた。その衝撃でダイダラボッチの腹が切り裂かれる。
千佳は唇を噛み締めると、次のチャンスを待つ事にした。ダイダラボッチは苦痛の叫びを上げて暴れ始めた。岩、木、土砂などを何でも掴み上げると、ホバーキャノンに向かって投げ始めたのである。
千佳は避ける事に集中した。今までの訓練で培った技術を駆使してホバーキャノンを自在に操り、ダイダラボッチの攻撃を回避した。
ホバーキャノンの砲弾が切り裂いたダイダラボッチの傷口は、塞がり始めている。それを見た千佳は厳しい顔になった。
ダイダラボッチの攻撃が途絶えた瞬間、千佳はもう一度磁力発生バレルをダイダラボッチに向けて発射ボタンを押す。その瞬間、激しい反動が発生したものの衝撃吸収装置が反動のほとんどを吸収した。
極超音速で飛翔する砲弾がダイダラボッチの腹に命中して貫通した。それを見た千佳が続けて二発を撃ち、巨人の腹に穴を開ける。ダイダラボッチが大量の血を吐き出して頭から地面に倒れた。
千佳がトドメの一発をダイダラボッチの頭に撃ち込もうとした時、ダイダラボッチが顔を上げて持っていた棍棒をホバーキャノンに向かって放り投げた。その時、千佳の反応が遅れた。攻撃しようとした瞬間だったので、すぐにはホバーキャノンを制御できなかったのだ。
飛翔する棍棒がホバーキャノンを弾き飛ばす。その衝撃で千佳は空中に投げ出された。『エアーバッグ』を発動した千佳は、空中で受け止められて落下する。
地面に落ちた千佳は激しく左肩を打ち付けた。これは衝撃吸収服の弱点である。衝撃吸収服の外側から受ける衝撃は吸収してくれるのだが、落下などで内側で発生した衝撃は、身体の内部でも発生しているので吸収できない。
「ううっ」
呻きながら起き上がった千佳は、ダイダラボッチに視線を向けた。ダイダラボッチは、砲弾が与えたダメージが大きかったようで起き上がれないようだ。
チャンスだと考えた千佳は『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻くと、『フラッシュムーブ』を使ってダイダラボッチの近くまで移動した。
天照刀を振り上げて魔力を流し込み、【天照斬】を使う。その瞬間、天照刀の刀身から光の刃が五メートルほど伸びた。その光の刃をダイダラボッチの首に振り下ろす。
ダイダラボッチが必死に転がって光の刃を避けた。千佳が追撃しようとした時、巨大な手が千佳を叩き潰そうと襲ってきた。千佳は魔力バリアを展開して巨大な手を受け止める。
ダイダラボッチの力は凄まじく、腰に巻いているD粒子マナコアが見ているうちに小さくなる。千佳は追撃を中断して『フラッシュムーブ』を発動し、後方に下がった。
ダイダラボッチがよろよろしながら立ち上がった。千佳は『フラッシュムーブ』を発動し、足元に近付いた。その瞬間、ダイダラボッチが【地砕駄】を使う。巨大な足を地面に叩き付け、爆発したかのような勢いで土砂を周りに撒き散らした。
その土砂の一部が千佳にも命中する。魔力バリアを展開する時間がなかったのだ。とっさに両腕で顔と頭を守ったので、衝撃吸収服が命中した土砂の衝撃を吸収してくれた。だが、周囲に舞い上がった砂塵を吸い込みそうになり、千佳は『フラッシュムーブ』で後方に下がる。
ダイダラボッチを見ると、【地砕駄】を使った衝撃で腹の傷がまた開いたようだ。苦しげに腹を押さえて地面に倒れた。千佳はこうなると予想していたので、ダイダラボッチが【地砕駄】を使わないと思い、足元に飛び込んだのだ。
予想は外れたが、チャンスは到来した。『フラッシュムーブ』でダイダラボッチの頭のところへ飛んで、天照刀の【天照斬】を使う。その時、スフィンクス像の内部で見た絵が心に浮かんだ。
目標を首から頭に変えて光の刃を振り下ろす。絶大な切断力がある光の刃がダイダラボッチの頭に食い込み、頑丈な頭蓋骨を切断した。
ダイダラボッチの巨体が光の粒となって消えると、千佳は地面に座り込んだ。
「危なかった」
千佳は収納ペンダントから初級治癒魔法薬を取り出して飲んだ。肩が熱を持ってズキズキと痛み始めたからだ。戦っている最中はアドレナリンが出ていた御蔭で痛みをあまり感じなかったが、戦いが終わると痛みを感じ始めたのである。
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