第752話 スフィンクス
ギガモスキートという魔物は、左右の羽を広げた長さが二メートルほどで、注射器の針のような口が五十センチほどという凶悪な存在である。その口器と呼ばれる口から腐食毒を注射して溶かした肉体を吸い込むという凶悪な攻撃を行う。
また飛行速度も驚異的であり、魔力を使って飛んでいるとしか思えない。そんなギガモスキートが数十匹を超える数で群がってくるのだ。
前方からブーンという音が聞こえてきた。モスキート音と呼ばれるようなか細い音ではなく、羽が空気を切り裂く音は周囲に響き渡っている。
スライムナイトが戦闘モードで前に出た。数匹が群がって攻撃しようとした瞬間、スライムナイトの身体から九本の『スライムランス』と呼び始めた触手をパイルバンカーのように突き出し、数匹のギガモスキートを串刺しにした。
千佳は『フライングブレード』を発動し、D粒子で形成された斬剛ブレードを生み出して手に持った。この斬剛ブレードは<斬剛>の特性が付与されており、ギガモスキートなら軽く真っ二つにできる。
千佳に群がってきたギガモスキートを斬剛ブレードで切り捨てる。最大五メートルにまで伸ばせる斬剛ブレードを使って次々にギガモスキートを切り裂く。
D粒子センサーを働かせて周囲の状況を把握しながら近付くギガモスキートを切り捨てる。群がるギガモスキートの数が増え、千佳の動きが速くなる。
舞うような足取りで円を描きながら流れるように剣を振る。それは一瞬も止まる事がなく、全方向に斬剛ブレードの刃を送り込み、近付くギガモスキートを真っ二つにした。
切り捨てたギガモスキートの数が二十匹を超えた頃から、千佳は数えるのをやめた。それ以降はひたすら斬剛ブレードを振り続けて切り捨てる。
それは御船流剣術の『
「終わったようね」
スライムナイトに話し掛けると、鎧に覆われた頭が頷く。その周囲を見ると、二十個ほどの魔石が散らばっている。千佳は『マジックストーン』を発動して魔石を回収した。
その後、二度もギガモスキートの群れと遭遇したが、『桜花舞い』で全滅させた。十九層を攻略した千佳は、二十八層まで最短ルートを通り、二十九層の砂漠に到達。
広々とした砂漠を見渡すと、遠くにスフィンクス像が見えた。それを見た千佳は首を傾げる。冒険者ギルドの資料には、スフィンクス像の存在など書かれていなかったからだ。
「どういう事なの?」
興味を持った千佳は、そのスフィンクス像を確かめるためにホバービークルで飛んだ。スフィンクス像の近くに着陸した千佳は、ホバービークルを仕舞うとスフィンクス像を見上げる。
高さが二十メートルほどもある大きな像だ。スフィンクスというのは、ライオンの身体と人間の顔を持った神聖な存在である。その姿を模した巨大なスフィンクス像の胸の部分に通路の入り口があり、千佳とスライムナイトは中に入った。
薄暗い通路を奥へと進むと、細長い部屋に辿り着く。その部屋の壁に絵が描かれていた。それはダイダラボッチの絵のようだ。その絵の中でダイダラボッチと戦っているのは、勇者か何かだろうか? そんな疑問が浮かんだ千佳は、次々に絵を確認する。
ダイダラボッチと戦う絵は、五つあった。その中の最後の絵に、勇者がダイダラボッチの頭を横薙ぎに切り裂いている姿が描かれていた。そして、切り裂かれた頭から光り輝く宝石のようなものが飛び出している。
千佳には意味が分からなかったが、その絵が心に深く刻み込まれた。
「ダンジョンは、何を伝えたいのでしょうね?」
スライムナイトも絵を見ていたが、何を考えているのかは分からない。そんな事を考えながら奥へと進んだ千佳は、奥に部屋があるのに気付いた。鋼鉄製のドアがあったので開くかどうか試してみる。
千佳がドアノブを掴んで回すと、簡単に開いた。奥の部屋は二十畳ほどの広さがあり、その中央に宝箱が置いてある。あからさまに怪しい部屋だ。天井にはアイスピックのような棘が数十本も固定されており、壁には穴が開いている。
「スライムナイト、あの宝箱を開けて」
用心しながらスライムナイトが奥の部屋に入った。その瞬間、天井から棘が撃ち出されてスライムナイトの鎧に弾かれた。それだけではなく、壁から槍が突き出されてスライムナイトの胴体に当たる。
その槍もスライムナイトの鎧で受け止められたが、普通なら即死していたほどの威力があった。スライムナイトの鎧は白輝鋼製であり、通常なら朱鋼ほど頑丈ではない。しかし、<堅牢>の特性を付与する事で朱鋼以上の強度を与える事に成功していた。
本当は朱鋼を使いたかったが、さすがに朱鋼は高価なので白輝鋼にしたのである。予想していた事だが、これくらいの罠など撥ね返す事が証明された。
スライムナイトが宝箱に向かって進むと、次々に壁から槍が突き出されて鎧に命中して甲高い音を響かせる。スライムナイトが宝箱を開けた。その瞬間、宝箱から毒ガスのようなものが噴射されたが、スライムナイトにとって何の脅威にもならなかった。
スライムナイトは、宝箱から見覚えのあるものを取り出した。それはグリムが使っていた鑑定モノクルに似たものだ。
最初にグリムが手に入れた鑑定モノクルは、アイテムの鑑定しかできない最低ランクの鑑定モノクルだったが、この鑑定モノクルはどうだろうか?
千佳は装着してみると、鑑定モノクルが目の周りの皮膚に張り付くように固定される。鑑定モノクルが起動してレンズに文字が映し出される。それを読むと『魔物&アイテム用鑑定モノクル』だと判明した。
グリムが手に入れた鑑定モノクルよりは高性能なものだと分かる。以前から欲しかったものなので、千佳は喜んだ。
続けてスフィンクス像の内部を調べてみる。だが、他には何も見付からず、スフィンクス像から出ると階段を捜して三十層へ下りた。
三十層は高い山がいくつも
ダイダラボッチと戦う前に疲れたくなかったので、ホバービークルで山を越えて盆地に入った。一番に目に入ったのが、巨人がウロウロしている姿である。
観察するためにホバービークルで近付くと、ダイダラボッチが十メートルほどもある木を引き抜いて千佳に向かって投げた。
「ええーっ!」
驚いた千佳は急旋回して避けた。空中から近付くのも安全でないと分かり、ホバービークルを少し離れた場所に着陸させた。千佳は降りてホバービークルを仕舞う。
シュンほど空中戦が得意ではないと分かっている千佳は、自分が得意な分野で戦うべきだと考えた。そこで天照刀を抜いてゆっくりとダイダラボッチに向かって歩き始めた。
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