第750話 ミノタウロス要塞と千佳

「あなたたちに問題がある訳じゃないのよ。でも、私とは合わないみたい」

 藤崎が苦笑いする。

「気を使わなくてもいいです。今日戦っているのを見て、実力の違いに気付きました。黒木とサヤカもそうだと思います」


 千佳が黒木とサヤカを見ると、二人とも頷いている。

「あのサンドギガースを、雑魚扱いしていましたからね。敵わないと思いました」

 サヤカが正直な感想を言った。


 黒木が千佳に視線を向けた。

「実力的には、A級に匹敵するんじゃないですか?」

 A級という言葉を聞いた千佳は、そろそろ狙ってみようかと考えた。A級になるには日本の冒険者ギルドからの推薦状と実績が必要である。


 そのためにはソロでネームドドラゴンを倒すくらいの実績が必要だった。

「A級になるためには実績が必要だから」

 千佳がそう言うと、藤崎が気になる事を教えてくれた。それは有名な魔物の一匹である『ダイダラボッチ』の情報だった。


「茨城県の那珂なかダンジョンの中ボスが、ダイダラボッチだそうです。三十層の中ボスなんですが、最近になって復活したと聞きました。ダイダラボッチなら、ネームドドラゴンに匹敵すると思いますよ」


 そんな大物なら、狙っている冒険者も多いのではないかと千佳は思った。だが、ダイダラボッチは身長三十メートルの化け物で桁違いに頑丈らしい。しかも、なぜか魔法耐性も高いという。


 『ブラックホール』でも一撃では倒せなかったらしいので、クラッシュ系の生活魔法でも簡単には倒せないかもしれない。確実なのは天照刀の【天照斬】で首を刎ねる事だが、あの巨体の首を刎ねるには、地面に転がさないと無理だ。


「ダイダラボッチね。いい情報を感謝します」

 藤崎が千佳に真剣な顔を向ける。

「一つお願いがあるんですが」

「何です?」

「全力で戦っているところを、見せて欲しいんです」


「私は生活魔法使いなので、参考になるか分かりませんよ」

「それでも構いません」

「いいでしょう。明日は九層のミノタウロス要塞に行きましょう」

 全力で戦うとなると、相手も実力がなければならない。ミノタウロスやミノタウロスジェネラルなら全力で戦えそうだ。


 翌朝、千佳たちは九層へ向かった。まだミノタウロス像が復活していない墳墓を抜け、草原に出るとミノタウロス要塞へ向かった。


 近くで見る要塞は大きかった。この中には多数のミノタウロスとその上位種が居る。ただミノタウロス要塞は冒険者により研究され、どのルートを通ればミノタウロスの集団と遭遇せずに中央まで行けるか判明している。


 とは言え、必ず門番のミノタウロスは倒さなければならない。千佳は影からスライムナイトを出して戦闘準備をさせる。アンドロイドのようになった戦闘モードのスライムナイトと一緒に要塞の門に近付く千佳。門番のミノタウロスたちは当然気付いて襲い掛かってきた。


 迫る五匹のミノタウロスに対して、千佳は『ニーズヘッグソード』を発動して全長十メートルの拡張振動ブレードで迎撃した。拡張振動ブレードが横薙ぎに振られ、ミノタウロスたちの胴体を両断した。


 その一撃で死んだミノタウロスは三匹である。残った二匹にスライムナイトが近付いた。鎧を装着しているのでガチャガチャと音がするのかと藤崎たちは思っていたが、スライムナイトはほとんど音を立てずに移動する。


 スライムナイトのぷよぷよした肉体が鎧のパーツの間に入り込んでクッションになっているのだ。ミノタウロスがハルバードをスライムナイトに振り下ろす。その攻撃を大剣で受け止めたスライムナイトが、ハルバードを跳ね上げ、ミノタウロスの胸に大剣を突き出した。


 もう一匹のミノタウロスがスライムナイトの背後から襲い掛かる。その時、スライムナイトの背中から二本の触手のようなものが高速で突き出された。その先端には朱鋼製の杭のようなものがあり、その一本がミノタウロスの鎧を簡単に貫いて心臓に穴を開ける。


「うわっ、あんな事もできるのか」

 後方で見守っていた黒木が声を上げる。スライムナイトの鎧には<貫穿>を付与した朱鋼製の杭が仕込まれており、スライムナイトの身体の一部と結合し、その爆発的なパワーで白い鎧の隙間からパイルバンカーのように突き出したのである。


 千佳は魔石を回収すると藤崎たちを連れて要塞の奥へと進んだ。途中で何匹かのミノタウロスに遭遇したが、ほとんど天照刀の一撃で倒している。


 そして、ミノタウロスジェネラルが居る部屋まで辿り着き、用心しながら中を覗く。身長四メートル、ボディビルダーのような逞しい肉体に牛の頭が載っている。装備は身躱し鎧と呼ばれる防具だ。それは魔法や物理攻撃の軌道を逸らす効果がある。


 武器は大剣でスライムナイトが使っている大剣と似ていた。このミノタウロスジェネラルの弱点は、足や腕に装備している防具が平凡なものだという事だ。


 まず足や腕を狙って攻撃し、ダメージを与えてからトドメを刺すというのが、ミノタウロスジェネラルを倒す定石である。


 千佳とスライムナイトが部屋に入ると、ミノタウロスジェネラルが大剣を構えて千佳を睨む。スライムナイトとミノタウロスジェネラルが、同時に進み出て大剣による攻防を繰り広げる。意外にも良い勝負をしている。


 千佳は自分の実力を藤崎たちに見せるためにスライムナイトを下がらせた。そして、前に出ると天照刀を構える。ミノタウロスジェネラルが大剣を横薙ぎに振る。それを後ろに跳んで躱した千佳は『コールドショット』を発動し、D粒子冷却パイルをミノタウロスジェネラルの足に向かって飛ばす。


 ミノタウロスジェネラルが横に跳んで躱す。それを見ていた千佳は、着地のタイミングに合わせて七重起動の『ハイブレード』を太い脚に叩き込んだ。ミノタウロスジェネラルの右足が切断され、バランスを崩した巨体が倒れる。


 『疾風の舞い』の歩法を使って床を高速で滑るように進んだ千佳が、天照刀をミノタウロスジェネラルの首に叩き込んだ。首は身躱し鎧がカバーしていないので、天照刀の軌道が逸れる事もなく切断された。


 ホッと息を吐いた千佳は、残ったドロップ品を回収する。ドロップ品は魔石と大量の白輝鋼だった。その量は一台の車を白輝鋼だけで作れるほどだ。


「お見事です」

「身躱し鎧は厄介なのに、凄いです」

 藤崎たちが部屋の中に入ってくる。千佳とミノタウロスジェネラルの戦いを見ていた三人は興奮していた。特に黒木は、武器で仕留めたのが気に入ったようだ。


 その後、地上に戻った千佳たちは冒険者ギルドへ行って、蟠桃をオークションに出す手続きをした。魔石リアクターについては、千佳が一個、残りの一個を売って藤崎たち三人で分けるという事にした。


 それだけ千佳が狩ったサンドギガースの数が多かったのだ。それでも魔石リアクターが高く売れたので、藤崎たちは満足そうだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る