第749話 サンドギガース狩り

 スライムナイトを披露した千佳は、翌日からのダンジョン探索に備えて寝る事にした。


 その翌日、十一層に下りた藤崎たちは、ランニングスラッグの群れが見えるナメクジ草原と呆れるほど多くのアリゲーターフライが飛ぶ空を見た。


「聞いていたが、思っていた以上にランニングスラッグの数が多いな」

 黒木がうんざりしたような声を上げる。藤崎たちは装甲車を用意してきたらしい。だが、装甲車だと何十回もランニングスラッグの体当たりを受けて酷い事になるらしい。


「今回もホバービークルで飛んでいきましょう」

 千佳の提案によりホバービークルでナメクジ草原を縦断する事にした。ホバービークルを操縦する千佳は、ランニングスラッグの群れの間を縫うように飛んだ。


「蟠桃の森へ行ってみませんか?」

 突然サヤカが提案した。蟠桃は定期的に採集に来る冒険者が居るので、採取できるほど熟している蟠桃はないかもしれないが、行ってみる価値があると千佳は判断した。藤崎たちも賛成したので進路を蟠桃の森に変える。


 蟠桃の森でホバービークルを降りた千佳たちは、蟠桃の木に近付いた。その蟠桃の木には一個の熟した実が生っていた。


「ニードルカメレオンが居ます。これ以上は不用意に近付かない方がいいでしょう」

 サヤカが首を傾げた。

「どうやって蟠桃を採取するんです?」

「そうですね。生活魔法使いなら、防御用の魔法『マナバリア』を使うのが定番かな」


 千佳は『マナバリア』を発動し、D粒子マナコアを腰に巻くと魔力バリアを展開して蟠桃の木に近付いた。その瞬間、何もない場所から毒針が飛んできて魔力バリアに当って撥ね返される。


 その毒針攻撃でニードルカメレオンの位置が分かった千佳は、天照刀を木の幹すれすれに振り抜いた。すると、何もなかった場所にニードルカメレオンの姿が浮かび上がり、地面に落ちて消えた。


 他に毒針の攻撃がないようなので、蟠桃の木に近付いて蟠桃を採取してマジックポーチに入れた。他の木も探したが、熟している実はなかった。


「一個だけなの」

 サヤカが残念そうな顔で言う。

「蟠桃をオークションに出せば、高値で売れるから、一個だけでも採取できれば幸運だと思わなきゃ」

 藤崎が言った。それに千佳も賛同する。

「そうですよ。採取できる実を見付けられたのは、ラッキーでした」


 千佳は何十回も蟠桃の森に来ているが、蟠桃を採取できたのは三回だけだった。それほど蟠桃は希少なのだ。


「さあ、目的の十二層へ行きましょう」

 千佳たちは階段へ向かった。十二層へ下りると、また砂漠だった。千佳たちはホバービークルに乗ってサンドギガースを探し始める。


 そして、五分ほど飛んだところでサンドギガースと遭遇した。

「よし、倒すぞ」

 藤崎が気合の入った声を上げる。千佳がホバービークルを収納ペンダントに入れて前に出ようとすると藤崎が止めた。


「御船さん、今度は僕たちが仕留めます」

 藤崎が真剣な顔で言った。蟠桃の森では、千佳が一人でニードルカメレオンを仕留めたので、気にしているようだ。


 黒木が羅刹剣を抜いて走り出し、藤崎とサヤカは攻撃魔法の準備を始めた。千佳は少し下がって見守る。サンドギガースは、身長五メートルほどの砂で出来た巨人である。その身体のどこかにゴルフボール大のサンドハートと呼ばれる核を持ち、その核を壊さないと仕留める事はできない。


 黒木がサンドギガースの横を走り抜けながら、羅刹剣で砂の足を切断する。右足の膝から下を失ったサンドギガースが倒れると、そこに藤崎の攻撃魔法が叩き込まれた。


 藤崎が使った魔法は『ロッククラッシュ』、高速魔力榴弾がサンドギガースの背中に命中して爆発。砂の背中に大きな穴が開いたが、すぐに周囲の砂が集まり穴を埋めた。


 完全に元の姿に戻ったサンドギガースを見て、黒木が舌打ちする。千佳は藤崎たちがなぜ強力な魔法を使わないのか疑問に思った。だが、少し考えれば答えが分かる事だった。魔力消費を気にしているのだ。


 サヤカが『ソードフォース』を使ってサンドギガースの両足を切断した。その直後、藤崎が『メガボム』でサンドギガースを吹き飛ばす。


 その爆発はサンドギガースのサンドハートを破壊したらしく砂の巨人が形を失い、魔石だけが残った。

「残念、魔石だけか」

 黒木が呟くと魔石を拾い上げた。千佳は藤崎たちに近付く。

「お見事、少し休みますか?」


 藤崎が首を振った。

「いいえ、次のサンドギガースを探しましょう」

 千佳は頷いてホバービークルを出す。それに乗った千佳たちは次の獲物を探した。しばらく飛んで探し回り、八キロほど離れた場所で別のサンドギガースを発見した。


 今度は全員でサンドギガースと戦う事になり、千佳も天照刀を持って魔物の前に進み出た。生活魔法使いが砂の巨人のような魔物と戦う場合、『バーストショットガン』が有効だという事が知られている。


 千佳はためらわずに『バーストショットガン』を発動し、三十本の小型爆轟パイルを放った。高速で飛翔した小型爆轟パイルがサンドギガースに命中し、いくつもの爆発が起きた。この爆発はサンドギガースの胸から上を吹き飛ばした。


 その中にサンドハートがあったようで、サンドギガースがただの砂の山となり魔石が転がった。

「今度も魔石だけか。魔石リアクターを手に入れるのも、簡単じゃないのね」

 千佳が呟くと、藤崎が千佳に目を向ける。


「御船さんは、サンドハートがどこにあるのか分かるんですか?」

 千佳が一撃で仕留めたので、そう思ったらしい。

「いいえ、正確な位置は分かりません。ただサンドギガースの体内でD粒子のかたよりがあるのには、気付きました」


 D粒子の密度が高い部分を感じるという不明確な感覚だが、それにより攻撃する位置を絞れるので有効なのだ。


「えっ、D粒子の密度が違うという事ですか?」

 D粒子を感じる才能があるサヤカが声を上げた。サヤカのD粒子センサーの感度は、それほど高くないので密度の違いまでは感じ取れないのだろう。


 千佳も生活魔法の才能が『C』だった頃は感じられなかった。だが、『才能の実』で『A』まで上がった頃になると感じられるようになっていたのだ。才能は習得できる魔法のレベルだけでなく、感覚的なものまで影響があるようだ。


 それからも一緒にサンドギガースを狩り続け、二十匹ほど狩って二個の魔石リアクターを手に入れた。ただ途中で藤崎たちの魔力が乏しくなり、ほとんど千佳一人で戦うようになった。


 魔力容量は、倒した魔物の種類や数、それにダンジョン探索の期間や潜った深度などが影響している。それらを比較すると、倒した魔物の種類や数で千佳が勝っているので魔力容量に違いが出たのだと思われる。


 十層の中ボス部屋に戻った千佳たちが夕食の準備をしている時、藤崎が千佳に話し掛けた。

「御船さん、僕たちのチームに入るかどうかを、試してみて決めると言っていましたが、どうです?」


 千佳は返事をするのをためらった。それに気付いた藤崎が、

「分かっています。不合格だったんですね」

 と言った。藤崎も自分たちと千佳の実力差に気付いていたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る