第747話 千佳と火樹銀花

 B級冒険者である千佳は、ソロでダンジョンへ潜る事が多くなった。一緒にチームを組める冒険者を探してみたが、アリサたちのように安心して組める人材は中々居ない。


 そこでアリサに相談すると、戦闘用シャドウパペットを作る事を勧められた。

「そうね、最低でも二体くらいは必要だと思う」

 もちろん、執事シャドウパペットの『カンナ』を除いて二体という事である。


「戦闘用シャドウパペットというと、エルモアや為五郎みたいな?」

「ええ、取り敢えず、一体だけでも作ったら」

 千佳は前に手に入れた『シャドウスライムの影魔石』の事を思い出した。


「そう言えば、『シャドウスライムの影魔石』を持っているのだけど、使えるかな?」

 千佳にそう尋ねられたアリサは、スライムと聞いて考えた。

「スライムだと、素早さと攻撃力が問題になるわね」


「それがあるので、今までシャドウパペットを作らなかったのだけど」

 二人は話し合い一つのアイデアを出した。スライム型シャドウパペットに『アクアスーツ』を発動した時に形成されるアクアスケイルのようなものを用意して、それを組み立てると生きている鎧『リビングアーマー』のようになるというアイデアだ。


 スライム型シャドウパペットは、リビングアーマーの形をしたスライムとなって戦うという事だ。実際に戦えるようになるには、かなりの訓練が必要だと思われるが、二人は面白いと感じた。


 天音に頼んで、アーマーと高速戦闘にも対応可能なソーサリー三点セットを用意してもらう。


 D粒子を練り込んだシャドウクレイは、グリムに頼んで百八十キロほど用意してもらった。スライム型シャドウパペットに組み込むものは、ソーサリー三点セットと魔導コア、千リットルの容量を持つマジックポーチⅠ、それに三個の魔力バッテリーである。


 コア装着ホールは天音に頼んだアーマーに六個組み込む事にした。ソーサリー三点セットと魔導コア、マジックポーチⅠ、魔力バッテリーなどを組込んで、仕上げに千佳が魔力を流し込むと、真っ黒なスライムが出来上がった。


 そのスライム型シャドウパペットが、天音が作った白輝鋼製アーマーの中に入り自由自在に動けるようになるまで、約一ヶ月の時間が掛かるだろう。また白輝鋼製アーマーにもいくつか仕掛けが組み込まれているが、その一つは影属性を付与して影に潜れるようになっているというものだ。


 新しいシャドウパペットの名前は魔物のような名前になるが、『スライムナイト』にした。スライムナイトの武器は、<貫穿><斬剛><光盾>の三つの特性を付与された朱鋼で作られた大剣である。


 それから千佳が相手となり、厳しく鍛え上げた。スライムナイトはブルーオーガ程度なら倒せるようになり、千佳と一緒に鳴神ダンジョンへ潜るようになった。


 その日、千佳が冒険者ギルドへ行くと受付の加藤から声を掛けられた。

「御船さんに仲間になって欲しいという冒険者チームがあるのですが、どうしますか?」

「何というチームです?」


「『火樹銀花かじゅぎんか』というC級冒険者のチームです。近畿地方で活動していたチームで、最近になって渋紙市へ来たのです」


「実績はどうなんです?」

「アイスドラゴンを倒した事があるそうです」

 千佳はチームでアイスドラゴンを倒したというレベルだと、力不足じゃないかと感じた。だが、自分だってそういう頃もあった事を思い出し、まず会ってみる事にした。


 その日の午後に会う事になり、千佳が冒険者ギルドで待っていると男性二人と女性一人のチームがギルドに入ってきた。加藤がそのチームを千佳のところに案内する。


「おれたちが『火樹銀花』だ。よろしく」

 男性の一人は逞しい体格の魔装魔法使いのようだ。もう一人は攻撃魔法使いだろう。


「僕は攻撃魔法使いの藤崎ふじさき聖夜せいやです。こっちは魔装魔法使いの黒木くろき太吾だいご、そして、攻撃魔法使いの浦沢うらさわサヤカです」

「私が御船千佳、生活魔法使いよ」


「ん? 魔装魔法使いではなかったのですか?」

「生活魔法の魔法レベルが、魔装魔法より高くなったんです」

「困ったな。前衛をお願いしたかったんですが」


 前衛が黒木一人なので、それを補充したかったようだ。

「私は前衛でも構わない。ただ少しの間、一緒に活動してみてからチームに入るか決めたいのだけど」


 こういう事はよくある事なので、藤崎たちは了承した。藤崎たちの目的は十二層のサンドギガースらしい。倒して魔石リアクターを手に入れたいのだ。


「なぜ魔石リアクターを狙っているの?」

 千佳が尋ねると、藤崎が意外だという顔をする。

「知らないのですか。天然ガスを産出するサハリンで事故があり、ガスの産出量が減るそうです」


 藤崎の歳は二十代後半、黒木は三十代、そして浦沢は千佳と同じくらいだろうか。藤崎は花があるというか、女性にモテそうな男で、頭が切れそうな印象がある。


「なるほど、ガスの代わりに魔石を電気に変えて使おうという者が増えたのね」

「ええ、魔石リアクターが、とんでもなく値上がりしているんですよ」

 魔石リアクターを狙って鳴神ダンジョンへ来ている者が増えているそうだ。藤崎たちは八層までは攻略できたのだが、九層で墳墓を守護するミノタウロス像に苦戦して攻略できないという。


 千佳は転送ゲートキーを持つ自分に、転送ゲートで十層まで一気に移動する事を期待しているのだろうかと考えたが、そうではなく一緒にミノタウロス像と戦って欲しいようだ。千佳は藤崎たちと一緒に九層まで潜る約束をした。


 次の日、千佳が装備に着替えて、鳴神ダンジョンの前で待っていると藤崎たちが来た。千佳を見て急いで着替える三人。


 ダンジョンに入り、一層と二層は最短ルートで通過して三層へ下りた。ここは海エリアなので、藤崎たちは装甲ボートで海を渡っているようだ。


「ここの海は、私のホバービークルで行きましょう」

「ホバービークルというのは?」

 藤崎が質問した。

「空を飛ぶ乗り物です。船底を攻撃される事がないので、安全ですよ」

 千佳はホバービークルを出して見せた。藤崎たちは目を輝かせて乗り込んだ。ホバービークルが飛び始めると、歓声を上げて興奮していた。


「やっぱりB級は凄いですね。こんな便利な装備を持っているなんて」

 サヤカは勘違いしているようだが、B級だからホバービークルなどの装備を持てるのではなく、グリムの弟子だから持っているのだ。


 そうやって協力しながら九層まで到達し、十層への階段がある墳墓の前まで来た。


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