第741話 ブラッドリーとミノタウロスジェネラル

 アメリカの巨獣討伐チームは、次の標的をベヒモスに定めた。但し、アメリカがベヒモスと思っているのは、ベヒモスの劣化版であるプアリィベヒモスである。


 プアリィベヒモスはメキシコのコリマダンジョンに居る。この上級ダンジョンはミノタウロスがやたらと多いが、プアリィベヒモスが存在するという一点を除いて普通の上級ダンジョンだった。


 巨獣討伐チームの主要メンバーは、A級二位のブラッドリー、A級四位のハインドマン、A級六位のアイヴァン・キャナダイン、A級十位のジョンソンの四人である。ちなみに、キャナダインは攻撃魔法使いで、ニュージーランド人だ。


 その他に七人ほどのA級冒険者が参加している。ほとんどが攻撃魔法使いであり、最低でも『メテオシャワー』が使える猛者たちだった。


「ジョンソン、生活魔法は上達したのか?」

 ハインドマンが尋ねた。

「魔法レベルが『5』までの生活魔法は、全部習得した。今は生活魔法の『才能の実』を探しているところさ」


「それなら、このダンジョンで手に入れられるかもしれないぞ」

「本当に?」

「ああ、二十層の中ボス部屋に隠し部屋があるらしいんだが、そこには才能の木が生えていると言われている」


「それが本当なら、このダンジョンはもっと有名なはずだけど?」

「その隠し部屋を見付けた者は、二人しか居ないのだ」

「ふーん、簡単に見付けられないように、隠されているという事か」


 巨獣討伐チームはダンジョンに入ると、最短ルートを進んだ。十層までは手強い魔物とも遭遇せず、順調だった。そして、十層の中ボス部屋で一泊する。


 翌朝、十一層へ下りて先に進み、十五層でミノタウロスの集団と遭遇。二十匹ほどの集団で、ミノタウロスジェネラルが率いていた。


「私がミノタウロスジェネラルを倒す。残りのミノタウロスは任せた」

 ブラッドリーは指示を出すと、一人だけ離れた。残されたジョンソンたちは武器を出し、身長三メートルのミノタウロスの前に進み出る。


 ミノタウロスは、A級冒険者にとって強敵ではない。魔装魔法で筋力と素早さを強化したジョンソンは、愛剣ジョワユーズを構えてミノタウロスと戦い始めた。


 日本では槍斧と呼ばれるハルバードを握り締めたミノタウロスが剛力で振り下ろす。ジョンソンは受け流して懐に入り込み、ミノタウロスの胴にジョワユーズの刃を叩き込み傷を負わせる。


 その痛みでミノタウロスが吠えバランスを崩す。ジョンソンが追撃しようとした時、ミノタウロスがハルバードを振り回した。ジョンソンは後ろに跳んで、その攻撃を躱す。


 ジョンソンは右に回り込んで攻撃すると見せ掛け、フェイントに引っ掛かったミノタウロスの腕を斬り落とした。次の瞬間、跳躍したジョンソンがミノタウロスの首を刎ねた。


 その後、もう一匹ミノタウロスをジョンソンが倒した頃には、生き残っている敵はミノタウロスジェネラルだけになっていた。


 身長四メートルで大剣を右手に持ち、身躱しの鎧を装備したミノタウロスジェネラルは素早かった。その素早さは魔装魔法で素早さを五倍に強化した魔装魔法使いに匹敵する。


 但し、『音速の狩人かりうど』と呼ばれるブラッドリーからすれば、ミノタウロスジェネラルの素早さは問題ではなかった。厄介なのは装備している身躱しの鎧である。ミノタウロスジェネラルを攻撃しようとすると、身躱しの鎧の効果で攻撃の軌道がずれるのだ。


 ブラッドリーの剣はリジル、『翔閃撃』という技が使える神話級の魔導武器である。ミノタウロスジェネラルが大剣を振り回してブラッドリーを攻撃する。


 その攻撃をぎりぎりで躱したブラッドリーが、ミノタウロスジェネラルの足に向けてリジルを振る。ミノタウロスジェネラルが大剣で受け止め撥ね返す。


 馬鹿力で愛剣を撥ね返されたブラッドリーの身体が宙に舞う。ミノタウロスジェネラルのパワーは桁違いだった。次の瞬間、大剣がブラッドリーに向かって突き出された。


 ブラッドリーはリジルを横から大剣に叩き付け、その反動で空中で身体の位置をずらして躱す。猫のように身体を捻って着地したブラッドリーは『翔閃撃』を放った。


 ブラッドリーの魔力がリジルに吸い込まれ光の斬撃となって飛ぶ。身躱しの鎧はその斬撃さえ軌道を変える効果を発揮する。ただ斬撃を放った位置が近すぎたので、軌道を完全に変えられずに斬撃の端が身躱しの鎧を掠めた。


 その衝撃でミノタウロスジェネラルが撥ね飛ばされる。まともに命中すれば、ミノタウロスジェネラルが真っ二つになってもおかしくない威力だ。


 地面に倒れたミノタウロスジェネラルに向かって駆け寄ったブラッドリーが、その右足を斬り飛ばした。激痛で暴れる敵を冷静に見定めたブラッドリーが、今度は首に『翔閃撃』を放ってトドメを刺す。


 ミノタウロスは魔石を残しただけだったが、ミノタウロスジェネラルは魔石の他に『リフレクトの盾』をドロップした。


「お見事、リジルの威力は素晴らしいな。しかし、ベヒモスに通用するかが問題ですね?」

 ジョンソンがブラッドリーに近付いて声を掛けた。


「私が持っている武器は、リジルだけじゃない」

 リジルより強力な魔導武器を持っているようだ。ジョンソンは感心したように頷いた。ベヒモスにさえ通用する武器を持つらしいブラッドリーを、ジョンソンは羨ましいと思った。


 少し休憩してから再び移動を開始する。そして、二十層の中ボス部屋まで辿り着いた。ここで一泊する事になり、野営の準備が始まった。


 ジョンソンは手早く野営の準備を終わらせると、中ボス部屋の調査を開始した。中ボス部屋は巨大な岩山の中にあり、犬の足跡のような地下空間となっていた。


 一番大きな空間が足跡の足底部分で、他に指の部分に当たる小さな空間が四つあった。それぞれは狭い通路で繋がっており、巨獣討伐チームは一番大きな空間に野営している。


 最初に野営している空間の壁を調べたが、隠し部屋に通じるような抜け道はなかった。そこで四つある小さな空間を調べ始めた。


「ジョンソン、本当に隠し部屋を探しているのか?」

 教えてくれたハインドマンが声を掛けた。

「本当にあるのなら、面白いじゃないですか」

 ジョンソンがワクワクしているような顔で言う。それを見てハインドマンが苦笑いする。ここは何百人もの冒険者が調べたが、見付けたのは二人だけという難解な隠し部屋なのだ。


 その後もジョンソンは調べ続け、三つ目の小さな空間を調べている時、壁に綺麗な六角形の形をした小さな窪みがあるのを発見した。幅が三センチほどの小さなもので、深さは一センチほどしかない。壁には他にも大小様々な窪みや突起があるので、目に付いたのは偶然である。


 ジョンソンはその窪みを調べ、指で窪みの底を触る。その瞬間、転送の罠が作動した。ジョンソンが光に包まれ消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る