第737話 探偵たちの末路
俺たちは渋紙市に戻った。その後、屋敷でのんびりしていると資源エネルギー庁の高橋長官から、俺に会いたいという連絡があった。
「どうするの?」
アリサが尋ねた。俺としては会ってみるつもりでいる。官僚としては型破りな人物だというので、興味が湧いたのだ。
「会ってみるよ。日本で事業を展開するには、役人の協力も必要だろう」
都合の良い時間と場所を連絡し、翌々日の午後に会う約束をした。天音とアリサを誘ってみたが、役人には興味がないそうだ。
翌々日、アルゲス電機の工場で待っていると、高橋長官が部下と一緒に来た。俺と菅沼社長が出迎え挨拶を交わす。高橋長官は背が高い渋い感じの人物だった。
「御社で、燃料を必要としない発電システムを開発した、と聞いたのですが、本当ですか?」
「燃料を必要としないというのは、正確ではありません。燃料は我々の周囲にあるD粒子です」
「ほう、D粒子が燃料ですか。開発された発電プラントは、どれほどの出力があるのです?」
「我が社で開発したものは、一万キロワットのものです。価格と整備費は高くなりますが、燃料費が必要ないので総合的なコストを考えれば、既存の発電プラントより安い値段で電気を供給できるはずです」
高橋長官の質問に、誇らしげに菅沼社長が答えた。それを聞いた高橋長官が頷く。
「実際の数字を見せてもらえますか」
同じ出力の石炭火力発電と比べた場合のコストなどを計算した表を、高橋長官に渡した。
「三ヶ月間隔で、発電を止めて整備しなければならないのか。これでは電気が止まる事になる」
「そうではありません。例えば、このプラント十二基を一つの発電システムとして設置し、一斉に整備するのではなく、順番に整備する事を考えています」
「なるほど。ところで安全なのですか?」
長官の質問を受け、俺は頷いた。
「D粒子が燃料なので、燃える事はありません。それに意図的に細工をしない限り爆発する事もないのです」
「石炭などの燃料が、将来的に値上がりするだろうと言われています。それを考えると日本の電力供給に組み込むべきでしょう。電力会社にはアプローチしたのですか?」
「主な電力会社には声を掛けたんですが、まだ積極的に協力すると申し出たところはありません」
「これだから日本の電気料金が高いままなのだ」
日本の電気料金は家庭用も産業用も高い、その原因は日本に燃料となる資源がほとんどないからだ。まあ、正確に言うと存在するが簡単に回収できる資源がないという事になる。
それを考えると、D粒子が燃料となる励起魔力発電システムは、日本に存在する資源で発電する事になるので、有望だと思ったようだ。
その後、俺と菅沼社長は励起魔力発電システムについて詳しく説明した。
「分かりました。私が電力会社の尻を叩いて、協力するようにしましょう」
そう約束してくれた高橋長官に、俺と菅沼社長は感謝した。
高橋長官が帰った後、探偵たちの調査を任せた弁護士から報告があった。あの探偵を雇ったのは、柴田電機の勝浦社長だったらしい。
だが、九州から戻った探偵たちは、勝浦社長に調査を中止すると言ったようだ。中止の理由は、あんな恐ろしい人間の調査なんかやっていられないという事だった。
何が恐ろしいだ。失礼な奴らだ。その報告の中で一つ気になるものがあった。探偵の一人が飲み屋で、大阪で凄い物を手に入れたと言ったらしい。しかも、それをブラックオークションに出すと酔っ払って言ったという。
「メティス、どう思う?」
『大阪で凄い物を手に入れたというのが、気になります』
「俺もそうなんだ。あの探偵たちは俺とアリサを尾行していたから、クィーンスパイダーと戦った現場に居たのかもしれない」
『凄い物というのが、クィーンスパイダーの卵だった場合が、怖いですね』
「弁護士に探偵事務所の場所を聞いて、確かめた方がいいな」
『孵化までに時間がないので、早く確かめるべきです』
俺は溜息を漏らして顧問弁護士に連絡した。すると、弁護士が案内するという。その探偵事務所は、弁護士の事務所の近くにあるらしい。
俺は弁護士事務所へ行って、
「あの探偵は、かなり
「どういう意味です」
「調査の途中で知ったスキャンダルを基に、
そんな連中に俺の調査を依頼するなんて、勝浦社長はどういうつもりだ? まさか、そういう探偵しか引き受けなかったのか?
朝霞弁護士の案内で探偵事務所がある小さなビルへ来た。五階建てのビルで、三階に探偵事務所の看板が見える。エレベーターで三階へ上り、その事務所のドアをノックする。
「返事がありませんね」
朝霞弁護士が首を傾げてドアノブに手を掛けると開けた。その時、血の臭いに気付いた。
「朝霞さん、ちょっと待ってください。血の臭いがします」
俺はエルモアを影から出した。
「中を調べてくれ」
エルモアが中に入ると、数秒でエルモアから異変の報せが来た。
『探偵たちが殺されています』
それを聞いて朝霞弁護士と一緒に中に入った。狭い事務所の窓側にデスクがあり、その横に探偵二人の遺体が横たわっていた。
「ひっ」
その光景を見た朝霞弁護士が悲鳴のような声を上げる。二人とも胸から血を流して死んでおり、床には真っ赤な血が広がっていた。
俺は部屋を出て一階の公衆電話から警察に通報した。次に冒険者ギルドの慈光寺理事長に事情を説明する。理事長は邪神眷属対策チームを動かすと約束した。
俺が探偵事務所に戻ると、朝霞弁護士はまだ部屋の隅でへたり込んでいた。
「朝霞さん、警察に通報したので、外で待っていましょう」
「ええ、分かりました」
それから警察が来て騒がしい事になったが、正直に話して解放された。
その後の調査で、大阪から荷物を届けたという宅配事業者が分かり、その荷物の大きさを聞いてクィーンスパイダーの卵ではないかという疑いが増した。
と言っても、俺には捜査権がないので、これ以上調べる事はできない。後は警察と邪神眷属対策チームに任せるしかないだろう。
ただ荷物が卵だった場合、何が目的で卵を持ち去ったのかが気になった。
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