第719話 ジョンソンとハインドマン
二日ほど休養という事でぶらぶらと過ごし、三日目に『神慮の宝珠』を使い『神慮』の躬業を身に付けた。試しに二次人格を作ってみると、『並列思考のペンダント』なしでも作れた。そして、三次人格も作ってみた。
「練習しないと、何だか混乱しそうだ」
二次人格と三次人格から、情報がオリジナルの人格に伝わって来るのだが、二次人格だけの時とは違い混乱しそうになる。ただ『霊魂鍛練法』で大量の情報を処理する鍛錬をしていたので、何とか混乱せずに対応できた。
「実戦で使えそうなのは、二次人格までだな」
『並列思考のペンダント』が必要なくなったので、アリサに譲った。あまり動かずに生活魔法で仕留めるタイプであるアリサには、手数が増える『並列思考のペンダント』は有効だろう。
『神慮』の鍛錬はおいおいやるとして、『魔儺生成器』について調べ始めた。最初に心眼を使って徹底的に調べる。
心眼による解析が終わるまで二日が必要だった。その結果、魔力を魔儺へ加工する方法が分かった。ただ魔力を魔儺へ加工するには大量の魔力が必要であり、それを特性にして魔法を創った場合には魔法レベルが『20』以上になるだろう。
次に『レヴィアタンの小角』を心眼を使って調べ、あのレヴィアタンが使っていた朱色の光線について解析した。その結果、仕組みが理解できたので、魔法で朱色の光線を再現する事もできるようになった。
魔法開発に進もうとした時、メティスが待ったを掛けた。
『魔法で再現する前に、『魔儺生成器』と『レヴィアタンの小角』を使って、魔導武器を作ってみませんか?』
「エルモアに使わせるのか?」
『ええ、防御力の高い魔物に使えると思うのです』
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺がレヴィアタンを倒してから数日後、アメリカのA級冒険者であるジョンソンとハインドマンが来日した。そして、渋紙市まで来た二人と冒険者ギルドで再会する。
冒険者ギルドで俺が出迎え応接室へ案内する。ジョンソンは嬉しそうな顔で再会を喜んでくれた。
「今回の来日は、何が目的なんです?」
駆け引きは面倒だったので、直球で尋ねた。すると、ジョンソンが答えてくれた。
「ドイツの勇者ギルベルト・シュライバーからの情報で、ヴェルサイユダンジョンから消えたレヴィアタンが極東のダンジョンへと移動したのではないかと報告が上がったのだ」
勇者シュライバーはダンジョン通信網へアクセスできるという能力があったのを思い出した。
「具体的なダンジョンが、分かっているんですか?」
「いや、日本、もしくは韓国だという話だった。レヴィアタンは上級以上のダンジョンにある海にしか移動しないから、もう一度念入りに調べてくれ、という依頼なのだ」
ハインドマンが俺に目を向けた。
「日本の冒険者がチェックしたのを信用しないという訳ではないのだよ」
「だったら、どうして?」
信用しないのが正解なんだけど、と思いながら尋ねた。
「アメリカでは、攻略していない階層の海に居るのではないか、と考えている」
「まさか、二人で攻略するつもりなのですか?」
「いや、インドのワイズマンであるバグワン殿が、ダンジョンに居る魔物の強さを調査する魔法を開発したので、それを使う」
バグワンが開発したという魔法は、ダンジョンに入って使うものなのだが、そのダンジョンに居る魔物の強さをランク分けして教えてくれるらしい。ちなみに、巨獣はランクSになるという。
「その魔法は、巨獣が何層に居るかまで分かるんですか?」
「分かる。バグワン殿はダンジョンが何層まで存在するかを、調査する目的で開発したらしい」
アリサが所有する『魔物探査球』と似たような魔法らしい。だが、『魔物探査球』が特定の魔物の居所を全ダンジョンから探すのに比べ、その魔法は一つのダンジョンに居る五大ドラゴン以上の魔物を調査できるらしい。
早めにレヴィアタンを倒したのは正解だったようだ。
「もし、日本のダンジョンにレヴィアタンが居ると分かった場合、アメリカはどうするんです?」
「討伐チームを編成して、倒すだろう」
俺は首を傾げた。
「本当に倒せるのですか?」
「それは分からない。巨獣は化け物の中の化け物だからな。ただ新しい魔法が開発されているので、倒せるかもしれない」
ハインドマンが新しく開発された『ペネトレイトドゥーム』について教えてくれた。『デスショット』に魔儺を組み込んだ魔法らしい。その威力は凄まじく、龍蛇アジ・ダハーカを倒して『御空の宝珠』を手に入れたようだ。
「それは機密じゃないんですか?」
その質問を聞いたハインドマンが苦笑いする。
「そうだったのだが、政権の反対勢力がリークして情報が広まってしまった。アメリカの上流階級では公然の秘密になっている」
「それは野党の誰かが情報を漏らしたという事?」
ジョンソンが頷いた。
「ああ、そのせいで、誰が『御空の宝珠』を使うかで揉めている」
アメリカ軍は軍人の誰かに躬業を習得させて、戦力にしたかったようだ。だが、『御空の宝珠』の事が知れ渡ってしまい、アメリカ軍だけでは決められなくなったという。
「軍は才能のある若い軍人に、『御空の宝珠』を使わせるつもりだったらしいが、議会から反対意見が出ている」
「議会は、誰に使わせようと言うんです?」
「A級二位のブラッドリーだ」
俺は議会が何を考えているのか分からずに首を傾げた。ブラッドリーは三十代後半だったはずだ。そろそろ引退を考える時期なのだ。そんな人物に貴重な『御空の宝珠』を使わせるなど馬鹿げている。それとも邪神がすぐにでも解放されると考えているのだろうか?
「邪神崇拝の残党が、まだ残っているんじゃ?」
「ああ、上の連中もそれを疑って、調べているようだ。まだ『支配のサークレット』が発見されていないので、気にしているらしい」
「まあ、『御空の宝珠』の件は、議会に任せるしかない。ところで、ジョンソンが使っているホバーバイクは、君が提供したんじゃないのかい?」
ハインドマンが尋ねた。俺はジョンソンへ目を向ける。
「喋っていないぞ。彼の推測だ」
ジョンソンの返事で、俺がホバーバイクを提供した事を確信したハインドマンが、自分も購入したいと言い出した。
「『フライ』があるじゃないですか?」
「魔力を消耗するし、精神的にも疲れるんだ」
魔力があっても、長時間『フライ』を使うのは嫌だという。俺はホバーバイクを販売する事に同意した。ハインドマンを味方に付けたいと思ったのだ。
「ダンジョンを調べて、レヴィアタンが見付からなかった場合は、どうするんです?」
ジョンソンが嫌そうな顔をする。
「目標をベヒモスに変える事になる。そのベヒモスだが、メキシコのダンジョンに居るらしい」
メキシコ? あれっ、地中海に面した国の特級ダンジョンじゃないのか? 何かおかしい。
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