第720話 神剣ヴォルダリル

 俺はジョンソンたちと話してから屋敷に戻った。そして、ベヒモスの居場所を確認するために、アリサが所有する『魔物探査球』を借りた。


「何を調べるの?」

 アリサが尋ねた。

「ベヒモスの居場所だよ」

「それなら、リビアじゃないの?」

「ジョンソンから、ベヒモスがメキシコのダンジョンに居ると聞いたんだ」


「誰かが、ベヒモスに戦いを挑んだのかしら」

「リビアには、巨獣に戦いを挑むほどの実力者は、居なかったはずだけど」

 ベヒモスがリビアのダンジョンに居ると分かった時、リビアについて調査したのだ。その調査では、A級ランキングで百位以内に入る者も居なかった。なので、ベヒモスは当分の間は移動しないと思っていたのだ。


 俺は『魔物探査球』を使って探した。すると、『ブレガダンジョンの十二層』という結果を得た。

「おかしいな。ベヒモスはまだリビアのブレガダンジョンに、居るみたいだ」


「だったら、ジョンソンさんの情報が間違いなのよ」

「……どんな魔物を、巨獣と間違えたんだろう?」

「龍蛇アジ・ダハーカみたいに、巨獣に次ぐ巨体を持つ魔物かもしれない」

 アリサが首を傾げた。そんな魔物に心当たりがないからだろう。アリサだけでなく、俺にも該当するような魔物の記憶はなかった。


「新発見の魔物かもしれないな」

「そうね、私たちは全ての魔物を発見している訳ではないから」


 ベヒモスがまだリビアのダンジョンに居ると分かって安心した。あの化け物とジョンソンたちが戦うような事になれば、ジョンソンたちの命が危ないと思っていたからだ。


「そう言えば、驚いた事があった」

「何?」

「ジョンソンさんが、ダンジョンで『才能の実』を手に入れ、生活魔法の才能を『E』に上げたそうだ」


 これにはアリサも驚いたようだ。

「ジョンソンさんは、魔装魔法の才能が『S』なんでしょ。その上で生活魔法の才能を伸ばそうと……自力で『才能の実』を手に入れられると、そんな事もできるのね、羨ましい」


「アリサだって、A級になって百位以内になれば、『才能の実』を手に入れられるようになるさ」


 アリサが幸せそうに微笑んで頷いた。

「私は幸運ね。こんな優しい旦那さんが居るんだから」

 それを聞いた俺は、アリサの肩を抱き寄せる。その時、部屋の外で執事の声がした。


「グリム様、天音様がいらっしゃいました」

「分かった。すぐに行く」

 俺とアリサは食堂へ向かった。食堂で天音とタイチがお茶を飲んでいた。

「あれっ、タイチも来ていたのか」

「はい、グリム先生と天音さんが、神剣の修理をすると聞いたので、見学に来ました」


「それほど面白いものじゃないと、思うけど」

「でも、歴史上初めての事じゃないですか」

 そう言えば、そうだ。記録に残す方が良いんだろうか?

『エルモアに記録映像を撮影させましょうか?』

「そうしてくれ」


 俺たちは新しいグリーンアカデミカの鍛冶工房室へ向かった。この部屋は耐火レンガで造られており、炉や金床もある。しかも炉は朱鋼で造られており、金床はオリハルコン製だった。エルモアが撮影を始める。


 俺は折れている神剣ヴォルダリルを取り出し、柄の部分を分解して剣身部分だけを作業台の上に置いた。それから折れた神剣ヴォルダリルをピタリと合わせ、レヴィアタンの鱗を加工して作った二枚の板で挟み、ジズの羽根を加工して作った紐で縛って固定する。


 天音が炉にコークスと賢者の石を砕いた粉を投入して火を点ける。すると、金色の火が燃え上がった。そこに神剣ヴォルダリルを入れて加熱する。


 金色の炎は神秘的なものに見えた。

「賢者の石が燃えるとは知りませんでした。それにしても、綺麗な炎だな」

 タイチが炉の傍に近付き、金色の炎を覗き込みながら言った。


 加熱した剣身が真っ赤になると、オリハルコン製の火バサミを使って金床まで運ぶ。レヴィアタンの鱗やジズの羽根から作った紐は燃えてなくなっていた。その代わりに折れていた部分が溶融している。但し、剣に刻まれた傷は消えてはいなかった。


「天音、頼む」

 俺が言うと、天音が自在鎚で剣身を叩き始めた。俺が神威エナジーを火バサミに流し込み始めると、神威エナジーが火バサミを通して神剣ヴォルダリルに流れ込む。


 自在鎚が神剣を叩くたびに緑色を帯びた金色の火の粉が飛び散り、剣身に刻まれた傷が少しずつ消え始めた。アリサとタイチは、その様子を取り憑かれたように見ている。


 そして、俺と天音は一心不乱に神剣の修理を続けた。何度も剣身を炉に入れて加熱し、金床で神威エナジーを流し込みながら自在鎚で叩く。


 一時間ほど続けただろうか。天音の自在鎚が神剣ヴォルダリルを叩いた瞬間、眩しいほどの光が放たれた。俺と天音は目を瞑り動きを止める。


 光が消えて目を開けた時、神剣ヴォルダリルの修理が終わっていた。修理が終わったばかりの神剣から、神威エナジーが溢れ出していた。


 俺が注ぎ込んだ神威エナジーではなく、神剣自体が『神の門』から神威エナジーを引き込んでいるようだ。それを目にした者は、ひざまずいて祈りを捧げたくなるような神々こうごうしい気分になる。


「修理が終わったのですね」

 アリサが神剣ヴォルダリルを見詰めたまま言った。

「ああ、傷一つない剣に戻った」


 タイチが俺に視線を向けた。

「この神剣は、どういう力を持っているのです?」

 壊れている状態で心眼を使っても、その機能や効果は分からなかった。だが、この状態なら分かるかもしれない。俺は心眼を使って解析する。


 すると、溢れ出す神威エナジーが巨大な刃となり、すべてのものを破壊して神の力に変えると分かった。まだ意味不明な点があるが、そこまで解析するには時間が掛るようだ。


「鞘を作らないとダメね」

 アリサがポツリと言った。

「そうだな。白輝鋼で作るか。<堅牢><耐熱><耐雷>の特性を付与したものにしよう」


 さて、神剣ヴォルダリルの切れ味を試すには、何が良いだろう?

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