第718話 レヴィアタンのドロップ品
俺はレヴィアタンの巨体が消えた瞬間、体内でドクンという音を聞いた。魔法レベルが『31』になったのだ。この前上がったばかりなのに……それだけレヴィアタンが強かったという事なのだろう。
『まだ鱗と小さな宝箱しか回収していません』
俺は頷いた。それからネレウスと一緒にドロップ品を探した。ダンジョンの海なので、それほど深くはない。途中で休憩を挟みながら、二時間ほど海底を探して魔石とダチョウの卵のようなもの、それに朱色の角を発見した。
俺とネレウスは浮上し、エルモアが操縦しているホバービークルに乗り込んだ。
「ふうっ、疲れた」
『無事に討伐できて、良かったですね』
「ああ、運が良かったのだと思う」
レヴィアタンは俺のような小さな存在に負けるはずがないと、油断していたのではないかと思う。
『巨獣レヴィアタンは、何十年も冒険者の挑戦を退けてきたので、
メティスも同じように感じていたようだ。レヴィアタンがもう少し慎重な戦い方をしていれば、仕留められたかどうか分からない。
「実力かどうかは分からないけど、幸運が転がり込むように努力する事が大事なのかもしれない」
『それにバリア系を使わずに、防御は避けると決めた判断も良かったです』
一つ判断を間違うと死んでいたと思うとゾッとする。
「まあいい。それより安全なところへ移動しよう」
俺たちは十層の転送ルームへ移動した。そこでドロップ品を調べ始める。
最初にダチョウの卵のようなものを鑑定する。その結果、『魔儺生成器』だと分かった。これは魔力を加工して魔儺にするアイテムらしい。
「これは何かに使えそうだな」
『そうですね』
次に朱色の角を鑑定した。長さは一メートルほどでレヴィアタンの角に似ているが、あの朱色の光線を出していた角より小さい。
「これは『レヴィアタンの小角』というらしい。レヴィアタンの角を縮小したもののようだ」
『と言うと、あの光線を出せるのですか?』
「大量の魔儺を注入すれば、出せるだろう」
次に鱗を鑑定すると『レヴィアタンの鱗』で間違いなかった。そして、小さな宝箱を開けると躬業の宝珠が出てきた。それをマルチ鑑定ゴーグルで調べると、『神慮の宝珠』だと分かる。
この躬業は『並列思考のペンダント』の拡大版という感じの力を持っていた。『並列思考のペンダント』は使用者の意識、記憶、知覚、思考などを含む精神機能のコピー版を一つだけ二次人格として作り出せるが、『神慮』は無限のコピー版を作り出す事ができるらしい。
しかも使用者が魔法や魔導装備で思考速度をアップした時は、それに同調して思考速度がアップするという機能まで付いていた。高速戦闘でも使えるという事だ。ただ高速戦闘で簡単な魔法しか使えない事は変わらない。
神らしい力だと思うが、人間に使い熟せるとは思えないものだった。二次人格、三次人格と増やし、それらを使って同時に魔法を放つという事は難しい。
そんなに多数の人格を人間が同時に扱えるのかという問題と、俺の持つ魔力が無尽蔵ではないからだ。そういう攻撃をしたら、一回で魔力が尽きてしまいそうだった。それに周囲から必要なD粒子を集める事もできないだろう。
俺たちは地上に戻り、冒険者ギルドで出雲ダンジョンの九層まで攻略した事を報告した。但し、レヴィアタンの事は報告しなかった。
その後、温泉がある宿に泊まって疲れを癒やし、翌日に渋紙市に戻った。屋敷の作業部屋で寛いでいると、アリサが入ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいま、疲れたよ」
俺はニコリと笑って言った。
「その顔だと、レヴィアタンを倒せたのね」
俺は笑顔で頷いた。アリサにはどこでレヴィアタンを狩るのか教えなかったが、目的は打ち明けていた。
「何とか倒せたよ。だけど、巨獣であれだけの覇気を放ち、恐怖を覚えるほどのプレッシャーを放てるのなら、邪神だとどうなるんだろうと、怖くなった」
アリサが真面目な顔で頷いた。
「邪神は、人間が手を出してはいけない相手なのかも」
「でも、封印が破れたら、戦う事になるかもしれない」
「邪神が解放されたら、最初に何をすると思う?」
「そうだな……まずは長年の封印で弱っているだろうから、温泉に行って美味しいものを食べて、休養を取るかな」
アリサが俺を睨んだ。
「それは、邪神じゃなくて、あなたでしょ」
俺が笑うとアリサも『仕方のない人ね』という感じで笑う。それからレヴィアタンのドロップ品として、何を手に入れたか教える。
「次は神剣ヴォルダリルの修理だ」
「その修理する方法だけど、自分で鍛冶をする訳じゃないのよね?」
「俺に鍛冶なんてできないよ。天音に手伝ってもらう事になる」
天音は『自在鎚』という金属を自在に加工できる魔道具を手に入れたという話なので、その『自在鎚』と加工の技術を借りたいのだ。
と言っても、すぐに修理を行うつもりはない。俺も休みたいし、天音の都合もあるだろう。二、三日休んでから、何をしよう?
アリサが俺の顔を覗き込む。
「暇だったら、『魔儺生成器』が何に使えるか研究したら」
「そうだな」
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