第715話 神威エナジーの魔法

 俺とアリサは新しい魔法について話し合い魔法の方向性を決めた。賢者システムを立ち上げ、新しく追加された機能を使って神威エナジーを使った魔法を創り始めた。


 創り始めて分かったのだが、神威エナジーを特定の形の力場にするのが極めて難しかった。俺がまだ神威エナジーを扱い熟していないだけかもしれないが、神威エナジーにより刃の形の力場を形成するのは無理なようだ。


「仕方ない。シンプルな棒の形にしよう」

「それだと切れなくなるのでは?」

「パワーだけはあるから、撃ち出すスピードを速くすればかち割る事ができるだろう」


 神威エナジーで細長い力場を形成した。太さが三センチ、長さが八メートルというものだ。これが鉄の棒なら、ドラゴンクラスの魔物に叩き込むと折れてしまうだろう。


 だが、神威エナジーの力場なら折れる事はない。ブラックホールでも真っ二つにするはずだ。但し、真っ二つになったブラックホールは、すぐに一つに戻るだろう。


 俺は再生能力が高い魔物を考慮し、その真っ二つに切られたものが弾け飛ぶ感じで神威エナジーのパワーが働くようにイメージして魔法を創り上げた。


 俺はその威力を試すために鳴神ダンジョンへ向かった。バタリオンの鍛錬ダンジョンでは危ないと感じたのだ。


「ちょっと楽しみ」

 アリサがワクワクした感じで一緒に付いて来る。初めて創った神威エナジーを使った魔法の威力を見てみたいというのである。


 俺たちはダンジョンハウスで着替え、ダンジョンに入ると一層の転送ルームから二十層へ移動した。二十層の転送ルームは、巨大なカルデラの中央付近にある。カルデラは直径が二十キロほどで、その中央に中ボス部屋があるドーム状の建物と転送ルームがある。


 転送ルームの外からカルデラの外縁部分までの距離は、約十キロのはずだ。俺は準備を始めた。『並列思考のペンダント』を首に掛け、二次人格を作り出す。


 次に神威月輪観の瞑想を行い神威の源泉に繋がる『神の門』を開いた。俺の身体に神威エナジーが流れ込んできた。


 少し離れた場所で見守っていたアリサは、険しい顔を俺に向けている。俺は新しい魔法を発動した。俺の体内に流れ込んでくる神威エナジーが、体外へと流れ出して一本の細長い力場を形成する。


 それは一本の緑色に輝く線に見えたので『エナジーライン』と呼ぶ事にした。エナジーラインは俺の意識と繋がっており、その進行方向を制御できるようだ。


 俺はカルデラの外縁部分を狙って撃ち出した。その瞬間、空気を切り裂く轟音を発してエナジーラインが撃ち出される。神威エナジーの強大なパワーで撃ち出されたエナジーラインは、大気を切り裂き砂塵を舞い上げながら外縁部へと飛翔したが、俺の目には突然消えたようにしか見えなかった。


 感覚では一秒ほどで外縁部の土砂に命中し、それを切り裂いて消えた。その直後、切り裂かれた部分が爆発したように吹き飛ぶ。


 土煙が高々と舞い上がり、俺の立っている地面が揺れた。

「きゃああ」

 アリサが可愛い悲鳴を上げる。俺はアリサに駆け寄って支えるように抱いた。揺れが収まり土煙が晴れた時、外縁部に大きな裂け目が出来ていた。


 アリサは驚きながら裂け目を見詰める。

「地形が変わっているじゃない」

「神威エナジーを使っている、という以外はシンプルな魔法なんだけど、威力は凄まじいな」


 本当に威力は凄まじいけど、まだまだ神威エナジーを活かしきれていない魔法だという感じがする。ただ新しい魔法の良い点は、シンプルなので早撃ちができるという点だ。


 D粒子を使っている訳ではないので重ね合わせる事ができず、多重起動はできない。だが、新しい魔法の早撃ちで攻撃すれば、ほとんどの魔物を倒せるだろう。


「新しい魔法の名前は決めたの?」

「そうだな。『神威閃斬かむいせんざん』にしようかと考えている」

「なるほど、グリムだけの魔法になるから、その名前にしたのね?」

「そういう事だ」


 アリサが首を傾げた。

「でも、『神威閃斬』は海中でも使えるの?」

 今回は神威エナジーを使った魔法という目的の試作のようなものだったので、海中で使えるかどうかは考えてもいなかった。


「試してみないと分からない」

「だったら、二十四層の海で試してみましょうか?」

「そうだな、試してみよう」

 俺とアリサは転送ルームに戻り、二十五層へ移動した。そこから最短ルートで階段へ向かい二十四層へ上がる。二十四層の海で試すのは、ここで活動している冒険者チームは居ないと聞いていたからだ。


 俺は『アクアスーツ』を使ったが、アリサは『ライトアクアスーツ』を使う。『ライトアクアスーツ』は、『アクアスーツ』と比べると最高時速や航続距離が劣っているが、プチロドンや巨大ウツボと戦うのに十分な性能を持っていた。


 二十四層の海面に浮上したアリサは、ホバーバイクを出して乗ると空中に飛び上がった。俺だけが海中に残り、新しい魔法の準備をする。


 二次人格が神威月輪観の瞑想を行い、神威エナジーを取り込めるか確かめると可能だった。二次人格も俺の魂と直結しているので成功したのだろう。その神威エナジーを使って『神威閃斬』を発動する。ちょうどプチロドンが居たので、そいつを標的に決めた。


 海中に緑色に輝く神威エナジーの細長い力場を形成し、それを撃ち出す。水の抵抗で速度が落ちるかもしれないと考えていると、突然渦巻きが発生して巻き込まれた。


 エナジーラインはプチロドンを両断し、海の彼方に消える。俺は渦の中から脱出しようとしながら、プチロドンが真っ二つになる瞬間を目撃した。


 海面に浮上してアリサと合流すると、アリサからどう見えたかを確認する。

「突然、海面が盛り上がって、それが一直線に進みながら白い航跡みたいなものを残したのよ」


 『神威閃斬』は海中でも使えるようだ。但し、やはりスピードは落ちたように感じた。と言っても、海中で機敏に動くような小さな魔物に使うような魔法でもないので、十分なスピードだろう。


 それから何回か試してみたが、海中でも十分に使えると判断した。ただ発生する渦に巻き込まれないように、撃ち出した直後に後ろに全速で移動する必要があると分かった。


 俺はアリサと合流した。

「その魔法で巨獣レヴィアタンを、倒せるの?」

「命中すると思うんだけど、倒せるかどうかは分からない」

 レヴィアタンの防御力が、どれほどなのか分からないからだ。問題なのはそれを試せないという事だ。試してダメだった場合、レヴィアタンは別のダンジョンへ移動してしまうだろう。


 『スキップキャノン』と『クロスリッパー』の海中バージョンである『スキップハープーン』と『アクアリッパー』、それに『神威閃斬』があればレヴィアタンも倒せそうだと思うが、確信はなかった。


 俺たちは地上に戻り、屋敷で話し合った。その時、ジョンソンから電話があり、来週ハインドマンと一緒に来日するという。


「ジョンソンとハインドマンは、アメリカの討伐チームのメンバーだったはずだ。もしかすると、出雲ダンジョンにレヴィアタンが居る事がバレたのか?」


 そうだとすると、レヴィアタンとは早めに戦わないとチャンスがなくなるかもしれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る