第716話 レヴィアタンの攻撃
次の日、俺は冒険者ギルドへ行って支部長と面会した。
「支部長、A級十一位のジョンソンから電話があり、ハインドマンと来日すると聞いたのですが、何か情報を持っていますか?」
「日本のダンジョンで、しばらく活動すると聞いている」
やはり出雲ダンジョンのレヴィアタンを狙っているのだろうか? アメリカも『魔物探査球』を持っているのか? いや、持っているのなら調査依頼を出すはずがない。
「そうですか。何が目的なんだろう?」
「気になるのかね。だったら、本人に確認すればいい」
俺は苦笑いした。
「そうですね」
「ところで、先日魔法庁に登録した『キャプチャー』が、正式に登録されたという知らせが来たよ」
以前は俺の名前で生活魔法を登録すると、審査に長い時間が掛かったものだが、最近では大幅に短縮されている。魔法庁でも生活魔法用の人材を増やし、審査時間の短縮に力を入れているらしい。
なぜかというと、賢者である俺の影響もあるのだが、生活魔法が儲かるようになったからだ。世界中で生活魔法を習得しようという者が増えており、日本の魔法庁に流れてくる金が無視できない大金となっているのである。
「習得しようと思う者が多ければ、いいんだけど」
支部長がニヤリと笑う。
「あの魔法は、様々なところから関心を持たれているそうだ」
「どういう事です?」
「捕縛の魔法だから、警察や警備会社、野生動物の保護活動をしている団体にも、習得したいという者が居るらしい」
こういう報せを聞くと嬉しい。まだまだ魔装魔法や攻撃魔法には追い付けないが、着実に生活魔法使いの数が増えている。
俺は支部長と別れ、鳴神ダンジョンへ行って『神威閃斬』の練習を行った。特に早撃ちの練習を重点的に行う。二日ほどの練習で何とか早撃ちができるようになった。もちろん、最低限のレベルである。
「挑戦の時だ」
俺はレヴィアタンに戦いを挑む事にした。準備をして出雲ダンジョンへ向かう。『フライトスーツ』で出雲まで飛んで、ホテルに一泊した。
『レヴィアタンに勝てるでしょうか?』
メティスが問い掛けた。
「分からない。ただ負けない準備はできたと思っている」
出雲ダンジョンに入った俺は、一層の転送ルームから十層へ移動する。転送ルームの外に出ると荒野が広がっていた。遠くにローマ帝国の円形闘技場のような建物が見える。
『レヴィアタンとは、一人で戦われるのですか?』
「レヴィアタンにダメージを与えられる攻撃手段を、ネレウスは持っていないからな」
『しかし、サポートくらいはできると思います』
メティスは、ネレウスをサポートとして一緒に戦わせるように勧めた。そして、ネレウスを制御する指輪を貸して欲しいという。メティスがネレウスに指示を出してサポートする気らしい。
俺は了承して指輪をメティスの本体が入っている巾着袋に入れた。九層へ上がる階段に向かい、その階段を上がって九層の広大な海を目にした。
俺は影からエルモアと為五郎、ネレウスを出す。
『撤退する時のために、ホバービークルもお願いします』
「分かった」
俺はホバービークルを収納アームレットから出した。それから戦う準備をすると、ダンジョンの海を見詰める。この海の中にレヴィアタンが居るのだと考えると、戦うのが怖くなった。
「あんな化け物と戦うなんて、俺はおかしいのかな?」
俺はメティスに尋ねた。
『邪神の存在がなければ、おかしいと思ったかもしれませんが、邪神対策を考えれば必要な事です』
「しかし、俺でなくても、いいんじゃないか?」
『……そうですね。でも、レヴィアタンを倒せるとしたら、グリム先生だけだと思いますよ』
「そうなのかな。俺はA級九位の冒険者だぞ。俺の上には八人も居るんだ」
『A級ランキングは、冒険者ギルドへの貢献度を重視しますから、実力順ではないです。実力なら、グリム先生が一番だと思います』
生活魔法の発展を願って生きていたはずなのに、いつの間にか目標と違う事をしているような気がする。何だか腹が立ってきた。恐怖という感情が一周回って怒りへと転じたようだ。
「これを仕組んだのが、邪神かダンジョン神だとしたら、その対価を払って欲しいものだ」
『神に対して厳しいですね?』
「その神たちは、外から来た神だろ。人類が従属している訳じゃない」
『ですが、人類と神たちでは、その存在自体、『格』というものが違うのではないかと考えています』
神威や心眼などを普段から使っている神が、人類とかけ離れた別の存在だというのは理解できる。だが、人類が無条件に神に従わなければならないとは思わない。邪神やダンジョン神は、キリスト教やイスラム教などのような一神教の神の全知全能の存在ではないからだ。
「まあいい、こんなところで哲学的な事を考えても仕方ない」
俺は『並列思考のペンダント』で二次人格を作り、『神の門』から神威エナジーを手に入れる。そして、『アクアスーツ』を発動して海に飛び込んだ。
レヴィアタンの位置は、何となく分かった。凄まじい存在感を放つものが居たからだ。俺はその方向へ進んだ。後ろからネレウスが付いて来る。
しばらく進んでレヴィアタンを発見した。全長六十メートルの海の巨獣である。レヴィアタンから見た人間は、トノサマバッタほどの大きさの存在として認識されるだろう。
それほど脅威だとは思えないはずだ。ところが俺に気付いたレヴィアタンが、こちらに向かって泳ぎ始めた。
『レヴィアタンは、我々を敵だと認識したようです。先制攻撃を』
俺は『神威閃斬』を発動し、神威エナジーの細長い棒であるエナジーラインをレヴィアタンへ向かって放った。その直後、渦に巻き込まれないように後ろに移動する。
エナジーラインは絶大なパワーで海水を切り裂いて直進し、その背後に渦を巻き起こす。レヴィアタンは避けようとしたのだが、その巨体が移動するには時間が掛かる。エナジーラインは、レヴィアタンの背中を切り裂き、深さ三メートルほどの傷を刻んだ。
レヴィアタンは痛みを感じて激怒し、巨体から漏れ出す覇気が膨れ上がった。そして、大量の海水を吸い込み、それを一気に俺に向かって吹き出す。その海水は魔儺を含んでおり、レヴィアタンの意思に従い渦を巻き始めた。それがこちらに向かって来る。
ヤバイと思い全速で逃げたのだが、追い付かれて渦に飲み込まれてしまった。その時、キラーオストリッチがホバービークルに撥ねられた時に発する『アッレーッ!』という声が、俺の頭の中に繰り返し浮かんできた。
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