第713話 龍蛇アジ・ダハーカとの戦い

 ジョンソンたちは、龍蛇アジ・ダハーカが放つ覇気に耐えながら前に進んだ。ジョンソンはチラリとクレイトン大尉たちへ視線を向ける。


 クレイトン大尉たちは無表情で進んでいるが、その顔には汗が噴き出ていた。アジ・ダハーカの覇気を感じているのだ。カーディフ少尉が収納リングから対戦車ミサイルを取り出し、使い慣れている感じでアジ・ダハーカに向かって発射した。


「えっ、マジか」

 ジョンソンが驚きの声を上げた。アジ・ダハーカほどの化け物になると通常兵器は通用しないというのが、常識になっていたからだ。


 ミサイルはアジ・ダハーカの長い胴体に命中して爆発したが、ほとんどダメージを与えられなかった。カーディフ少尉は唇を噛み締めて結果を受け止めたようだ。軍人であるカーディフ少尉は、現代兵器の威力を期待していたのだろう。


 アジ・ダハーカから、低いギギギッという音が聞こえ始めた。その時、ジョンソンは龍蛇の口に注目した。その口から青白い光が漏れ出ている。


「ブレスが来るぞ!」

 『音速の狩人かりうど』と呼ばれているブラッドリーが警告の声を上げると、ジョンソンたちは素早く散開した。


 アジ・ダハーカの口が大きく開き、強烈な稲妻が吐き出された。魔装魔法使いたちは素早さを強化して稲妻ブレスの範囲から逃げ出し、攻撃魔法使いは『フライ』を使って避けた。


 五秒ほどで稲妻ブレスが止まったのを確認したジョンソンは、全員が無事なのを確認した。そして、反撃のために高速で移動しながらアジ・ダハーカの胴体に近付く。その直後、ジョワユーズに魔力を注ぎ込むと次元断裂刃を形成し、アジ・ダハーカの胴体に振り下ろした。


 次元断裂刃が強靭な鱗に食い込みギシギシと音を響かせながら、それを切り裂いていく。普通なら簡単に切り裂いてしまう次元断裂刃なのに、アジ・ダハーカの鱗は非常識なほど抵抗する。もしかすると、魔法的な抵抗力が付与されているのかもしれない。


「クッ、浅い傷を負わせただけか」

 ジョンソンの攻撃に気付いたアジ・ダハーカが、鎌首をもたげて威嚇する。ジョンソンは背中に羽が生えているかのように後方へ跳んだ。


 アジ・ダハーカの動きを観察していたハインドマンが『ブラックホール』を発動し、疑似ブラックホールを放った。アジ・ダハーカは疑似ブラックホールを尻尾で弾き飛ばそうとした。


 だが、その尻尾を疑似ブラックホールは吸い込もうとする。真っ黒な空間に尻尾が引きずり込まれると、アジ・ダハーカが暴れ始めた。疑似ブラックホールとアジ・ダハーカの綱引きが始まり、それが拮抗する。


 それを見たクレイトン大尉たちは、チャンスだと考えたようだ。それぞれが魔導武器を持ってアジ・ダハーカの頭に向かって風のように駆け寄る。


 それに気付いたアジ・ダハーカが、燃えるような目で睨んで口を開けた。

「まずい、避けろ!」

 クレイトン大尉が叫んで横に跳んだ。その声でアーキン少尉も跳んだ。だが、一瞬だけカーディフ少尉の回避が遅れた。


 次の瞬間、アジ・ダハーカの口から稲妻ブレスが吐き出され、カーディフ少尉の身体が稲妻を浴びた。断末魔の声が響き渡り、黒焦げのカーディフ少尉が地面に倒れる。


 カーディフ少尉の名前を叫ぶクレイトン大尉に、アジ・ダハーカが稲妻ブレスを向けようとした。その時、ブラッドリーが目では追い切れないほどのスピードで近付き、巨大な眼球に愛剣リジルを突き刺した。


 リジルは北欧神話に出て来る魔導武器で、ネームドドラゴンである『ファフニール』を倒した事もあった。ブラッドリーは眼球を突き刺した後に魔力を流し込んで、リジルの必殺技である『翔閃撃』を撃ち出そうとしたが、稲妻ブレスを吐き出しながらアジ・ダハーカが頭を振り始めたので後方に跳んで避難する。


 ブラッドリーが眼球を攻撃したのを見たジョンソンは、さすがA級二位だと思った。疑似ブラックホールは時間切れで消えたようだ。ただアジ・ダハーカの尻尾がなくなっているので、ダメージを与えたらしい。


「新魔法を使う。時間を稼いでくれ」

 ハインドマンが大声を上げた。ジョンソンたちは怒り狂ったアジ・ダハーカの周囲に集まり、それぞれの武器で攻撃を始めた。


 アジ・ダハーカは頻繁に稲妻ブレスを吐き出し始め、ジョンソンたちは全力で逃げながらもアジ・ダハーカの近くから離れる事はなかった。


 ジョンソンたちが必死で時間を稼いでる間に、ハインドマンが新しい攻撃魔法である『ペネトレイトドゥーム』を発動する。大量の魔力を注ぎ込んで発動した魔法は、魔力を特殊な方法で圧縮加工して魔儺を作り出した。そして、その魔儺が徹甲魔儺弾を形成する。


「離れろ!」

 ジョンソンたちがアジ・ダハーカの傍から離れた瞬間、徹甲魔儺弾が撃ち出された。音速の十数倍のスピードで衝撃波を撒き散らしながら飛翔した徹甲魔儺弾がアジ・ダハーカの頭に命中し、あれほど頑丈だった鱗をあっさり貫通して脳を破壊した。


 巨大な体躯から力が抜け、血が噴き出る頭が地面に叩き付けられた。轟音が響き渡り、土煙が舞い上がる。その土煙が消える前に、アジ・ダハーカが光の粒となって消える。


 ジョンソンがハインドマンの傍に来て肩を叩く。

「お見事、新しい魔法は使えるな」

 ハインドマンが苦笑いする。

「いや、威力はあるが、発動するまでに時間が掛かるので、使い難い魔法なのだ」


「ステイシー本部長が創った魔法なら、改良してくれるんじゃないか?」

「ああ、そう言ったのだが、改良には時間が掛かるという話だ」

 ジョンソンは頷いた。


 クレイトン大尉たちは、カーディフ少尉の名前を呼びながら駆け寄った。地面に横たわるカーディフ少尉の心臓は止まり、死んでいるのは明らかだった。


「カーディフ少尉、済まない」

 クレイトン大尉が遺体に頭を下げながら呟いた。それを見たブラッドリーが、ハインドマンたちのところへ来て、ドロップ品を探そうと提案する。


「そうだな。他の魔物が来ないうちに回収しよう」

 ハインドマンとジョンソンも賛同して探し始めた。


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