第712話 龍蛇アジ・ダハーカ

 アースドレイクのドロップ品は、魔石と伝説級の槍だった。剣が得意なジョンソンは、あまり注目する事はなかった。その後、二層への階段を見付けて下りる。


 討伐チームは二層、三層、四層と順調に進み、五層まで下りた。五層は広大な砂漠だった。目に入るのは波模様になっている砂の海で、建物は一つもない。


「階段は砂漠の奥にある」

 ハインドマンが言うと、ジョンソンは嫌そうな顔をする。

「距離はどれくらいだろう?」

「資料には、およそ七十キロとあった。読んでいないのか?」


「読んだけど、数字は忘れた。ここで遭遇する魔物は、サンドギガースと朱鋼ゴーレムか。魔装魔法使いとは相性が悪いな」


 それを聞いてハインドマンが笑う。

「しかも、階段の近くには、クラッシュスライムが居る」

 クラッシュスライムというのは、総重量が五トンほどもある巨大なスライムで、その巨体で四メートルほどジャンプするらしい。その下敷きになれば、人間など簡単に潰れてしまう。


「クラッシュスライムは任せる。それより、皆は砂漠の移動手段に何を用意したんだ?」

 軍は軍用装甲車を用意したらしいが、重すぎて砂漠の走行には向かないと冒険者たちが拒否した。そこで冒険者には自分で用意するようにという通達が出た。


 ジョンソンの場合、冒険者用装甲車とホバーバイクを持っている。どちらにするかと考え、七十キロという距離を考慮してホバーバイクで飛ぶ事にした。


 A級二位のブラッドリーとハインドマンは、一人乗り用ヘリコプターを出して飛んでいった。クレイトン大尉たちは冒険者用装甲車に乗って出発する。


「さて、行くか」

 ジョンソンはホバーバイクを取り出し、ヘルメットを装着してからホバーバイクに乗ると飛び上がる。徐々にスピードを上げて時速二百キロに達すると、そのまま砂漠の奥を目指して飛ぶ。砂漠を走る装甲車を追い越し、階段から少し離れた場所に着陸する。


 空から見た時、誰も居ないようだったので、いつの間にかハインドマンたちも追い越したようだ。階段とジョンソンが居る場所の間に砂丘があり、その砂丘の向こう側にクラッシュスライムが居た。空から確認しているので間違いない。


 ジョンソンは砂丘に登り、その頂上から階段を見下ろす。階段の横にクラッシュスライムが待ち構えていた。

「スライムの核を壊せば、あのクラッシュスライムも倒せるんだろうが、魔装魔法使いは核の位置を見付けるのが、苦手なんだよな」


 こういう場合の魔装魔法使いの戦い方は単純だ。核に当たるまで何度でも攻撃するというものである。


「まあ、無理をする事はないな。ハインドマンたちが到着するのを待とう」

 それから三十分ほどでハインドマンが到着した。

「まだクラッシュスライムを倒していなかったのか?」

 ジョンソンがニヤリと笑う。

「獲物を独り占めにするほど、強欲な人間じゃないんですよ」


「面倒だから、他人に押し付けようと考えていたんだろう」

「正解。ああいう魔物は、攻撃魔法使いが得意でしょ」

 ハインドマンは肩を竦めると、クラッシュスライムに向かって歩き始めた。そして、『フリーズボム』を発動し、白く染まった魔力の砲弾を放った。


 白い砲弾がクラッシュスライムに命中すると、その周囲の温度が零下二百度となる。まずクラッシュスライムの表面が凍り始め、それがゆっくりと魔物の内部まで浸透する。ハインドマンは、クラッシュスライムがジャンプする隙を与えずに倒した。


 クラッシュスライムが消えるのを見届けたジョンソンが、ハインドマンの横に並んだ。

「お見事、助かりました」

「そう思うなら、ドロップ品を探してくれ」

 ジョンソンは頷き、一緒に探し始めた。そして、魔石と巻物を発見する。


 ハインドマンは二つのドロップ品を手にして首を傾げた。

「特級ダンジョンにしては、渋いな」

「ちょっと待ってください」

 ジョンソンは『マジックストーン』を発動した。すると、彼の手の中に指輪が飛んで来た。


「これもドロップ品のようです」

 ジョンソンが指輪をハインドマンに渡す。その指輪を鑑定モノクルで調べたハインドマンが呟いた。


「『解毒の指輪』だ。……その『マジックストーン』を習得するためだけでも、生活魔法を勉強する価値があるのかもしれんな」


 巻物は『フレアバースト』という攻撃魔法の巻物だった。ハインドマンが少し残念そうな顔をする。すでに習得済みの魔法なのだ。


 ハインドマンがクラッシュスライムを倒して十分ほどした後に、ブラッドリーが到着。それからかなり待った頃にクレイトン大尉たちが到着した。


 ジョンソンたちは最短ルートを通って六層、七層、八層を攻略。そして、九層では雷神ドラゴンを全員で倒し、いくつかのドロップ品を手に入れた。そのドロップ品の中に、神話級の魔導武器である魔剣カラドボルグがあった。


 取り敢えず、リーダーのクレイトン大尉が使う事になり、詳細を調べる。すると、魔力を流し込むと魔力刃を形成する剣である事が分かった。ただ伝説級などとは切れ味が違うらしい。小さな岩山なら、真っ二つにするほどの威力があるという。


 ジョンソンたちは、九層で野営して魔力の回復と身体を休めた。

 その翌日、十層へ下りたジョンソンたちは龍蛇アジ・ダハーカを探した。二時間ほど探した頃に、広大な荒野の中にある火山の火口かこう付近で長大な蛇のようなアジ・ダハーカを発見した。


 全長が五十メートルほどで幅が三メートルもあるドラゴンだ。その姿はどちらかというと東洋の龍に似ていた。小さな翼を持っているが、飛べるとは思えない。


「実物を見ると、アジ・ダハーカの強さを感じる」

 巨獣などと同じように、何か覇気のようなものを感じたジョンソンたちは、胸が締め付けられるような圧迫感と恐怖を味わった。


「あれを一人で倒したヒュームは、凄いな」

 ジョンソンが正直な感想を言った。

「準備しろ」

 クレイトン大尉が声を上げた。ジョンソンはいくつかの指輪とジョワユーズを取り出して装備する。戦いの準備が終わったジョンソンたちは、作戦の確認をしてから龍蛇アジ・ダハーカの前に進み出た。



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【あとがき】


 2022年も今日で最後となりました。今年は『生活魔法使いの下剋上』が書籍化されるという嬉しい事がありましたので、良い年となりました。これも皆さんの応援の御蔭だと思っております。

 本当にありがとうございました。


 来年からの投稿なのですが、元日から三日までは休んで、四日からになります。


 良いお年をお迎えください。           月汰元


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