第703話 屋敷での雑談
日本に戻った俺は、屋敷の食堂に座るとホッとした。その様子を見ていたアリサが俺の横に座る。
「成果はあったの?」
「ああ、躬業を一つ手に入れた」
それを聞いてアリサが驚いた。世界中でも躬業は数個しか知られていない貴重なものだったからだ。俺がどうやって手に入れたのかを、アリサに話した。
「A級三位のレベッカさんも、新しい躬業を手に入れたのね。どういう躬業だったの?」
「そうだな。『魔儺』という励起魔力に破邪の力がプラスされたようなものだ」
「励起魔力か。躬業というから、もっと凄い力なのかと思ったけど、そうでもないのね」
「躬業は、ダンジョン神が使っていた力や権能を取り出したものだから、その中には優劣があるさ」
「そう言えば、『神言』も人間が習得した精神防御の技で防げたから、ちょっと違和感を覚えていたのよ」
俺は『神言』について考えた事がある。ピゴロッティが使っていた『神言』は不完全なものだったのではないかという事だ。ダンジョン神も『神言』を使う時、何らかのエネルギーを使ったはずである。それは神威エナジーか魔儺だったのではないか。
ピゴロッティは神威エナジーも魔儺も持っていなかった。結局、魔力で代用する事になっただろう。その事をアリサに言うと、アリサが納得したというように頷いた。
「本当の『神言』なら、どういう事ができたのかな?」
「ダンジョン神と同等の力を持つ存在以外は、逆らう事はできなかったと思う」
「同等の存在というと、邪神?」
「そうなるかな」
アリサは邪神という存在を認めているが、理解できない存在だと思っているようだ。
「邪神は人間の事を、どう思っているのかしら?」
「利用できる
アリサが首を傾げた。
「邪神なんだから、滅ぼしたい敵だと思っているのではないの?」
「でも、邪神ハスターは、地球で生まれた存在じゃないと言われている。人間の事なんか、眼中にないんじゃないか」
別の星で生まれた存在なのだから、地球で生まれた人類など気にもしていなかったと思う。だが、ダンジョン神に封印された事が切っ掛けとなって人類に気付き、一部の人間を駒として使うようになったのだと推測している。それをアリサに言うと考え込んでしまった。
「ダンジョン神が殺す事ができず、封印するしかなかった存在を、人間がどうにかできるものなの?」
その言葉を聞いて溜息が漏れた。人間が邪神を倒せる確率は、ほとんどないと思っていたからだ。
「巨獣を倒すのも難しいのだから、現状だと無理だな」
「邪神が復活したら、どうなるの?」
「分からない。またダンジョン神と邪神の戦いが始まるのかも」
それがどんな戦いになるのか、想像もつかない。それに少し気になる事がある。ドロップ品やダンジョンで発見された石碑などの情報から、ダンジョンが人間と邪神を戦わせるよう誘導しているように思えるのだ。
ダンジョンで冒険者を鍛え、様々な戦う手段を提供している。その上ダンジョン神の力や権能の一部まで人間に与えている。そこに何かの意図があるとしか思えない。
とは言え、ダンジョン神の考えなど分かるはずもないので、推測するのは諦めた。ただ邪神が現れた時に、撃退できるだけの戦力は用意しておかなければならない、と最近では考えるようになった。
「ところで、前に手に入れた『並列思考のペンダント』は使っているの?」
アリサが唐突に話を変える。
「ああ、使ってみたが、変な感じだ。頭の中に自分がもう一人増えたように感じるんだ」
『並列思考のペンダント』に魔力を流し込むと、二つの事を同時に考えられるようになる。但し、これは脳を使っている訳ではないらしい。
人間の魂や精神に直結する形で魔力回路で構成された人工頭脳のようなものを高次元空間に作り上げ、それに使用者の思考パターンをコピーして思考させるらしい。
「その人工頭脳みたいなものは、一つだけなの?」
「『並列思考のペンダント』で作れるのは、一つだけらしい。それでも使い熟せるようになれば、二つの魔法を同時に使えるようになる」
『並列思考のペンダント』を使い熟せるようになれば、大きな戦力アップになる。ただ使い熟すには、厳しい修業が必要らしい。
「あっ、二人でイチャイチャしてる」
食堂に入ってきたモイラが声を上げた。俺は苦笑してモイラに目を向ける。
「話をしていただけじゃないか。それよりモイラの修業はどうなんだ?」
モイラは嬉しそうに笑った。
「順調よ。魔法レベルも『14』に上がったんだから」
最近のモイラは、アリサや
「魔法レベルが『14』というと、『ブーメランウィング』や『クラッシュボールⅡ』が使えるようになったんだ」
「そうなんです。『ブーメランウィング』はいいですね」
モイラは高速でダンジョンの空を飛ぶ『ブーメランウィング』にハマったらしい。生活魔法使いたちは、生活魔法で空を飛べるようになると、政府から許可をもらったダム湖で練習を始める。
このダム湖は、飛行の練習だけなら誰でも使っていい事になっている。但し、使用しているのはほとんど生活魔法使いである。
そして、シュンたちが『ウィング』を使った競技会を計画しているらしい。スピードを競う競技やアクロバット飛行を競うもの、そして、ペイント弾を使った模擬戦という感じで行う事を考えているようだ。
初めての事なので、シュンたちは小さな大会にしようと考えていたらしいが、テレビ局が嗅ぎつけてスポンサーをかってに探してきて、大々的に行う事になったらしい。
その御蔭でシュンたちは大変らしいが、楽しそうに準備をしているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます